第11話 陽キャになるはずだったのに
ギルドはレンガ造りの立派な建物だった。
ダザイたちはギルドの扉を開けて中に入った。
ギルドの中は大勢の人で賑わっていた。
酒場も兼ねているらしく、大勢の人が椅子に座ってお酒を飲んでいた。
いかにも屈強そうな戦士、聡明そうな魔法使い、明るい踊り子など様々な人がいた。
ダザイたちは受付に行った。
受付にはリンゴのように赤い頬の、少しぽっちゃりしたかわいい女性が座っていた。
「仕事を探しているんです」
ラプラスが受付嬢に言った。
「ステータスを拝見しますね」
受付嬢がラプラスのパスポートを見た。
「前職の面接官で鍛えられて頭脳ポイントが上がっていますね。これなら図書館司書にもなれますよ」
受付嬢が愛想よく言った。
「私はあまり本には興味ないからな…」
ラプラスが頭を掻きながら言った。
「博物館の学芸員になるには少し頭脳ポイントが足りませんね」
受付嬢が残念そうに言った。
「魔法の杖を使える仕事はないの?」
「それなら定職ではなく、日雇いの仕事がオススメです。毎日ギルドの外の掲示板に、仕事のポスターが貼り出されますから、ご自身の魔法力に応じて、興味のある仕事にエントリーされてみてはいかがでしょうか?とりあえず職業は冒険者ということになりますが」と受付嬢は笑顔で言った。
「そうね。そうするわ」
ラプラスが満足したように言った。
「後ろのおふたりも仕事をお探しですか?」
受付嬢がダザイとピコを見て話しかけた。
「ピコちゃんも冒険者にして」
ラプラスがピコの腕を引っ張った。
「かしこまりました。それでは職業は冒険者で登録します」
「ありがとう」と受付嬢に言って、ラプラスはダザイとピコを連れて、ギルドの中の酒場の席に座った。
「私も仕事に就きたいよ」とダザイは言った。
「ダザイちゃんは容器屋でしょう。面接の時に希望したじゃん。それで採用したんだから、少なくともしばらくの間は容器屋として働いてもらうわよ。忘れたの?」
ラプラスが首を傾げた。
「容器屋?」
「鍋とか皿とか樽とかの容器を作って売る仕事よ」
「何それ?」
「だから面接の時に容器屋になりたいってアピールしたよね」
「容器屋じゃないよ。陽キャになりたいって言ったんだよ」
ダザイは目を丸くした。
「ヨウキャって何よ?容器屋じゃないの?」
ラプラスが不思議そうな顔になった。
「陽キャっていうのは、なんかイケてる人たちのことだよ」
ダザイは慌てて言った。
「何それ?職業じゃないよね」
ラプラスが笑いながら言った。
「容器屋なんてイヤだよ。地味だし儲からなさそう。私も魔法の杖を使いたいよ」
ダザイはふくれた。
「せっかく創作スキルがあるんだから、魔法の杖を買うお金が貯まるまで、容器屋で腕を磨きなさいよ」
ラプラスがダザイをなだめた。
「あの…。私はどうしたらいいでしょうか?」
ピコが不安そうな表情で聞いた。
「私のお古の魔法の杖をあげる。ボロボロだけど、まだ使えるわ。魔法力はあるんだから、ピコちゃんは私と一緒に日雇いの仕事をしましょう」
ラプラスがピコを抱きしめた。
「私もそっちがいいよー」とダザイは喚いた。
「ダザイちゃんは容器屋よ。大丈夫よ。私たちもヒマな時は手伝ってあげるわよ」
ラプラスがのん気に言った。
「陽キャじゃなくて容器屋か…」
ダザイは愕然とした。
「それにしても初期装備がひどいわね。かわいいけど、防御力が全くないよ」
ラプラスがダザイの着ているセーラー服を見た。
「ピコちゃんも着替えないとダメね」
ラプラスがピコの着ているボロボロの服を見て溜息をついた。
「あまり貯金がないのよね…」
ラプラスが頭を掻いた。
「面接官って給料は高そうだけど」
「そうでもないよ。誰でもできる簡単な仕事だもの。面接に来る人のパスポートを見て、適当な仕事に就かせるだけ」
「ラプラスちゃんは私のことを落とそうとしたよね」
「だって弱そうだったもの」
ラプラスがピシャリと言った。
「それで給料はどうしたの?」
「無駄遣いしちゃったのよね…」
「何に使ったの?」
「魔法チョコレートとか…」
「魔法チョコレート?」
「チョコレートにカードが一枚付いているの。そのカードを使えば呪文が使える」
「えー。すごいじゃん」
「魔法力がない人が使うものだよ。子供だましみたいなものだよ」
「そのカード見せて」
ダザイはワクワクした表情で言った。
ラプラスが大量のカードの束をカバンから取り出した。
カードにはタレス、ヘラクレイトス、アナクシメネス、クセノパネスなどの名前と肖像画が書かれてあった。
ダザイはタレスのカードを手に取った。
カードには、いかにも賢者といった風格の男性の肖像画が描かれてあった。
「タレスって誰?」
「その魔法を発明した偉大な魔法使いだよ」
タレスのカードには「アクア・ボール」と書いてあった。
「よく分からないけど、すごいじゃん」
ダザイは興奮気味に言った。
「アクア・ボールって言っても、そのカードで実現できることは水鉄砲みたいなものだよ」
「でもまだほとんど魔法が使えない私たちには、役に立つこともあるかも」とピコが言った。
「魔法学校で勉強すれば、本当にタレスの発明した呪文を使えるようになるわ」とラプラスが言った。
「このカードもらってもいい?」
「いいよ。好きなカードをもらっていいよ」
「ありがとう」
「私も…いいですか?」とピコが小さい声で言った。
「私たちは友達なんだから、敬語は止めてよね。好きなカードをもらっていいわよ」
「ありがとう」
ピコが嬉しそうに微笑んだ。
ピコはヘラクレイトスのカードをもらった。
ファイア・ボールという魔法が使えるらしい。
ピコはそれを大切そうにポケットにしまった。
「他には何を買ったの?」
ダザイはラプラスに聞いた。
「ラジオを買った。この世界では高級品だよ。でもジャングルの丸太小屋での生活が退屈過ぎてね」
「あの丸太小屋に一人暮らしで、水や食料はどうやって調達していたの?」
ダザイは不思議に思って聞いた。
「注文すれば恐竜が届けてくれるんだ」
「恐竜?」
「プテラノドンとかケツアルコアトルスとか配達用の恐竜が空を飛んで運んで来てくれる」
「この星には恐竜もいるんだね」
「この星の恐竜は進化して、知能が高いから訓練すれば人間の命令も聞くようになる。ちなみに丸太小屋の安全はティラノサウルスとアロサウルスとアルバートサウルスが当番制で守っているよ。ゾウのバスは複数のヴェロキラプトルがこっそり守っている。だからトラも丸太小屋やゾウのバスを襲おうとはしないんだ」
「すごいね」
ダザイは感心して言った。
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