第34話 抗わなきゃ!

 ◇◇◇◇◇


 次の日の朝。


「ゼータ!サラン!見張りありがとう!」


「うん。ちゃんと見張りしてたよ。

 エサちょうだい。サランもね。」


「もちろん。ここに置いておくね。」


 ゼータもサランも、シッポフリフリで美味しそうにエサを食べている。和むわぁ!


 テントに戻って、こちらも食事。


「今日は懐かしい感じの料理やねぇ。」


「そうね。とってもいいわ。」


 ガチャ産の食糧は『炙り烏賊』が出てきた。

 ちょっと変わった料理なんだけど、やっぱり味は美味しい。

 併せて、ガチャ産の飲料は『日本茶』

 こういう配慮もしてくれるんだね!



 さあ、今日は特訓1日コース!

 昨日とは違う方向に進むみたいだ。

 いざ、Cランク討伐へ!レッツゴー!



 ◇◇◇◇◇



 ヘルサイズ拠点にて。


「おー!アルビル王子。今日はどうした?」


「おー!アズワド。情報を持って来た。

 例の女が少年を連れて北東の魔物の森に狩りに行ったぜ。ちょうどいいんじゃねえの?」


「おう。そうか。それはチャンスだな。」


「そうだな。できれば、そこで排除してもらえると助かる。あいつは今後必ず俺たちの障害になるだろうからな。」


「わかった。この飛剣のアズワド様が直々に排除しに行ってやろう。

 いい女だったら、俺専用の奴隷にするのもありだな。へっへっへ。」


「頼むぞ。油断はするなよ。」


「わかってるって。任せとけや。」


「ほんじゃ、俺はシャビルの方に取り掛かるとするぜ。」


「おう。そうか。そっちもきっちり片をつけるんだぜ。俺様の不在中は、なんかあったらそこの紅蓮頭に話をしろ。」


「ああ、そうするよ。」



 ◇◇◇◇◇



 リオが特訓に来て、すでに8日目。

 Cランクの魔物との戦闘によるリンドウの指導が続いていた。


 相手はミツクビオロチ。

 頭が3つの分かれた巨大な蛇。

 Cランクの魔物で動きが速く、口から液体を吐く厄介な魔物である。

 その液体に触れたものが溶けてしまうので、避けながらの戦闘になる。

 ただ、三方からの同時攻撃のため、避けるのも一苦労である。

 当然、リンドウもカゲロウも見てるだけ。


 リオは、ミツクビオロチの攻撃を避けつつ、一つ目の頭にファイアボールを当て吹き飛ばし、2つ目の頭をウインドカッターで首を飛ばして、残りの3つ目の頭をスラッシュで叩き斬った。こちらも三方同時攻撃だ。


「ふう。討伐成功っと!」


「リオもだんだんコツを掴んできたわね。」


「ほんまやで、こっちに来て劇的に進歩してるわ。大したもんやでぇ。」


「うへうへへ。そうかなぁ。」


「調子に乗らないの。まだまだCランクよ。

 上には上がいるからね。」


 リンドウはやっぱり厳しい。


 ただ、最初に苦戦していたCランクのミツクビオロチもなんとか単独で討伐出来るくらいに成長はしている。


「じゃあ、今日は戻りましょうか。」


「せやな。もう日が暮れそうやしな。」


 戻りはゼータとサランに騎乗して戻るので、行きより早く着くことができる。


 そして、森を抜けようとしていると、ゼータとサランが叫び出した。


「兄ちゃん。森を抜けたところに何人か人間がいるよ。」

「ワオーン!」


 ゼータとサランはそう言うと同時にその場で一旦停止し、リオの反応を見ている。


「こんなところに誰だろう?」


「ちょっと様子を見た方がいいわね。」


「ほな、うちが様子見てくるわ。

 ちょっとここで待っててや。」


 そう言うとカゲロウは単身で森の外に向かって走り出した。速っ!


 。。。。。


「ほう。あれやな。

 あれってヘルサイズっちゅう奴らやんか。

 なるほど。目当てはリンドウやな。

 まったく難儀やなぁ。」


 。。。。。


 様子を見に行ったカゲロウが戻ってきた。

 さすが隠密。相手に悟られることなく偵察完了してきている。速っ!


「行ってきたでぇ。

 あれはヘルサイズやな。

 幹部らしいやつが1人と黒頭巾が6人や。

 リンドウを狩りに来たんちゃうか?」


「えーー?ヘルサイズ!

 リンドウ。どうしよう?」


「そうね。カゲロウ。幹部の1人はどれくらいかしら?」


「ようわからんけど、うちでもたぶんなんとかなるんちゃうか?

