第6話 黄金銃を持つ男
扉を開けると、そこは中世ヨーロッパのような美しい街が広がっていた、と言いたいところである。
しかしダザイの目の前には鬱蒼としたジャングルが生い茂っていた。
あまり文明が進んでいない星はイヤだな、とダザイは思った。
ロール・プレイング・ゲームというより、まるでサバイバルゲームみたいだ。
でもこれから開拓すればいいか、という楽観的な考えがすぐにダザイの頭に浮かんだ。
よく見たら目の前に「面接会場」と書かれた看板が立っていた。
見たことがない不思議な文字だったが、なぜか読むことができた。
「まあ文字くらい読めないと話が始まらないよ」
しかし看板の示す先には道らしい道もなく、ただひたすらジャングルが広がっていた。
「なるほど。ここで私の魔法力が炸裂するわけだな」
ダザイはワクワクした。
1200ポイントを全てつぎ込んだ魔法力だ。
炎の魔法でジャングルの木を焼き払って、道を作ることくらいできるはずだ。
「それ!」
ダザイは適当に構えて炎の渦を放った、つもりだったが、何も起こらなかった。
「どういうことだよ…」
ダザイは愕然とした。
「やっぱり魔法の杖がないと何も出来ないのかな…」
ダザイは溜息をついた。
その時に背後からガサガサと不吉な音がした。
鋭いふたつの目がダザイを睨んでいる。
「トラじゃん…」
ダザイは凍り付いた。
はい。即死決定。来世はカマキリに転生。
「そんなのイヤだー」
ダザイは猛スピードで走って逃げた。
しかし身体は女子中学生なので、あまり足が速くない。
あっと言う間にダザイはトラに追いつかれて、パクっと丸のみされる、ところだった。
銃声が鳴り響いて、トラが倒れた。
ダザイは間一髪で助かった。
そしてジャングルの中から黄金に輝く猟銃を持ったひとりの男が現れた。
堂々とした風格のカッコイイ男だった。
「このジャングルを丸腰で抜けるなんて不可能に近いぞ」とその男が言った。
「ありがとうございます。あなたは命の恩人です。ぜひ名前を教えてください」
ダザイは感激して言った。
「俺の名前はヘミングウェイだ。ハードボイルドが俺の人生のテーマだ」と言ってヘミングウェイが豪快に笑った。
「おかげさまで助かりました」
「魔法力と創作力は多少ありそうだが、他はひどいステータスだな」
ヘミングウェイがダザイをじっと見つめながら言った。
「ひどい?」
「魔法力と創作力以外はゼロに近いぞ。そのステータスでどうやって面接会場まで行くつもりだ?」
ヘミングウェイが首を傾げた。
「魔法力が1200もあるので何とかならないでしょうか」
「この星には魔法力1000以上の奴はゴロゴロいるぞ」
「マジですか…」
「どうせハローワークのやつらの口車に乗せられたんだろう。平和な星には応募が殺到するから困っている。ハローワークのシステムがよく分かっていない奴らは、この星のように過酷で人気のない星に積極的に送り込まれるのさ」
「ヘミングウェイさんもハローワークを通じてこの星に来たのですか?」
「もちろんだ。俺は心の底からワイルドな冒険を求めていたからな。それに俺の特殊能力を駆使すればポイントを貯めるのも容易いことだ」
ヘミングウェイがご機嫌な様子で笑った。
「特殊能力?」
「君は持っていないのか?」
「魔法力とはまた別ですか?」
「そうだ」
「じゃあ持っていないです…」
ダザイは肩を落として言った。
「とにかく面接会場まで案内してやるよ。君をジャングルにひとりにしたら、死んでしまいそうだ」とヘミングウェイが言った。
「ありがとうございます」
ダザイはお礼を言った。
ダザイはヘミングウェイの案内で道なき道を進んだ。
途中で三頭のトラに出くわし、四匹のサルにバナナの皮を投げつけられ、五匹の毒ヘビに咬まれそうになった。
命からがらでダザイは看板に面接会場と書かれている丸太小屋まで辿り着いた。
ヘミングウェイがいなかったら、絶対に死んでいたと思う。
自分にとっては無理ゲーの星に来てしまった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます