第7話 陽キャになりたい

 ヘミンウェイが丸太小屋の扉をノックした。


 すると中から眩しいほど綺麗な女性が出て来た。


「ヘミングウェイ。久しぶりね」


「迷子を連れて来た。求人票を持っているから面接希望だと思うぞ」


「それならさっさと中に入りなさい」


 綺麗な女性がダザイに言った。


 ダザイはヘミングウェイにお礼を言って別れた。


 丸太小屋の中は机と椅子しかなかった。


「とりあえず座りなさい」


「はい」


 ダザイは促されるままに椅子に座った。


「求人票とパスポートを見せて」


「はい」


「私はラプラス。この星の面接官です。よろしくね」


「よろしくお願いします」


 ラプラスは輝くような金髪と青い瞳の美人だった。


 まるでバービー人形のようだ、とダザイは思った。


「魔法力1200はあるけど、他のステータスは平凡ね。特殊能力もなし。後は創作力が500あるくらいだわ。でも創作力なんて役に立たないわよ」


 ラプラスがパスポートを見ながら馬鹿にしたように言った。


 そしてラプラスがクスクス笑い出した。


「前世は童貞で終えたからマイナス800ポイントも引かれている。ウケる」


「前世が童貞?普通ならポイントアップするんじゃないんですか?賢者になれるとか」


 ダザイは焦りながら聞いた。


「何で童貞が賢者になるのよ。意味が分からない。いろいろなことを知っているのが賢者でしょう」


 ラプラスが腹を抱えて笑い出した。


「でも少なくとも童貞は悪いことではないと思いますけど」


 ダザイはイライラした口調で言った。


「ダメよ。ダサいから」


 ラプラスがバッサリと言った。


 その言葉はダザイの純粋無垢なハートにグサグサと突き刺さった。


 ダザイの頭の中には陽キャになりたいという願望が思い起こされてきた。


「とにかく面接会場までヘミングウェイに連れて来てもらっただけで、ほとんど戦闘力もないし、この星ではあなたは役に立たないわよ」


「不採用の場合はどうなるのですか?」


 ダザイはウルウルした瞳で聞いた。


「死んで、輪廻転生ハローワークに出戻りね。でもポイントをほとんど稼いでいないから、来世はほとんど応募できる求人なんかないわよ。せいぜいスライムね」


 ラプラスが冷たく言った。


「頑張りますから。お願いします。この星で雇ってください」


 ダザイは頭を下げた。


「なりたい職業はある?」


 職業?考えていなかった。どうしよう。早く答えないと。


「陽キャになりたい」


 ダザイは叫んだ。


 とっさに出た言葉がそれだった。


「珍しい職業を希望するのね。まぁでもそれなら可能よ。創作力が500あるから。多少の技術を身に付ける必要はあるけど」


 陽キャと創作力にどんな関係があるのか不思議に思ったが、ダザイは黙っておくことにした。


 陽キャになれるなら何でもいい。


「はい。じゃあこの合格通知を持ってハイリゲンシュタットの町まで行ってね」


 ラプラスが私に合格通知を渡した。


 どうやら採用されたようだ。


 とりあえずは助かった。


「特記事項に、何でも好きなものをひとつ手に入れることができると書いてあるわ。珍しいわね」


 ラプラスがダザイのパスポートを見ながら言った。


「何でも好きなもの?」


「タヌキを助けたからボーナスポイントと特記事項が付いたみたいね。タヌキとキツネは神様の使いだから」


 タヌキ様、ありがとうございます、とダザイは心の中で呟いた。


「2000ポイントのボーナスポイントをもらいながら、童貞で1200に減るって…」


 またラプラスが笑い出した。


 ダザイは耳まで真っ赤になった。


「彼女どころか友達もなし」


 ラプラスがゲラゲラ笑った。


 ダザイはだんだんイライラしてきた。


「何でも好きなものってどんなもの?」


「文字通り何でもアリよ。英雄の剣ワグナー、最強の盾ドヴォルザーク、伝説の魔法の杖ブラームスなどなど。好きなものを選んでいいわよ」


 ラプラスがダザイにカタログを渡した。


 これはとても大切な選択になる、とダザイは感じていた。


 ステータスの低いダザイが、この星で生きていけるかどうかは、自分に最適なチートアイテムを手に入れられるかにかかっている。


 冷静に考えれば伝説の魔法の杖ブラームスだろう。魔法力1200を活かせる。


 その時に思い付いた。


「私は友達が欲しい」とダザイはラプラスに言った。


「友達?相手は誰よ?」


「ラプラスさん…」


「私?それはアリなのかしら…」


 ラプラスは難しい顔をした。


「何でも欲しいものをひとつ手に入れることができるんでしょう?それなら私は友達が欲しい」

 

 ダザイは熱のこもった口調になった。


 これは本音だった。


 ずっと昔から心のどこかでいつも友達が欲しいと思っていた気がした。


「まぁいいわ。面接官はまた別の人を派遣してもらうわ。こんな辺境の地の丸太小屋でひとり暮らしをするのにも飽きたし」


 ラプラスがあっさりした様子で言った。


「ありがとう」


 ダザイは満面の笑みで言った。


「せいぜいかわいがってやるよ」


 ラプラスがイタズラっぽく笑った。


「よろしくね。ラプラスちゃん」


 ダザイは手を差し出した。


「よろしくね。ダザイちゃん」


 ラプラスはその手を握って握手をした。


 ダザイに始めての友達ができた。

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