第44話 俺が天元 梨花に救われるまで
いつも俺が日曜日に起きる時間はゆうに10時を超えるのだが、今日は昨日のことがあったからか起きた時間は8時15分頃だった。
昨日布団を被ってから何時間も寝付けなかったためかなり眠い。
もう、花山さんは出発している頃。
未来は変わったはずだが、それでもやはり不安に残る。
ふと、スマホの電源をつけると文殊から連絡が来ていることに気がついた。
昨日無理に休んだことを心配でもしてくれているのだろうか。
俺はその内容を見た瞬間、呼吸を忘れるほどの焦りと動悸に苛まれた。
(今日渋滞がすごいらしくて、華泉ちゃんがキヨにいつも通りの時間に出ていってたら遅れてたかもって感謝してたよ! )
それにあと体調大丈夫?という言葉がひとつ。
確かに、花山さんからもその旨の通知が10分前に来ていた。
これって……。
俺はすぐに花山さんに電話をかける。
……
クッソ……でない。
とりあえず何とか文殊に電話をかける。
「もしもし?」
「さっきのLINEって本当なのか?」
「え? うん本当だけど」
「花山さんに電話が繋がらないんだが、文殊からも電話してくれないか?」
「華泉ちゃん。今電源切ってると思うよ。さっき電話した時お母さんに集中しなさいって言われたからこれから電源切るねみたいなこと言ってたけど。どうしたの? 昨日から」
「どうしたのじゃねえ。このままじゃ……このままじゃ花山さんが」
前とは違う。
今度は俺の言葉によって、花山さんは遅刻せずに、事故に遭う。
俺が言わなければ良かったんだ。
見殺しにした昔とは違い、今度は俺が殺したんだ。
俺の沈黙を不安がる、文殊は声を荒げる。
「ねえ! ねえってば!? 何があったの? ちゃんと教えてよ」
「昨日花山さんの未来が視えたんだ。祝幸の時と全く同じ感じで」
「はあ!? どうして昨日言ってくれなかったの!!」
「言えるかよ! 言ってどうするんだよ。花山さんの前で言えるわけないし、文殊たちにも言えるわけねえだろ。そんな不安にさせるようなこと!」
「だからって……」
電話越しに文殊の小さくすすり泣くような声が聞こえてくる。
「今すぐ自転車飛ばして何とかする」
「何とかって場所は分かるの?」
「分からねえけど、何もせず耐えれるわけねえよ! 文殊は花山さんに電話してくれ。また何かあったらかけ直す」
「うん。分かった……」
俺は上着を羽織り、すぐさま家を飛び出す。
自転車に鍵をかけ、自転車を押した瞬間。
タイヤがペコッと沈み前に進まない。これパンクしてるのか……。
あまりにも最悪のタイミングだ。
母さんと親父はチャリを持っていないし、今は車で2人とも不在。
晴も今日はクラブかなにかの用事でいないと言っていた気がする。
この際、文殊の自転車でもいい。
もう一度文殊に電話をかけ直す。
「すまん。文殊自転車貸してくれないか?」
「え? 私今買い出しでスーパーに来てるんだけど」
そういやいつも日曜日は文殊が朝に店の買い出しをしていた。
親父たちもかなり遠くのお店まで仕入れに行っている。
親父たちを呼ぶのはもっと現実的では無い。
「スーパーっていつものとこだよな?」
「うん」
「じゃあ、今からすぐに行く。そこにいといてくれ!」
「分かった」
家からスーパーまでは2kmくらい。
走れば何とかなるはずだ。
その後のことは何も分からないが、とにかくスーパへと我武者羅に走る。
そろそろ半分を過ぎた頃だろうか。
息切れが激しくなる中、何とか時短をするためにできる限り道路を内回りで曲がっていく。
そんな時だ。
「危ない!!」
死角となっている道路を曲がった時、危うく自転車にぶつかりかけてしまった。
「すみません」
「すみませんじゃないってば。危ないからこんなことやめなよー」
「梨花大丈夫?」
聞き馴染みのある声と名前が聞こえ、顔を上げると俺がぶつかりかけたのは梨花だということに気づいた。
「あれ、梨花?」
「キヨアキくんじゃん」
「何知り合いなの?」
梨花と一緒にいるほかの3人のうちの1人が驚いたように梨花に尋ねた。
「そうそう。高校のね。てか、どったの? そんなに急いで。むっちゃハアハア言ってるし」
あと1kmくらい。
まともに走っていたら間に合うかどうか分からない。
今梨花の自転車を借りればどうにかならないだろうか……。
いや、もし梨花から自転車を借りれば、梨花はどうする?
