第43話 彼女の未来が視えるまで

 まただ。

 目前に広がる赤色のトランプ。

 その中に俺は意識が吸い込まれていく。


 ここはどこだ。

 道路?

 車通りが多い中俺の視点から集中して視えるのは白色の車。

 その車が発進すると同時に俺の視点も共に動いていく。

 ゆっくりと時が進む中突如として視点が変わった。

 花山さん……か? 車の中にいるのは助手席に座っている花山さんと花山さんのお母さんか?


 一体何が起こるんだ……。

 俺の頭の中を駆け巡る最悪の想定。

 これが祝幸の時と同じならば……。

 考えたくは無い。だが、ゆっくりと俺の視ている世界は動き出す。

 9時30分を示している車の中のデジタル時計が31分になった頃、その世界は速く動きだした。


 視点が遠くに戻され、町全体が視える。


 ………。


 やめろ……見たくない。

 交差点に差し掛かる花山さんの車に対して、死角から飛び出す猛スピードのトラック。

 やめろ……やめろ!!


「はあ……はあ」


 息が切れる。

 体は冷や汗でぐっしょりとしている。

 花山さんは……?

 今は目の前にいる。

 ただそのことにとりあえず安堵する。


「どうしたのキヨ?」


 文殊の声に反応して花山さんも振り返った。

 もし、今見たものが祝幸の時と同じでもう一度そんなことが起きてしまうというのなら……。

 これはさっき泰音ちゃんに会ったからか…?

 いや、違う。

 ここでまた言い訳を作って逃げたら、俺は一生後悔するなんてレベルじゃない。向き合わなければいけないんだ。

 落ち着け……落ち着け俺。


「は、花山さん」


「何?」


「明日何時に家出ようとしてる?」


「会場に着くのが9時40分の予定だから。8時30分くらいには家を出る予定だよ」


「そうか。出来ればっていうか絶対にして欲しいんだけど、その時間より1時間早く出発できないかな?」


「1時間も? どうして?」


「その俺の占い的にな……」


 花山さんだったら俺の言葉を信じて早く出発してくれるはずだ。

 その時間に出発すれば間違いなく俺が視た事故は免れることが出来る。


「そう? うんわかった。お母さんにも頼んでみるよ」


「絶対に……絶対に頼んだぞ」


 不思議そうに俺の事を花山さんは見つめていたが、仕方がない。

 これで花山さんの死を免れるならば……。

 よし、最後にもう一度花山さんの未来を視よう。

 そうすればわかるはずだ……。


 ……


 どうして……視れないんだ……。


「じゃあ、お父さん外で待たせてるし、そろそろ帰るね」


「待って。待ってくれ」


「もうキヨ。華泉ちゃんのこと大好きなのは分かるけど、さすがにそろそろ帰らないと」


「えっ? あーキヨくんばいばい」


 そのバイバイに俺は言葉を返せなかった。

 返してしまえば、本当に最後な気がしたからだ。


「キヨアキくん大丈夫? 」


「ああ、大丈夫だ」


 俺はラーメン作りをできる体調ではなくなってしまったので親父と代わって俺は自分の部屋へと戻った。

 大丈夫だ……俺の言葉で未来は変わったはずなんだ。

 前と違って何もしなかったわけじゃない。

 そう言って自分を何とか落ち着かせる。


 その後も体調が優れないまま夜が更け、布団を被ってもなかなか寝付けない中俺はただ明日を待った。














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