第12話 成り上がれ

 ダザイたちはギルドを後にした。


「とりあえず今日は宿屋に泊まるわよ。お金がないから三人で一緒の部屋ね」


 ラプラスが財布の中身を見つめながら言った。


「その方が楽しそうだよ」とダザイは言った。


「そうだね」とピコも言った。


 ダザイたちは町で一番安い宿の、一番狭い部屋に泊まった。


 お風呂に入ったピコは綺麗になった。


 ラプラスの服を貸してもらったので、服装も整った。


 奴隷だったピコは見違えるほど綺麗な美少女になった。


 ダザイとラプラスも順番にお風呂に入った。


 その後は三人でベッドに寝転がった。


 かなり狭かったから、出来るだけ三人でくっついた。


「明日からお金を稼ぐわよ」


 ラプラスが真剣な表情で言った。


「容器屋って何をすればいいの?」


「鍋とか作って売るのよ」


「私が鍋を作るの?」


 ダザイは驚いた。そんなことできるわけないだろうが。


「最低限の創作スキルはあるから何とかなるでしょ」


 ラプラスが素っ気なく言った。


「鍋の材料はどうやって調達するの?」


「それが問題よね。金属屋で鉄とか銅とかアルミニウムとか売っているけど、高価なのよ。どこの星でも資源は貴重なの」


「この星の他の容器屋の人はどうしているの?」


「組合に所属している場合がほとんどだよ。鍋を作るにもいろいろと道具が必要だから、個人では買いそろえられない」とピコが言った。


「金属板をプレスしたり、溶接したり、塗装したり、容器屋もいろいろと大変だよね」とラプラスが溜息をついた。


「そんな大変な仕事なんか就きたくなかったよ」


 ダザイは文句を言った。


「私も面接官をやっていて、容器屋になりたいって言った人はダザイちゃんが初めてだったわ」


 ラプラスが大声で笑った。


「私は陽キャになりたいって言ったの」


 ダザイはふくれた。


「陽キャって何?」


 ピコが不思議そうな顔で聞いた。


「なんかイケてる人だって」


 ラプラスが答えた。


「ダザイちゃんは結構イケてると思うよ。顔もかわいいし、性格も明るい」とピコが言った。


「そうかな?」


 ダザイは不思議に思った。


 なぜか昔はそうではなかったような気がしてきた。


 しかしどうしても思い出せなかった。


 身体が変わると、人はこんなにも変わるものなのだろうか。


「少なくとも材料が買えるほどのお金が貯まるまでは、三人で日雇いの仕事をするしかなさそうね」


「それなら私にも魔法の杖を…」


 ダザイは瞳を輝かせた。


「仕方ないわね。中古の一番安いやつを明日に買いましょう」


「やったー」


 ダザイは飛び跳ねた。


 ベッドが狭いのでラプラスとピコが転げ落ちた。


「興奮し過ぎだろ」


 ラプラスが呻いた。


「やっぱり異世界転生には魔法の杖がマストアイテムよね」


 ダザイは満足げに言った。


 その夜はダザイはなかなか寝付けなかった。


 最初はどうなるかと思ったけど、友達もできたし、魔法の杖も手に入りそうだ。


 生きていて楽しいと思うことなんて、いつ以来のことだろうか。


 そう考えると、なぜか胸がズキズキと痛み始めた。


 ダザイは考えるのを止めて、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る