第17話 史上最強の悪の魔法使い

「大変なのはこれからだけどね。私は魔法力が一番低いから不安だよ」


 ダザイはベッドに寝転んで天井を見上げた。


「魔法力ってどうやって上がるの?」


「魔物を倒す、魔法のアイテムを持つ、後は禁断の方法だけど魔法石を食べる」


 ラプラスが端的に答えた。


「魔法石?」


「三賢者が作ったとされる伝説の石で、それを食べると強大な魔力を手に入れられるのよ」


「今まで食べた人はいるの?」


「クルトゲーデル」


 ラプラスとピコが同時に答えた。


「聞いたことがないな」


 ダザイは首を傾げた。


「この世界でクルトゲーデルを知らない人はいないよ。史上最強の悪の魔法使いとも言われている。この世界の滅亡を企んでいるのよ」


 ラプラスは深刻な表情で言った。


「クルトゲーデルはどうしてこの世界を滅亡させたいの?」


「真の目的は謎に包まれたままだね。噂によると病的なまでの完璧主義とか」


「完璧主義?」


「宇宙を創った神は完璧な存在で、その神が創った宇宙も完璧なものでなければならない、というのがクルトゲーデルの思想らしいわ」


 ラプラスが難しそうな表情で言った。


「でも現実の世界は完璧ではないでしょう。戦争もあれば疫病もあれば飢饉もあれば差別もある。最近では魔物も蔓延っている。でも願っても拝んでも祈っても功徳を積んでも、神は助けてくれない。神が全知全能で完全無欠な存在ならば、どうしてこんな矛盾が起こるんだろうって、誰でも一度は考えたことがあるんじゃないかしら」とピコが言った。


「要するに、クルトゲーデルはこの世界が気に食わないわけね」


「要約し過ぎだろ」


 ラプラスが笑った。


「魔法石はどこにあるの?」


「ベルリオーズ魔法学校に隠されてあった。でも三個ある石のうちプラトンの石とアリストテレスの石は食べられてしまった。残るはソクラテスの石だけだ」とラプラスが言った。


「クルトゲーデルもベルリオーズ魔法学校の出身だからね。在学中に見つけて食べたらしいよ」とピコが言った。


「クルトゲーデルは今はどこに行ったの?」


「この星のどこかにはいる。でもどこに行ったのかは分からない。現在の校長であるストラヴィンスキー先生が、どうにか追い払ったという噂だけど、それも確証のある話ではない」とラプラスが言った。


「残るソクラテスの石を奪うために、クルトゲーデルがいつこの町を襲ってきてもおかしくないよ」とピコが言った。


「だから過酷な星だとハローワークの人が言っていたんだ…」


 ダザイは遠い昔を思い出すようにして頷いた。


「そしてこの町には強い魔法使いが必要とされている、というわけよ」とラプラスが言った。


「恐ろしい星に来ちゃったな…」


 ダザイは頭を掻いた。


「自分で選んだんだろ?」


 ラプラスが不思議そうな表情で言った。


「ハローワークの人がおだてるから、騙されたようなものだよ」


 ダザイはふくれた。


「でも私はダザイちゃんに会えて良かったわ」とピコが言った。


「私もそう思うわ」とラプラスが言った。


「ありがとう…」


 ダザイの目から大粒の涙が零れ落ちた。


 ラプラスとピコはダザイを抱きしめた。


 ふたりはとても優しい温もりで満ち溢れていた。


 友達がいるっていいな、とダザイは心の底から思った。


 その時に胸がズキズキと痛んだ気がした。

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