第13話 勇者フェルマー登場

 次の日、ダザイたちはまず中古の魔法道具店に行った。


 そこで一番安い魔法の杖を買った。


 見た目は道に落ちている棒切れのようだった。


 かなり古い物で、ボロボロだったが、ダザイはこの杖が気に入った。


「ラプラスちゃん。ありがとう」


 ダザイは感激してお礼を言った。


「喜んでくれるのは嬉しいけど、これで全財産を使ったから、今日中に最低でも宿賃の1000バッハは稼がないと、今夜は野宿だからね」


 ラプラスが厳しい声で言った。


 この世界の通貨単位はバッハのようだ。


「魔法の杖があるから大丈夫だよ」


 ダザイはご機嫌だった。


 次にダザイたちはギルドに行った。


 ギルドの前の掲示板には今日の職探しをする人たちで混み合っていた。


 ダザイたちは人混みをかき分けて、何とか掲示板の前に辿り着いた。


 掲示板には様々な日雇い仕事のポスターが貼り付けられていた。


 ポスターには「ジャガイモの収穫の手伝い。スキル不問。時給200バッハ」、「羊を狙うオオカミの駆除。戦闘力500以上。一匹につき600バッハ」、「病院で急病人の介護。回復力1000以上。時給900バッハ」などと書かれてあった。


「いろいろな仕事があるんだね」


 ダザイはポスターを見ながら言った。


「これはどう?


 ピコが一枚のポスターを指差した。


 そのポスターには「ショパン洞窟に巣食うゴブリンの討伐。魔法力1000以上。成功したら5000バッハ」と書かれてあった。


「うーん。いきなり魔物は難しいかもしれないよ」


 ラプラスが腕を組みながら言った。


「オオカミとか普通の動物の方がいいよね」とダザイも言った。


「ジャングルでトラに殺されそうになったくせに」


 ラプラスが笑った。


「あの時と違って今は魔法の杖があるもん」


 ダザイはふくれた。


「じゃあこれは?」とピコが別のポスターを指差した。


そのポスターには「シューマン湖で外来魚の駆除。戦闘力もしくは魔法力1000以上。一匹につき800バッハ。四人以上のパーティー」と書かれてあった。


「いいじゃん」とラプラスが言った。


「外来魚ってブラックバスとかブルーギルみたいなものでしょう。それで一匹800バッハなら大儲けだよ」とダザイも言った。


「でも四人以上のパーティーか…」とピコが言った。


 その時に後ろから声がした。


「お困りかな。お嬢さんたち」


 そこには金髪で青い目の王子様のような美しい青年が立っていた。


 豪華な服装に身を包み、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


「これはナンパ目的だね」とラプラスが言った。


「知らない人とは関わらない方がいいよね」とピコも言った。


「でも連れて行けば四人になるよ」とダザイが言った。


「やっぱり君たちには僕という高貴な存在が必要かね。仕方ない。君たちの護衛をしてあげよう」と青年は言った。


「いえ結構です」


 ラプラスが立ち去ろうとした。


 すかさず青年はラプラスの行く手を遮った。


「僕があまりにも美しく、しかも貴族階級だからと言って遠慮する必要はない」


 青年は自信たっぷりに白い歯を見せて笑った。


「いいえ。遠慮ではなくて、迷惑です」


 ラプラスがきっぱりと言った。


「職業とスキル次第では役に立つかもしれないよ」とダザイは言った。


「僕の職業が知りたいのかい?仕方がないな。教えてあげよう。でもこれは誰にも秘密だよ」


 青年がウインクをしながら言った。


「はい」


 ダザイは乾いた声で言った。


「僕の職業は…勇者だ。まさに勇猛果敢な僕にふさわしい職業だ」


 青年は胸を張って言った。


「勇者? 冒険者の上級職じゃないのよ。ちょっとパスポート見せて」


 ラプラスが疑ったような口調で言った。


「そんなに僕のパスポートが見たいのかい。おそらく僕の名前と住所をメモしてラブレターを送るつもりだろうが…」


「いいからさっさと見せなさいよ」


 ラプラスが青年の話を遮ってパスポートを奪い取った。


「職業は本当に勇者だわ…。数多の試練をくぐり抜けないとなれない上級職よ」


 ラプラスが目を丸くして言った。


「でもそれにしてはスキルが低くない?」


 ピコがパスポートをのぞきこんだ。


「戦闘力1000はともかく、他は何にもないわね…」


 ラプラスも首を傾げた。


「とりあえず戦闘力1000があればいいんじゃない?魔法以外の攻撃手段も欲しいし」とダザイは言った。


「僕の武器は剣だよ。しかも見て驚くな。魔剣シューベルトだ」


 青年が自慢げに剣を抜いた。


 妖しいオーラで満ちたその刀は、いかにも多くの修羅場をくぐってきたような雰囲気だった。


「おー。すごいね。伝説の武器じゃん」


 ラプラスが剣を見て驚いて言った。


「連れて行こうよ」とダザイは言った。


「見返りは?」とピコが青年に聞いた。


「見返りなど必要ないよ。僕は麗しいレディーを守ることが幸せなんだ」


 青年が爽やかに笑った。


「なんか怪しくない?」とラプラスが言った。


「怪しいね」とピコが言った。


「声をかけて来る人は役に立つことが多いよ」とダザイは言った。


「それどこの世界の話?」とラプラスが聞いた。


「ゲームの世界だけど…」とダザイは答えた。


「ゲームって何?」とラプラスとピコが同時に聞いた。


「ゲームを知らないの?ゲームは…」


 ダザイはゲームの説明をしようとしたが、ゲームが何か思い出せなかった。


「ダザイちゃん。大丈夫?お腹痛いの?」


 ラプラスが怪訝な顔でダザイを見た。


「ごめん。何でもない…」


 ダザイは落ち込んでうつむいた。


「名乗るのが遅れたね。僕の名前はピエール・ド・フェルマーだ。名家の出身だ」


 青年はダザイたちに微笑みかけた。


「どうする?」


 ラプラスがダザイとピコに聞いた。


「頭数だけ必要だから連れて行こうか」とダザイが言った。


「そうだね」とピコも頷いた。


「変なことをしようとしたら魔法でぶっ飛ばすからね」


 ラプラスがフェルマーを睨んで言った。


「紳士である僕が変なことをするはずがないだろう」


 フェルマーが嬉しそうに笑った。


 パーティーに入れてもらえたことが、よほど嬉しかったようだ。

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