友達と今から遊びに行くのに。そんな自由を勝手に奪っていいのか……。
でも、今は花山さんが一刻を争う事態だ。
背に腹はかえられない。
「なあ、梨花。自転車を貸してくれないか」
「ええ!? どうして?」
「いや、それは……」
なんでここでも俺は言葉が詰まってしまうんだよ。
言わなきゃ……。
「本当にどうしたの? 昨日から変だよ」
「いや……」
「キヨアキくん!! 教えて。何があったの?」
「……今から言うことは信じられないようなことだと思うけど、信じて欲しい。俺は未来が視えるんだ」
「えっ?」
「昨日本当は花山さんの未来が視えたんだ。だから、昨日ああいう風に言ったんだけど今日は渋滞が起きてるらしくて俺が視た未来通りに花山さんは事故に遭ってしまうかもしれない……」
俺が花山さんの未来を一番初めに視た未来から考えると、もしかしたら花山さんは死んでいないのかもしれない。
でも、結局今日を無事過ごせないと言うのなら、そんなの意味が無い。
「そのキヨアキくんの見た未来じゃ華泉は事故に遭うってこと……?」
「確信は無いけど、渋滞に巻き込まれるってことはそうなるかもしれない。だから頼む。自転車を貸してくれないか。何とか助けたいんだ」
「……」
「信じられない気持ちもあると思うけど、本当に頼む」
「違う。違うの。確かにキヨアキくんがその未来を見えるってことは100パー信じれないし、本当に何言ってるの?って思う気持ちもあるよ。でも、それ以上にどうしてまだ自分1人でどうにかしようとしてるの?って思ってるの」
「どういう意味だ?」
「うちずっと思ってたんだけど、剛くんが占いに来た時もあーことくっつけようとしてうちもちょっとは何か出来るかなって思ったけど、結局キヨくんがあーこを呼び出すことにして、族館デートも成功させてすごいなって思う反面なんか悔しくて」
「成功できたのはみんながいてくれたからいけたんだ。俺はあの時何度も視てやり直そうとした。でも、最後に成功したのはみんなが手伝ってくれたから」
「うん。わかってる……わかってるよ。でも、手伝ってくれたって言っても、協力したから成功したとは言ってくれないんだね」
梨花の言いたいことが俺には分からない。
何を伝えようとして、その言葉になんの意味があるのか。
「ごめんね。今更こんなずるいこと言って。うちはただ頼って欲しいの。キヨアキくんに。それはみんな一緒だと思う」
「だから今頼ってるんだよ」
「それは違うよ。ただこき使っているだけ。都合のいいようにしてるだけだよ」
俺はその言葉に息を詰まらせた。
晴と久しぶりに話した時に自分でも思っていたことをまじまじと突き詰められてしまったからだ。
梨花は俺が未来を視れることを黙っていたことにではなく、勝手に自分でどうにかしようとするところに怒っているのか。
「それは本当にごめん」
「じゃあ、後ろ乗って」
「へ?」
「うちはキヨアキくんの言葉を信じる。友達が本当にピンチだって言うのに、黙って見過ごせる訳ないじゃん。キヨアキくんはもう華泉の場所とかわかってるの?」
「いや、それは分かってないけど」
「じゃあ、まだやることがあるんじゃない。自転車飛ばしながら場所探すなんて無理ゲーでしょ?」
「でも、どうやればいいか……」
「多分、芦屋っちならちょっとくらいどうにか出来ないかな? 頼ってようちらを。うちらだって絶対に華泉を助けたいって気持ちがあるから」
「ありがとう本当に」
「そうだ。みんなごめーん。急用入っちゃったからさ、ちょっと映画無理かもー」
「梨花が行きたいって言ってたのにー。でも、なんかよくわかんないけど頑張ってね」
「カラオケには絶対に間に合うようにするから」
「じゃあ、また」
梨花の友達はそのままどこかに行ってしまった。
申し訳ない気持ちは募るが、そこまでして梨花は俺を信用してくれたんだ。
必ず……必ず花山さんを助けないと。
「本当にありがとう。今から芦屋に電話するよ」
「うん!」
頼む……出てくれ。
「もしもし。なんだい?」
「芦屋、今いいか? 1つ頼みがある」
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