第30話 俺たちの水族館作戦が始まるまで

 初めての高校生活の1週間がもう終わりを告げる。

 本当にあっという間だった。

 新しい勉強。新しい環境。新しい友達。

 全部俺にとって刺激的で忘れられないことだろう。

 え? 何この言い方、卒業式?


「気をつけて帰れよー。じゃあな」


「さよならー」


 ホームルームも終わり、今日は水族館に行く。

 梨花から昨日貰った連絡による2人はと、どこかで一緒にご飯を食べてからそのまま水族館に行くらしい。

 くっそ制服デートかよ。羨ましいな。

 そんな中俺たちのすべきことは2人の邪魔。

 哀れじゃあないか。俺たち。


「ねえ安倍くん。2時頃集合でいいんだよね」


「ああ、その予定だ」


「僕は帰るけど君はどうするんだい?」


「俺も帰るよ。服も着替えたいしな」


「そうだね」


「頑張ってねキヨくんも芦屋くんも」


 俺たちが話しているといつの間にか3人が来ていたようだ。


華泉けいが来れない分うちらが絶対邪魔するから」


 一度も聞いたことがないセリフだな。


「それで邪魔する方法とかは考えてきたの?」


「まあな。あの時の話を聞いた感じと渡辺さんの様子から察するに多分よっぽどな事をしなくてもミスると思う」


 でも、考えておかなければ行けないのは俺達が占いをしたおかげで(せいで)渡辺さんはかなりデートにふさわしい行動をしたことだ。

 皮肉なことに、それが原因で茨木さんにフラれることになるのだが。

 だから、その完璧な行動を崩さないといけない。


「思ってたんだけどさ。文殊みことはすーごくキヨアキくんのこと信じてるよね。正直言ってうちらが何もしなくても絶対ミスると思うんだけど」


「えっと、それは……」


 文殊は俺が視れることを知っている。

 だから、俺の事を信じてここまで付き合ってくれているのだろう。

 でも、確かにその事を打ち明けていない梨花達が不審に思うのは当然だろう。

 このことを俺は言うべきなのだろうか。


「まあ、うちは何でもいいんだけどね。楽しければ。あーこの気持ちも結局よく分かんなかったし、もっとはっきりさせたいってのはうちも思うから」


「ありがとうな。確かに俺、根拠もないのに馬鹿みたいだな」


「別にいいと思うけどね。僕も友達と何処か行くだなんて久しぶりでワクワクするからさ」


「芦屋もありがとうな。じゃあ、そろそろ下に降りるか」


「うん」


 必ずいつか俺の事を全て皆に打ち明けなければいけない時が来るだろう。

 その反応が未知すぎるあまり、俺は怖い。

 おかしな奴と思われ軽蔑されるのか、好奇な目で見られるのか。

多分どちらにしても今までの関係でいられなくなってしまう。

 でも、必ず俺の意思で皆にこのことを伝えよう。






 水族館には自転車で行ける距離にあり、そこに駐輪場もあるらしいのでもちろん自転車を飛ばしてきた。

 今は集合時間の15分前。ほかのみんなはまだ来ていないみたいで俺が一番乗りのようだ。

 ちなみに芦屋以外は自転車で来るらしい。

 肝心な集合場所は水族館の前の公園でかなり広い。

 一応池の周りの予定なのだが、思ってるより池がデカかった。

 これはあまり見つからなさそうだ。


「あれ、キヨ早いね」


「うわ。なんだ文殊か」


「は? なにその反応」


「いや、普通に驚いただけだ。俺より早いと思ってなかったから」


「ちょっとトイレ行ってただけ。梨花りか翔満とうまくんまだ?」


「まだ見てないけど、そろそろ来るだろ。それより渡辺さん達も2時頃来るって梨花が言ってたけど鉢合わせたら終わりじゃないか? もう少し早く待ち合わせすべきだっただろ」


「一応あの2人はご飯どこかで食べてから来るみたいだから、流石に私たちの方が早いと思うけど……。まあ、翔満くんがここから遠いし、この時間帯が1番まだましだったんじゃないかな」


「まあ、それはそうか。ってか久しぶりだな。文殊の私服」


「そう? 1週間ぶりとかじゃない?」


「1週間とかでももう制服に慣れちまったからな」


「ふーん。私は梨花や翔満くんがどんな服着てくるか気になるけどね」


「芦屋のことは何回も見たことあるんじゃないのか?」


「なんか翔満くんラーメン食べに行く時は基本同じ服にしてるらしいよ。理由はなんか色々言ってたけどよく分からなかったから忘れちゃった」


 あいつのラーメン熱は異常だな。

 ラーメン屋専用のドレスコードまであるとは。


「文殊ーー。キヨアキくーーん」


 少し遠くから聞き馴染みのある少しハスキーがかかったそれでいて綺麗な声が聞こえてきた。


「待った?」


「うーうん。今来たとこ」


 梨花と文殊がテンプレofテンプレの会話を交わす。

 うーむそれよりも目のやり場に困るな。

 そんな足だすファッションをされてしまうとこちらが困ってしまう。

 まあ、むちゃくちゃ似合ってるし可愛いんだけどね。


「キヨアキくんの服似合ってるじゃん」


「どうも」


 褒められると思っていなかったので少し変な返しになってしまった。


「えー私は?」


「もちろん文殊もだよ」


「すまない。遅れた」


「なんだ芦屋か……うぇ」


 想像の10倍オシャレな服装できやがった。

 てっきりチェックのシャツでも着てくると思っていたのに、こいつ結構顔イケメンだからすごい似合うんだよな。

 なんだよこいつ。普段と違って超好青年イケメンじゃないか。


「あれー芦屋っちすごくいいじゃん」


「えっあっどうも」


 反応は芦屋らしくて安心した。


「じゃあ、行こっか」


「水族館の中で待つ感じか?」


「うん」


「芦屋っちその服どこで買ったの?」


「え? あーこれは……」


「なんか2人仲良いね」


「そうだな」


 前を歩く2人を見ながら俺たちはそんな話をする。


「こう見たら2人とも華があるよね」


「確かにな」


 普通に友達と遊びに来たような感覚になる。

 正確にはそんな甘い話では無いのだが。

 俺たち卜占部初の校外活動にいい結果が訪れますように。











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