第26話 俺たちが茨木 愛宕に会うまで

「おっけーだって。学校にいるみたいだし、あーこ来てくれるらしいよ」


 突然呼び出したのに来てくれる器量の良さ。

 しかし、なんて伝えたか気になるな。

 普通に占いしたいからなどと言ったのだろうか。


「ねえ、キヨくん。どうして茨木さんを呼んだの? 占いは良い感じだったように見えたけど」


 未来が視えたからなんてことは簡単にいえやしない。

 まず、この能力のことも知っているのは今となっては文殊だけだ。

 あまり下手に誰かに言えないし、言っても信じて貰えないだろう。


「茨木さんの方もしっかり話さないと良くない結果が出る気がして」


 正直茨木さんの方をタロットカードを使ってどうにかするといった話では無い。

 ただ、話を聞き俺が腑に落ちなかった部分を解消しなければ。そしてそこに渡辺さんの告白を成功させるためのヒントがあるはずだ。


 コンコン


「どうぞ」


「えーとここでいいのかな」


「来てくれてありがとー」


 梨花は手を大きく挙げ、茨木さんに抱きつく。

「ちょっともう」などと言い茨木さんも満更ではなさそう。

 ほう、いいね。


「まあ今日はクラブオフの日だし、色々遠足のことで教室に残ってたから大丈夫だったよ」


 遠足か。

 俺らも一応今月の終わりごろに遠足があるな。


「それで何するの?」


 茨木さんは俺らを見渡し、不思議がる。

 占いするとか言ってなかったのか。

 茨木さんからしたら本当に意味わかんねえだろうな。

 見渡した時にある人物が目に入ったようで。


「ええー花山はなやま 華泉けいちゃんいるじゃん」


 みんな絶対引っかかるんだなそこは。

 同じ学校にいるとわかっていても普通はスルーしないか。


「こんにちは」


 花山さんはぺこりと挨拶する。


「こんにちはー。可愛いねー」


「あ、ありがとうございます」


「それで本当になんの集まり? これ」


「うちらが占いする部活。名前は傍線部?」


「卜占部な。ちょっと違う」


「そうらしいよ」


「ぼくせんって何?」


「要するに占いする部活ってこと」


「そんな部活があったんだ。これってみんな1年生?」


「そうだよー」


「仲良いねー。部活作ったの?」


「うん」


「すごっ。それで私はなんで呼ばれたの? 占いしてもらえればいいの?」


「えっ。あーそれは……」


 急にみんなして俺の方を向く。

 うん、まあ俺が全部やったことだしね。


「その、梨花から友達に恋愛模様で悩んでるような子がいるっていうのを聞いて。俺らならそれをちょっと解決できるかなって思って呼んで貰いました」


 茨木さんはキョトンとした顔をしている。


「私ってなにか恋愛で悩んでるとか梨花に言ったっけ?」


「いや、別に言ってないっちゃ言ってないね確かに」


 言ってなかったのかよーー。

 じゃあ、なんだ。俺はてっきり茨木さんは梨花に渡辺さんのことを気になっている的な話してると思ったじゃねえか。

 しかも、俺と文殊が両想いがどうだとか喋ってる時梨花も同意してたじゃねえか。

 いや、冷静に思い返してみたら一回も梨花はイエスとは言ってなかった気がするな。

 あれ、これってもしかして俺と文殊の早とちり。

 でも、梨花結構茨木さんの話の時ニヤニヤしてたのは一体なんだったんだよ。なんも人の心理読めてねえ。

 やばくね? 占い師大失格じゃね。


「ああ、えーと一応お話でもしようかなと思ってたんですが」


「お話?」


「はい」


「うーん。でも、なんか面白そうだからいいよ。今だったら時間あるし」


「ホントですか。ありがとうございます」

 俺は茨木さんに椅子に腰かけてもらう。

 まさかのお話オーケーを頂けた。

 このチャンスを逃す訳には行かない。

 とにかく、あの言葉の真相を探らなければ。


「ねえ、君はなんて言うの?」


「俺ですか?」


「うん」


「俺は安倍って言います。他はあいつが桜井でこっちが芦屋です」


「よろしくねー。それで安倍くんは私に何を聞きたいのかな?」


「単刀直入に聞くんですけど、今気になっている人とかいますか?」


「えーとまあ、いないこともないけど」


「もう。前からあーこってなんか気になる人はいるけどって感じではっきりしないよね。だからうちもごうくんだっけ? その人のこと好きなんだと思ったんだけど」


 気になってるって聞いたらそりゃ梨花は茨木さんが恋愛に悩んでいると思うわ。


「ちょ、勝手に名前出さないでよ。別に剛くんはそんな好きって程じゃないよ。ちょっとね」


 なんですかその意味ありげな返事は。


「その人と2人で何かしたとかありますか?」


「なにかって?」


「えーと。例えば一緒にどこか行くとか?」


「あぁー。明後日一緒に水族館行くよ。私もすっごく楽しみなんだけどね」


 話していてますます今の渡辺さんが振られる理由がわからない。


「もし告白とかされたりしたら、どうしますか?」


 さすがに踏み込みすぎた質問をしたかもしれない。

 怪しまれそうで不安だが、ここまで核心ついた話をしなければ何も分からない気がしたからだ。


「えぇー何それ? まあ、別に付き合っても全然いいけど。今はクラブで忙しいからなあ」


「ええーでも剛くんと一緒のクラブなんでしょ?」


 ここにいる全員がまるで先程まで渡辺 剛がいた事などなかったかのように喋る。


「うーん。クラブはクラブで集中したいしね」


「でも、私はお相手のことをあまり存じ上げませんが、お2人お似合いだと思います」


「ほんとー? でも、桜井ちゃんは私の事を知らないからそういうこと言えるんだと思うな」


 急に冷たく言い放った茨木さんの言葉。

 茨木さんのことをもっと探っていくしかないな。

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