 そんなに強そうには見えへんなぁ。」


「ふーん。なら問題ないわね。」


 いやいや、幹部だから!


「大丈夫?」


 リオはちょっと心配。

 相手も最低1億ペロの賞金首だから。


「行きましょう。」


「ほな、行こか。」


 うーん。嫌な感じがするー。


 。。。。。

 

 リオたちは、森を抜けてヘルサイズが待っているであろうところにたどり着いた。

 念のため、カゲロウは迷彩の術を使って、リオの護衛のためにゼータの背に乗っている。


 逆にリンドウはサランの背に乗って、ヘルサイズの前に現れた。


「お待たせしたわね。

 私たちに何の用かしら?ヘルサイズさん?」


「おー、やっぱりいたか!

 お前がリンドウ・ササキだな。

 いいんじゃない?いいんじゃない?

 たっぷり遊んであげようじゃないの。」


 飛剣のアズワドが、いやらしい笑いを浮かべてリンドウを見ている。


「………気持ち悪いわね。何の用なの?」


「はぁ!?お前を痛めつけて、たっぷりとお仕置きしに来たんだよ!」


「あっそう。私が目的なのね。良かったわ。

 心置きなく殺せるわね。」


「はぁ!殺す!お前らも行け!」


 アズワドはリンドウに、黒兵6人は無言でリオに向かって攻撃を仕掛ける。


 まず、アズワドの攻撃だが、6本の剣が宙に舞っていると思いきや、ものすごいスピードでリンドウに襲いかかった。飛剣の所以である。

 どれくらい速いかと言うとリオは目で追うことができていない。


 それをリンドウは避けることなく、移動しながら全ての剣を弾いている。

 ただし、ものすごい連続攻撃で襲い掛かる。


 また、その合間を縫って、アズワド本人もリンドウに斬り掛かって来るので、超連続攻撃が止むことなく続いている。

 リンドウはそれをただひたすら刀で弾いている。


 リオには、それが見えていないので剣の弾く音だけが響いて聞こえているだけなので、何が起こってるかわからないが、この間、リンドウは攻撃をしていない。

 見た目防戦一方の展開になっている。


「ははは、でかい口叩いた割に大したことねえじゃねえかよ!

 これがヘルサイズ幹部の実力よ!

 もう降参したらどーだ!

 たっぷり可愛がってやるからよ。」


 リンドウとしては、ヘルサイズの幹部がどれくらいの戦闘力なのかを確認するためにあえて攻撃していないだけだったのだが、相手が調子に乗っているので、一言言ってやった。


「これで終わりなの?

 そろそろ本気を出せば?」


「はぁ!?まだ、そんなこと言ってんのか!

 マジで殺す!」


 さらにアズワドの攻撃スピードが増す!



 一方、リオに襲いかかった黒兵6人は同時に攻撃を仕掛けてきた!

 と思いきや、そのうち5人は、攻撃をする前に一瞬のうちに首を刎ねられ、5つの頭が転がった。ころん。


 もちろん、これはカゲロウの仕業。

 それはリオにもわかった。


 よって、リオは黒兵1人の攻撃を神剣で受け止めた。

 それからは、一進一退の攻防となっていた。


(今のリオなら、黒兵1人は余裕で倒せるやろ?何を遊んでるんや?)


 そばで見ていたカゲロウは不思議に思っていた。



 一方的に攻撃を受け続けているリンドウは、リオの戦いぶりを横目で見ながら、リンドウにしては珍しく声を荒げてリオに叫んだ!



「リオ!!殺りなさい!!

 昔のリオとは違うのよ!!

 悪意には抗わなきゃダメなの!!

 何のために強くなったの!?

 変わるのよ!!リオーーー!!」



 たしかに、リオは躊躇していた。

 人間と対峙したとき、無意識に攻撃出来ずに誰かが助けてくれるのを待っている自分がいた……。

 せっかくステータスも強くなって、特訓で技を磨いて、魔物もCランクなら単独で討伐できるようになったが、心は置き去りにされていた。



 逃げちゃダメだ!

 変わるんだ!変えるんだ!

 抗わなきゃ!抗わなきゃ!抗わなきゃ!



 パリーン!



 リオの中で何かが弾けた!


「うおーーーーーーーーーーーー!!!」


 叫ぶと同時に、リオは黒兵の心臓を突き刺していた。


 リオは初めて人間を殺した。


 これが、リオの中で何かが変わった瞬間だった。


 ◇◇◇◇◇






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