第22話 特殊能力者
「モールス。聞こえるか。ユングと話したい」
突然にエッフェルがひとりで呟いた。
「了解。こちらモールス。ユングにつなぐ」
男性の声がどこからか聞こえた。
「ユング。久しぶりだな。ちょっと手伝って欲しいことがある。公園に来てくれ。お礼に今晩の食事を奢るよ」
エッフェルが楽しそうに言った。
「ヒマだからいいぞ」というまた別の男性の声がどこからか聞こえた。
しばらくしてひとりの男性が歩いて公園にやって来た。
メガネをかけていて、少しヒゲを生やしていた。
「ユング。呼び出して悪かったな」
エッフェルがユングに言った。
「それは構わないが、ところで何の用だ?」
「やかんって知っているか?」
「知らない」
「この女の子の頭の中のやかんのイメージを私に伝えてくれ」
エッフェルがダザイを指差しながら言った。
「君はやかんを実際に見たことがあるのか?」
ユングがダザイに聞いた。
「ありません」
ダザイはしばらく考えてから答えた。
そう言えば自分がどこでやかんを知ったのか思い出せなかった。
「どこでやかんの存在を知ったのだ? 本で読んだのか?」
「分からないですけど、なぜか知っています」
ダザイはうつむいて答えた。
「前世の記憶が残っているのかもしれないな」
エッフェルが言った。
「とりあえずやってみるよ。君は頭の中でやかんを思い浮かべてくれ」
ユングがダザイに言った。
ユングはしばらく目を閉じていた。
ダザイはやかんの形状を思い浮かべていた。
「あー。なるほど。何となく分かった。じゃあエッフェルともイメージを共有するぞ」
しばらくしてユングが言った。
「変な形だな。随分と丸いな」
エッフェルが笑った。
「私も初めて知ったよ」
ユングも笑った。
「よし。これで錬成できるぞ」
エッフェルが張り切って言った。
「本当ですか?」
ダザイの胸は弾んだ。
「うん。ただしこの町で売れるかは責任を持てないが」
「今晩ギルドに来てくれ。一緒に食事をしよう」
エッフェルがユングに声をかけた。
「それではまた後で」
ユングは颯爽と公園から出て行った。
ダザイは特殊能力についてエッフェルに聞きたいことが山ほどあった。
しかしとりあえず黙ってエッフェルの作業を見ていた。
ラプラスもピコもフェルマーも同じ気持ちのようだった。
エッフェルは次々と金属の塊からやかんを錬成した。
「何これ?これでお湯を沸かすの?」
ラプラスが面白そうにやかんを見ていた。
「不思議な形状だね」
ピコもやかんを見つめながら言った。
「値段はいくらで売る?」
フェルマーが意外に現実的なことを聞いた。
「エッフェルさんへのお礼はいくらくらいかな?」
ダザイはフェルマーに小声で聞いてみた。
「エッフェル。この仕事でいくら欲しい?」
フェルマーが直接聞いた。
「金には困っていないから別にいらないぞ。やかんを錬成するのは結構楽しいものだ。何よりもフェルマーの友達の頼みだからな」
エッフェルが鼻歌を歌いながら言った。
「ありがとうございます」
ダザイはエッフェルにお礼を言った。
「この世界では普通の鍋はいくらで売っているの?」
ダザイはラプラスに聞いた。
「安いものだと100バッハかな。高くても500バッハくらいだよ」
「それなら500バッハにする」
「こんな不思議な形の鍋が売れるのか?」
「鍋ではなくてやかんだよ」
そして三十個のやかんが出来上がった。
キラキラとした黄銅色の綺麗なやかんだった。
「本当にありがとうございました」
ダザイは再びエッフェルにお礼を言った。
「いいよ。それより君たちも今晩ギルドに来なさい。どうせ聞きたいことが山ほどあるだろう」
エッフェルが微笑んだ。
「ありがとうございます」
ダザイとラプラスとピコはエッフェルにお礼を言った。
そしてエッフェルはフェルマーを連れて公園から出て行った。
「それ何に使う道具?」
先ほどからエッフェルの錬成を見ていた人たちが集まって聞き始めた。
「お湯を沸かす道具です。沸騰したら笛のような音が鳴ります」とダザイは説明した。
「一個買うわ。いくら?」
「500バッハです」
「随分と安いのね。いい金属を使っているみたいだけど」
「ありがとうございます」
結局のところ三十個のやかんは五分で完売した。
「儲かったね」
ラプラスが嬉しそうに言った。
「15000バッハなんて大金だね」
ダザイはお金を財布に大切にしまいながら言った。
「私は特殊能力に見とれてしまったよ」とピコが言った。
「エッフェルさんとユングさんはすごかったね。そしてモールスさんという人もいるみたいだね」とラプラスが言った。
「特殊能力って実際に見ると本当にすごいね」
ダザイも興奮気味に言った。
「フェルマーと知り合いになっておいて良かったね」とピコが言った。
「まさかこんな形でフェルマーが役に立つとは思わなかったよ」
ラプラスが苦笑いをした。
「フェルマーを湖に突き落としたのが懐かしいね」と言ってダザイは笑った。
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