第15話 暗殺集団

 ◇◇◇◇◇


 リオとリンドウは食糧を食べて、ゼータもエサを食べて、満足したところで2日目の移動を開始した。


 高級テントは一瞬で収納可能。ものすごく優れたアイテムです。次からもダブってほしいアイテムの一つですね。どんな強化されるのかわからないけど、+2でこれなら自重しらずの展開になりそう。



「ゼータ!今日もよろしくね!」


「ワオ!」


 ゼータは相変わらず、ものすごいスピードで疾走して行く。


 少し進んだところで、ゼータが危険を察知したようだ。


「ワオワオ!ワオワオ!」


 だいぶ遠くなのか?何もない感じがするんだけど。それでもゼータは加速して行く。


 見えて来たと思った瞬間にすでに戦闘モードになっている人の群れに遭遇した。

 ちょうど、道が直線と右に分岐している三叉路の右側の方で、辺りにはその戦闘中の者たちの他には誰もいない状況。どちらかが襲われているのであろうことはわかった。


 ゼータはそこで急停止して声を上げている。


「ワオワオ!」


 すぐさま、リオとリンドウは飛び降りて臨戦体勢を取った。


 遭遇したのは魔物ではなく、人間同士の争いの真っ只中。


 一瞬で判断はできないが、兵士っぽい護衛部隊らしき者たちと一般人とはかけ離れた動きで戦闘をしていて全員顔をマスクのようなもので覆っている団体との戦闘状態に見える。


 その中心には護衛されていると思われる貴族用の豪華な馬車がその戦闘で囲まれていると言った状況か。


 そこにゼータの出現によって、戦闘中の顔を覆った者たちはこちらの方を気にして一瞬で戦闘体勢を一旦整えたようだ。

 一旦、戦闘が硬直状態に変化した。

 その状態で確認できるのは、護衛部隊の方が負傷の度合いが大きく、重症負傷者も数名出ている。一方でマスク団の方は、負傷者は出ていない様子。明らかに護衛部隊の方が部が悪い。


 ということは、囲まれている護衛部隊が、周りを囲んでいる者たちに襲われているのでは?



「お前たちは何者だー?」


 護衛部隊の一人が大声でこちらに問いかけている。



「リオ!様子を見るわよ。」


「はい!」


 リンドウは問いかけには答えずに、様子を見るようだ。



 先に痺れを切らしたのは、周りを囲んでいたマスク団の方で、リンドウに戦闘を仕掛けて来た。


「リオ!防御に徹しなさい。なるべく戦闘を回避して!」


「はい!」


 リンドウは襲って来た奴らを一瞬で片付けて行く。ジャイアントサイクロプスとの戦闘以来の素早い動きで目で確認するのも難しい速さで。


 マスク団の動きも尋常じゃない速さなのだが、リンドウの動きはそれを異常なほどに凌駕している。


 それを見ていたマスク団の奴らは、その中の一人の合図によって、四方八方に散らばり、霧散していった。



 リンドウは追い打ちをかけるようなことはしない。あくまで、従者として、意識としては姉としてリオを護ることが最優先事項なのだ。


 また、護衛部隊の方も、あまりの圧倒的、一方的な展開に呆然と見ていたが、倒れているマスク団の数名を捕獲するために動き出した。


 倒れているマスク団は全員、リンドウが峰打ちで倒しているので殺してはいない。



 そして、その中で部隊長と思われる、先程大声でリンドウに問いかけて来ていた者から声をかけられる。


「我々は怪しい者ではない!先程は助かった!感謝する!少し話をさせてくれないか?」


 リンドウはリオと一緒にその部隊長の方に歩み寄っていった。ゼータもその後ろをついて行く。体は大きいがついて行く動きはかわいい。


「ありがとう。助かった。礼を言う。

 あのままだったら、すでに我々は全滅していたかもしれん。

 私はゼルダン。第三近衛兵団団長をしている。

 失礼だが、貴殿たちは?」


「私はリンドウよ。こちらはリオよ。そして後ろにいるのがゼータ。ただの冒険者ね。」


 そこに、一番豪華な馬車から一人の若者に続いて、一人の老人と二人の女性が降りて来た。


「ゼルダン、我々は助かったのか?」


「はい、殿下。この者たちの助力により、暗殺集団と思われる者たちは退却していきました。

 この者たちは、この女性がリンドウ、少年がリオ、後ろの獣がゼータです。冒険者だそうです。」


 殿下?殿下って偉い人だよね?


「そうか、私も馬車から見ていた。

 相当高名な冒険者とお見受けしました。

 助けていただいてありがとう。

 あなたたちは命の恩人です。

 何かお礼をさせてください。」


「そうね。まず、あなたたちは誰で何があったのか教えてくれる?」


 ゼルダンは慌ててリンドウに声をかけた。


「こら!話し方に気をつけてくれ!」


 それを若者は制止する。


「構わないよ。申し遅れてすまない。

 私はシャビル・サザンオール。

 ここサザンオール王国の第二王子です。」


 え?この国の王子!想像よりだいぶ偉いぞ。

 顔も王子って感じでカッコいい。

 って言うかサザンオール王国って国だったんだ。そんなことも知らなかったなぁ。


「私たちは王都からメノール伯爵領都に行く途中でね。ここで襲われたんだよ。今回は最小限の近衛兵団の同行だったのが要因なのか、たぶん、私の暗殺が目的だろうね。私は兄と違って戦闘が苦手なんだよね。」


「へえ、そうなの。あなた王子にしてはフランクな感じね。」


「そうなんだよ。殿下は誰に対しても平等に接してくれるんだよ。」


 ゼルダンが割って話に加わってくる。


「悪意がある場合はそうでもないんだけどね。

 ところでリンドウたちはどこに行くところだったんだい?」


「私たちも領都に行く途中ね。」


「そうか。だったら、同行してもらえないか?

 領都に着いたら、もう少し話がしたいのだが、どうだろうか?」


 シャビル王子がリンドウに訪ねた。


「そうね。リオが決めて良いわよ。」


「え?僕ですか?」


 その返答にシャビル王子も不思議に思ったらしく、さらに問いかけた。


「あなたたちはどういう関係なんだい?」


「リオは私のあるじで私が従者ね。」


「リオが主?何処かの貴族なのかい?」


「あ!いえ。僕は平民です。」


「そうなのか。余計に関係がわからなくなったね。まあ、これ以上は聞いちゃダメだね。

 それでリオ。同行してもらっても良いかな?」


 リンドウに決めて欲しいんだけど……。

 うーん。断れない。


「はい。よろしくお願いします。」


「そうか。良かった。

 ここから領都はすぐだからね。

 後からついて来てくれるかな。」


「はい。わかりました。」


 リオとリンドウは遭遇したハプニングによって、まさかの第二王子に同行することになってしまった。


 ◇◇◇◇◇

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