第4話 美少女の身体の秘密

 中古品か余り物の身体って何だよ、と津島は思った。


 いくら魔法力が強くても、身体がボロボロでは意味がない。


 しばらくして試着室のカーテンが開いて、筋肉モリモリの屈強な男性が出て来た。


「次の方どうぞ」と試着室の中から、人の良さそうな感じのお姉さんが声をかけてくれた。


 津島は試着室の中に入った。


「私はパスカルと申します。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 アライグマみたいな名前だな、と津島は思った。


 パスカルにも輪と羽があった。


「お客様はゼロポイントですね。随分と無駄遣いをされたみたいですね」


 パスカルが難しそうな表情で言った。


「ゼロポイントの場合はどうなるのですか?」


 津島は不安になって聞いた。


「他にもゼロポイントの方はいますし、ポイントがマイナスの方もいますからね。そこまで悲観的になる必要はないのですが…」


 パスカルは奥の方からゴソゴソと紙の束を取り出して、パラパラとめくって見ていた。


「これなんかどうでしょう?」


 パスカルは一枚の紙を津島に見せた。


 その紙には「七十年前に自殺して魂が抜けた身体。三十八歳の男性。目玉はひとつ紛失」と書かれてあった。


「イヤですよ。自殺とか陰気ですよ。しかも目玉はふたつ欲しいですよ」と津島は慌てて断った。


「そうですか。お客様にピッタリかと思いましたが」


「どこがピッタリなんですか」


 津島は言い返した。


「奴隷階級の子供なら、まともな身体もありますよ」


「奴隷とかイヤですよ」


「それなら人間は難しそうですねー。これならいかがですか?」と言いながらパスカルは次の紙を津島に見せた。


 その紙には「ブタ(家畜用)。ゼロポイントでも利用可能」と書かれてあった。


「ブタなんてイヤですよ。しかも家畜用ってなんですか」


 津島は少しイライラしながら言った。


「これはいかがですか?人気物件ですよ」


 パスカルはまた津島に紙を見せた。


 その紙には「スライム。最弱のモンスター。戦闘力なし」と書かれてあった。


「高い魔法力があってもスライムじゃ活躍できないからイヤです」と津島は愕然として言った。


「仕方ないですね。ちょっと倉庫を見てきますね」と言ってパスカルは試着室を出て行った。


 せめて200ポイントだけでも残しておけば良かった、と津島は後悔したが、既に手遅れだった。


 しばらくしてパスカルが倉庫から戻って来た。


「お客様にぴったりなのがありましたよ。十三歳のかわいい女子中学生。ピチピチですよ」とパスカルが嬉しそうに言った。


 津島はその女子中学生の身体を見た時に、なぜか懐かしい気がした。


「ゼロポイントでも使えるの?」


「はい。こちらはセールス品となっておりまして、それでも売れ残ったので、この際はゼロポイントの方にも差し上げたいと思います」


 パスカルが愛想よく言った。


「目玉はふたつとも付いていますか?」


「はい。もちろんです」


「じゃあそれにします」


 女子中学生だから力は弱いかもしれない。


 でも人間なだけありがたいと思うべきだと津島は思った。


「ただし、この身体は前世で罪を犯しています。それが何かは申し上げることができません。お客様自身でその罪を自覚して悔い改める必要があります。しかも期限は地球時間でいうと一年です」

 

 パスカルが真面目な顔で言った。


「罪を自覚できなかったらどうなるのですか?」


「それは大変なことになります」


 パスカルが困ったような表情で言った。


「大変なことって?」


「莫大なマイナスポイントが貯まって、カマキリなどに転生することになると思います」


「まぁいいですよ」


 津島は半ば投げやりな口調で言った。


「そんなに安請け合いして大丈夫ですか。後悔しても知りませんよ」


 パスカルが心配そうに言った。


「とりあえずブタやスライムよりはマシですから」


「分かりました。ではこちらの身体を準備しますね」

 

 パスカルが手際よく女子中学生の身体を立たせた。


 それはまるで着ぐるみのようだった。


「どうぞ身体の中に潜り込んでください」


 津島は女子中学生の身体の中に潜り込んだ。


 すると意識がハッキリして、身体が動くようになった。


「上手く馴染んだようですね」とパスカルが嬉しそうに言った。


 鏡を見ると、そこにはかわいい女子中学生が映っていた。


 黒髪のロングヘアーの絵に描いたような美少女だった。

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