第25話 俺たちが渡辺 剛の不憫な未来を変えるまで

「まず、女の子っていうものはリードされたい生き物なの。ね、華泉ちゃん!」


「私はどちらかというとそうかも」


「うちはリードしたい派なんだけど」


「ね?」


 文殊が梨花の意見をスルーして渡辺さんの方を向き、力強く圧をかける。


「いや、梨花は違うらしいけど」


「相場はそうなの!」


「へ、へえー」


 ここで1つ一切デート経験のない無い俺にひとつ疑問が浮かんだ。


「なあ、文殊。思ったんだが、あんまり水族館でエスコートするとかなくないか? 場所決まってる訳だし、行くルートとかも決まってるくないか?」


「ああ、それ俺も思ってた」


「うわあ」


 そんな引くなよ。俺そんなに変なこと言いましたかね?


「これだから、恋愛亡者は」


 おい、言い過ぎだろ。


「水族館って大体イルカショーとか他にもショーとかあるでしょ。その時間を先に調べておくことで上手く回ることが出来るかつ、良いショーの位置を取ってあげるの」


「おい、これってエスコートって言うのか?」


 俺は静かに芦屋に尋ねる。

 しかし、「うーん分からないな」といった分かりきっていた答えしかかえってこない。


「そこ、うるさい。イルカショーとか濡れるでしょ多分。だから濡れないようにしてあげるのよ」


「適当になってんじゃねえよ」


「そうだ。前水族館に撮影行った時、結構寒い事多かったからなんか相手が寒そうにしてたら上着とか着せてあげれたりしたら、より仲良くなれていいんじゃないかな。最近結構寒いし」


「なるほど。さすがだ」


「どういたしまして」


「むー。私の意見は?」


 文殊は頬をふくらませてぷりぷりとした声を出し、花山さんを褒めた渡辺さんに是非を問う。


「いや、桜井さんの方も参考になったよ。ありがとう。ちゃんとショーとか調べて行くよ」


「えへへ。どういたしまして」


 褒められて機嫌が良くなる。えらく単純なヤツだ。

 上手くデートプランを考えることが出来たので、次の占いへと移行する。

 1つ目の占いが上手いこと行ったので2つ目も当初の予定通り進めることにする。


「じゃあ、次は相手と仲良くなる方法を占いましょう」


「仲良くなる方法か。よし、頼んだ」


「じゃあ、先程と同じで質問するので強く思ってカードを引いてください」


「ああ」


「あなたは水族館デートにおいて相手と仲良くなるためにどのような事をするべきですか?」


 渡辺さんはさっき引いたカードと近くのもう1枚を引く。


「あーごめん。2枚引いちゃった」


何してるんですか一体。

ちょっと重なってるくらいだからすぐわかるでしょ。


「まだ見てないなら、そのどっちか選んでください」


「わかった。じゃあこっちで」


 出たカードは太陽がドーンと一面にあるカード。

 太陽の正位置だ。


「これむちゃくちゃいいカードですよ。このお題に対しての答えで言うなら、特に普段通りが1番って感じですね。無理に気負いせずに。それにこのカードは相手が自分のことを好きな可能性を示すカードですよ」


「まじか!!」


 渡辺さんが喜んでこちらを見た瞬間、俺は渡辺さんと目を合わす。

 その瞬間俺の意識は吸い込まれた。



 ◇



 ここはどこだ。

 水族館ではなさそうだな。外は暗く、街の夜景がかなり綺麗に見えるばしょだ。

 どこかまでは分からないが。


『あのさ、1つ言いたいことがあるんだけど』


『何、どうしたの?』


「ふう」と渡辺さんが一息ついて、唾を呑み込む。


『ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください』


『え、』


 沈黙の時間。


『ごめん。私今はクラブのこととか頑張ってて忙しいし、もし剛くんと付き合ってもそういう時間作れないかもしれないから多分剛くんに嫌われちゃうかもしれないし。それに私は今の剛くんとは付き合える気がしないの。だからごめんね……』



 ◇


 そこで俺の意識は現実に引き戻された。


 ……


 ド失敗じゃねえかあああ。

 いや、これどうにかなるってレベルなのか本当に。

 今は無理って言われたらそれ今は無理ってことだろ。うん、当たり前なことだな。


 確かに未来を視た感じでは占いで出た相手も好意を示しているというのは事実かもしれない。

 しかし、引っかかる今の剛くんという言葉。

 断る口実なのか? 俺にはただそんな気がした。


「急にぼっーとしてどうした?」


「え、あ、いや……」


 直接言える訳がない。

 何とかして2人が付き合うようにするには渡辺さんの方だけでは無理だ。

 本当に梨花たちに頼るしか無いかもしれない。

 なら、渡辺さんの方は占い通りに動いてもらうしか方法は無いな。


「これは良い結果しかないだろうなって思ってあははー」


 あははー。って笑えるレベルじゃねえけど。

 このまま行けば間違いなく失敗する。

 せっかくの一客さんにこんな思いさせるわけには行かない。

 必ず未来をより良い結果にする。

 そのためには……


「そうだよな。今日は来て良かったよ。何となく自信はついた」


「はい、こちらこそ」


 渡辺さんが帰る雰囲気になっており、文殊は困惑する。

 口では言えんが、今は帰すしかないってことを文殊に口パクで伝える。


 ???


 文殊の頭に?マークが見える。

 伝わるわけねえかこれじゃ。


「じゃあ、ありがとう。みんなもありがとな」


「え、ああ。さよならー」


 皆は困惑しながら手を振り、渡辺さんは帰っていった。


「え? 帰らせちゃっていいの?」


「うちらがどうにかするみたいなこと言ってなかったっけ?」


 文殊や梨花はてっきり渡辺さん一人でどうにかすると思っているらしい。

 しかし、それは俺がさっき未来を見て分かった。このままじゃだめなんだ。


「なあ、梨花。今から茨木さんって呼べるか?」


「え、いや分からないけど。一応電話しよっか」


「ああ、頼んだ」


梨花はそのまま廊下へと出ていった。


「もしかして、次茨木さんを呼ぶの?」


「ああ、2人の恋路を成功させるにはこれしかない」


 俺のその言葉で文殊はさっき俺が視たものをある程度察したのだろう。

 しかし、他はキョトンとしていたが。


 占い舘を始める時、文殊は俺の占いはよく当たると言っていたがそれは間違いではないし、多分事実だ。

 でも、1つ語弊がある。

 俺の占いがあたるのではなく、俺が占いのどおりになるよう動いているだけだ。

 俺は必ず2人の未来を変えてみせる。

 行動しなければ何も生まれないのだから。












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