第29話 花山 華泉が感謝を見せるまで
「じゃあ次裏の3番のやつね」
「おう、わかった」
「じゃあ、行くね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ早いよ」
セリフと状況の描写を見る感じ 、女の子とお父さんの会話らしい。
「ここは方言あるんだな」
「愛媛県が舞台らしいね。一応さっきも喋り方の意識はしてたんだけどね」
「言われたら確かにイントネーションはいつもと違うかったかも」
普通に演技が素すぎて、花山さんが喋ったセリフではなく、完全にインパクトしか残っていない。
「もういい?」
「ああ、いいぞ」
妙に急かされるな。
「「ねえ、これ見とん」」
「「なんだ?」」
「「これ村の人の皆が手伝ってくれたんよ」」
「「そうか」」
「「これも全部お父ちゃんのおかげだよ。ありがとう!! 応援してね」」
これが俺とする意味があるセリフ。
台本には応援してねなんてセリフはないのだが。
もしかして、花山さんは俺に「ありがとう」って伝えたかったことか?
「ちょっと黙らないでよ……」
「いや、これが俺に言いたかったことなのかって思って」
「もうー。恥ずかしいからすぐ始めたのにー」
「でも、本当にこの言葉を伝えたかったの。ちょっと今の状態で言うのは恥ずかしいからこんな遠回しなやり方になっちゃったけど」
「俺、そんなに花山さんにありがとうって言って貰えることしたか?」
「私、ずっと芸能界にいるからあんまり友達と何か学校で遊ぶなんてこと自体ほとんどしたことなくて。特に部活とか1回も入ったことないから。昨日とかすごく新鮮で楽しくて」
「もちろん、感謝してるのはキヨくんだけじゃないよ。
確かに席が近い文殊や梨花とは仲良くなる機会があっても俺や芦屋が花山さんと仲良くなることは確かになかったかもしれない。
「そう思ったらなんか無駄なことなんてなくて、色々運命だったのかなって思って」
「というと?」
「あの日キヨくんのラーメン屋さんの前を通ったのもたまたまお父さんが車を運転してくれてたからだし。いつもお母さんが運転してくれるんだけどね」
「なら、俺も感謝しなければならない。前言ったように俺は昔にあんまり良くない思い出があって多分それを払拭するためにも花山さんたちの助けを借りていかなければ行けない。これからも迷惑をかけるかもしれないが、こちらこそ本当にありがとう」
「そうやって面と向かってありがとうって言えるのすっごくキヨくんのいい所だと思うな」
「そうか」
思いもしなかった所を褒められて少しむず痒い。
自分のいい所なんて自分ではあまり分からないが、こうやって言ってくれる人がいると少しは自信がつく。
「でも、受かるかどうかはまだ分からないけど……」
「またそれとは別問題。私はキヨくんの言葉を信じてるから、キヨくんも私のことを信じて応援してね」
「ああ、もちろんだ」
俺はもう1度花山さんの未来を見たいって思ってしまった。
俺は合格を掴んで喜ぶ花山さんの笑顔が見たかったんだ。
受からない未来があるかもしれないのに。
……
変わらない。前よりも日にちが近づいているはずなのに視れた時間が以前より減っている気がする。
一体どういうことなんだ。
「そうだ。みんな明日水族館行くんだよね」
「まあ、その予定だな」
「申し訳ないんだけどちょっと私用事があっていけなくて」
「そうか。全然構わないぞ」
「ありがとう。練習もちゃんと付き合ってくれて」
「期待に応えられたのならそれで」
「今日は何時までするの?」
「あんま決めてないが、5時位でやめようか考えてる」
「わかった。もうちょい自分で練習したり、台本覚えたりしててもいい? 声は極力抑えるから」
「ああ、もちろん」
「ありがとう」
そう言って花山さんは先程までの朝ドラ用の台本とはまた違ったしっかり分厚い台本を取り出した。
さすが人気女優とでも言うべきか。
多分、本当に今出演が決まっているドラマか何かの台本なのだろう。
花山さんが受かるかどうかは分からないが、知らない方が俺にとっても良い気がした。
これほど努力家な
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