第20話 鉄の魔術師

 そして今日もダザイたちは三人でギルドに行った。


 昨日と同じで、ギルドの前の掲示板の前には、たくさんの人がいた。


「今日はお金があるから、腹ごしらえしてから行こうか」とラプラスが言った。


「そうだね」


 ダザイとピコは頷いた。


「ギルドの中の酒場でサンドイッチくらいあると思う」


 ラプラスがギルドの扉を開けた。


 ギルドの建物の中にも大勢の人がいた。


 中には随分とみずぼらしい服を着た若い男性もいた。


 その若い男性は、白いスーツを着た裕福そうな男性と一緒にお酒を飲んでいた。


 ふたりはずっと大声で会話をしていた。


 同じ身分とは思えないが、随分と仲良しなようだ。


「ここはいつ来ても騒がしいところね」


 ラプラスがサンドイッチを頬張りながら言った。


「まあギルドが寂れている町よりいいじゃない」とダザイは言った。


「サンドイッチも美味しいよ」とピコが言った。


 ダザイたちはサンドイッチを食べ終わると、外の掲示板を見に行こうとした。


 その時にダザイはハッと気付いた。


「フェルマー?」


 みずぼらしい服を着ているから分からなかったが、酒を飲んでいる若い男性はフェルマーに違いなかった。


「おー。昨日は僕の大活躍のおかげで命拾いをしたレディーたちじゃないか」


 フェルマーがすっかり泥酔した様子で言った。


「何でそんな貧乏な格好になったの?」


 ラプラスが驚いて聞いた。


「全部売ってしまったよ。僕は冒険者に転職したんだ。そしてベルリオーズ魔法学校に入学して魔法使いを目指すんだ。立派な魔法使いになって、僕を追い出した親兄弟を見返してやるんだ」とフェルマーは上機嫌で言った。


「でもフェルマーは魔法力ゼロだろ」


 ラプラスがあきれたように言った。


「僕の魔法力は1001だぞ。上級職から下級職に転職する場合はポイントを自由に配分できる。だから勇者から冒険者になった時に、戦闘力を全て魔法力に割り振ったんだ」


 フェルマーが得意げに言った。


「それは私も知らなかったね。上級職から下級職に転職する人なんて出会ったことなかったから」


 ラプラスが溜息をついた。


「魔剣シューベルトはどうしたの?まさか売ったの?」とダザイは聞いた。


「魔剣シューベルトは錬成して魔法の杖に作り変える。金属製の魔法の杖なんてカッコイイだろう」


 フェルマーが自慢げに言った。


「腕利きの鍛冶職人なら可能だろうけど、あまり聞かないパターンだね」とピコが言った。


「僕はクルトゲーデルを倒す魔法戦士になるんだから、前代未聞のことをやり遂げるのは当たり前さ。それに鍛冶職人なんか必要ない。友達に頼めばいい」


 フェルマーが声を張り上げて言った。


「それで隣の人は?友達?」とラプラスが聞いた。


「昨日から友達になった。エッフェルだ」


 フェルマーがエッフェルを紹介した。


「どうもエッフェルです。職業は建築家です。フェルマーの友達です」


 エッフェルが帽子を取って挨拶した。


「エッフェルってもしかして鉄の魔術師?」


 ラプラスが驚いて聞いた。


「そうとも呼ばれています」


 エッフェルがすました顔で言った。


「有名な人?」


 ダザイはラプラスに聞いた。


「この町では有名人よ。数少ない特殊能力者だもの。私も実際に会うのは初めてだけど」


「何の能力ですか?」


 するとエッフェルは机の上にあったスプーンを曲げてみせた。


 ラプラスとピコは驚いていた。


 しかしダザイは特に驚かなかった。


「よくありそうな能力だね」


 ダザイは少しがっかりして言った。


 特殊能力というからには、もっとすごいものを期待していた。


「これならどうだい?」


 エッフェルが手のひらの上でスプーンを操って、平らな金属の板にしてしまった。


 そしてそれを折り紙のようにたたんで、折り鶴にしてしまった。


「おー。これが特殊能力ですか。始めて見ました。すごいですね」


 ダザイは感動した。


「金属を操れる特殊能力だよ」


 エッフェルが得意げに言った。


「どうしてフェルマーなんかと友達に?」


 ラプラスが怪訝そうな顔で聞いた。


「この若者は見どころがあるぞ。勇者の職を捨てて冒険者になって、ゼロから始めようという心意気に惚れ込んだのさ」


 エッフェルが上機嫌でフェルマーと肩を組んだ。


「ただ無謀なだけだと思いますけどね…」


 ラプラスがあきれたように言った。


「何事も夢を見ないと始まらないだろう。私の夢は高さ三百メートルの鉄の塔をこの町に建てることだ。この町の平和のシンボルにするんだ。しかしなかなか建築許可が下りなくてね」


 エッフェルが夢見る少年のようにキラキラした瞳で夢を語った。


「もしかして地中にある金属も操れますか?」


 ダザイはエッフェルに聞いてみた。


「あまり地中深くになると難しいが、ある程度までなら採掘できるぞ」


「その金属を鍋の形に変えたりできますか?」


「それは容易いことだ」


「私の職業は容器屋なんですけど、材料が買えなくて、商売が出来ないんです。ちょっと協力して頂けないでしょうか?」


 ダザイはエッフェルにお願いした。


「特殊能力者がそんなこと引き受けてくれるわけないじゃない」


 ラプラスがダザイを小突いた。


 私も図々しいお願いだとは思っていたが、このチャンスを逃すと、一生ずっと容器屋から転職できない気がした。


「いいよ。フェルマーの友達は私の友達だ」


 エッフェルがあっさりと言った。


「本当ですか?」


 ダザイとラプラスとピコは目を丸くして言った。


「酒は一晩中たっぷり飲んだから、そろそろ一仕事するか」


 エッフェルが立ち上がった。


「僕も行きますよ。何かと役に立てると思います」


 フェルマーが自信満々の表情で言った。

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