第15話 美しき獲物たち
「フェルマーが食べられても別に構わないが、仕方ないから助けてやろう」
ラプラスは釣り糸をフェルマーに向かって投げた。
ラプラスとピコとダザイの三人で協力してフェルマーを引っ張り上げた。
フェルマーのズボンに嚙みついてサメまで釣れた。
地上に上がったサメはジタバタとしていた。
「早く魔剣シューベルトで切れよ」
ラプラスが叫んだ。
しかしフェルマーはすっかり怯えていた。
「ファイア・ボール!」とラプラスが叫んだ。
ラプラスの杖の先から、小さな火の玉が飛び出した。
そしてサメに直撃した。
サメはぐったりしたが、まだ生きていた。
ピコが魔剣シューベルトを勝手に抜いて、サメにとどめを刺した。
サメは完全に動かなくなった。
ダザイはその様子をただ茫然と眺めていた。
それは普通のサメではなかった。
獰猛そうな牙が並んだ大きな口の上に、三本のツノが生えていた。
「これはトリケラシャークだな。図鑑で見たことがある」
ようやく落ち着いたフェルマーが言った。
「サメの相手なんて聞いてないよ。仕事は外来魚の駆除だろ」
ラプラスがあきれたように言った。
「一匹で800バッハだよね」とピコが言った。
「今夜の宿賃にはまだ足りないね」とダザイは言った。
「お嬢さんたち。僕がいて良かったね。もしも僕がいなかったら…」
「ちょっと黙ってくれる。魔剣シューベルトだけ貸して」
ラプラスがフェルマーの話を遮って、冷たい声で言った。
「ファイア・ボールって魔法だよね。私もやってみたい」
ダザイはワクワクしながら言った。
「魔法力には属性というものがあるからな。私は火だけど、ダザイちゃんの属性は知らないよ」
とりあえずダザイは魔法の杖を構えて「ファイア・ボール」と叫んでみた。
しかし何も起こらなかった。
「異世界に転生して活躍するのは私の役目なのに…」とダザイは肩を落とした。
「転生者だらけのこの星では、転生しただけでは特別扱いされないよ」とピコが正論を言った。
「マジかよ…そんなのアリかよ…異世界に転生してチート能力で無双するのがお約束だろ…」
ダザイは愕然として言った。
「そのお約束はどこの世界の話だよ?」
ラプラスが不思議そうな表情で聞いた。
「マンガの中の世界とか」とダザイは答えた。
「マンガって何?」とラプラスとピコが同時に聞いた。
「マンガというのは…」と言いかけて、ダザイは言葉を失った。
マンガが何か思い出せなかった。
遠い昔にそのような言葉を聞いたような記憶があった。
ラプラスとピコは困ったような表情で顔を見合わせていた。
「これからどうする?」
ダザイは気を取り直して言った。
「エサがないからな。またフェルマーを突き落とすか」とラプラスが言った。
「お嬢さん。待ちなさい。トリケラシャークは自分より小さなトリケラシャークを襲うと図鑑には書いてあったぞ。博識な僕がいて命拾いしたな」
フェルマーがラプラスから逃げるように後ずさりをしながら言った。
「なるほど。それでは一匹目のトリケラシャークをエサに二匹目を釣り上げるか」
ラプラスが納得したように言った。
ピコが魔剣シューベルトでトリケラシャークを切り刻んで、釣り糸の先にくくりつけた。
そして湖の中に放り込んだ。
湖の中のトリケラシャークはすぐにエサに食いついた。
そしてラプラスとピコとダザイの三人で協力して獲物を引っ張り上げた。
地上に上げた後は、ダザイが魔剣シューベルトで倒した。
フェルマーの言うところによると、トリケラシャークは魔物で、普通の剣ではかすり傷も負わせられないそうだ。
こうしてダザイたちは芋づる式にトリケラシャークを十体も倒した。
「さて町まで運ぶわよ」とラプラスがフェルマーに全てのトリケラシャークを持たせた。
ダザイたちは楽しくおしゃべりしながら、町への帰り道を歩いた。
フェルマーだけが、トリケラシャークをズルズル引きずりながら、必死で運んでいた。
「お嬢さん。トリケラシャークの肉はとても美味だと図鑑に書いてあったぞ。ここら辺で食事にしよう」とフェルマーが息切れしながら言った。
「あまり美味しそうには見えないぞ」とラプラスが言った。
「荷物を軽くしたいだけだったりして」とピコが言った。
「でもお腹は空いたね」とダザイは言った。
「試してみるか」とラプラスが言った。
ラプラスはファイア・ボールを連発してトリケラシャークを丸焼きにした。
すると美味しそうな香りが漂ってきた。
「うん。美味しい」
ステーキにかぶりついたフェルマーが言った。
「意外ね。美味しいわ」
ラプラスも食べながら言った。
「うん。美味しい」とピコも言った。
「美味しいけど、なんか不思議な味だね」
ダザイもステーキを頬張りながら言った。
「それとツノだけ持って帰ればいいと思うぞ。誰が見てもトリケラシャークのツノだと分かるからな」とフェルマーが言った。
「重い荷物を持ちたくないだけだろ」
ラプラスが突き放すように言った。
「紳士はいつでもスマートでいたいのさ」
フェルマーは気取った声で言った。
しかし誰も返事をしなかった。
結局のところ、ダザイたちは魔剣シューベルトでツノだけを切り落として、それをギルドに持ち込んだ。
「お疲れ様です。トリケラシャークが十匹ですね」
受付嬢は愛想よく言った。
「それでは8000バッハです。ありがとうございました」
受付嬢はダザイに8000バッハを手渡した。
「やったね」
ダザイは喜んだ。
「上出来だな」
ラプラスも言った。
「野宿しなくて済むね」
ピコも嬉しそうに言った。
「そうだな。野宿しなくて済むね」
フェルマーも言った。
「フェルマーはここでお別れだよ。さようなら」とラプラスが言った。
「貴族ということは、この町に自分の家があるんでしょう。帰りなさいよ」とピコが言った。
「そうだよ。家の人が心配するよ」とダザイは言った。
「僕があまりにも美し過ぎて、親兄弟たちが嫉妬してね、僕を家から追い出したんだ」
フェルマーは遠い目をして言った。
「要するに勘当されたんだね」とラプラスが言った。
「弱いからな」とピコは言った。
「ナルシストな性格の問題じゃないかしら」とダザイは言った。
「でも男だから野宿しても大丈夫だろ。じゃあさようなら」
ラプラスがギルドを出て行った。
「さようなら」
ピコとダザイもギルドを後にした。
「ちょっと待ってくれ…」
フェルマーの悲痛な叫びは無視した。
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