第20話 俺たちの部活が始まるまで

 今日の授業も全て終わり、HR後先程言われていたように先生から鍵を貰う。

 女子はみんな忙しそうだったので芦屋と共に部室へと向かう。

 鍵を開け、中に入るとワックスの独特の臭いと掃除の時に整頓した机の並びがあった。

 部室の中は机が三者面談のように向かい合って横並びに3台並んでいる。

 そしてそれ以外に椅子が何脚か散乱しており、長机が1台後ろに置いてある。


「こうみると結構広いな」


「そうだね。僕はどこに座ろうかな。出来れば机を使いたいんだけど」


「後ろの長机の所に椅子を持っていけばいいんじゃないの」


「そうさせてもらうよ」


 芦屋は椅子を1つ後ろの長机の所に置き、リュックサックからパソコンとあのノートを取りだした。


「お前そんなん持ってきてたのかよ」


「どうせ毎日忙しいわけじゃないだろうしね。僕の作業をする時間として利用しても構わないよね」


「全然いいけど」


 芦屋はノートに書いている事をパソコンに写していった。

 一通り写し終えると次は地図が画面に映し出されていた。


「なんだそれ?」


「これは僕の行ったことのあるラーメン屋にピンをさしているんだ。このピンを開くと僕が書いたレビューが見れる仕組みさ」


「すげえな。それネットかなんかに公開してるのか?」


「いや、僕の自己満さ」


 本当にすげえなこいつ。

 どんだけラーメン大好きなんだよ。

 まじこいつだけで東京中のラーメンウィキペディア作れるレベルだろ。


 ガラガラ


「よーす」


 梨花を先頭に3人とも来てくれたようだ。

 しかし、梨花は中を見るやいなや少し首を傾げる。


「こう見たら殺風景で地味じゃない?なにか置こうよ」


「何かって何だよ」


「水晶玉とか?」


「インチキ感増すけどな」


 占いをする部活とかいうただでさえ怪しいのにきてよりいっそう怪しさ醸し出してどうする。

 現状文化祭の出し物の方が客も来て形になりそうなレベル。


「確かに地味かもな」


「じゃあ、明日なんか色々持ってくるよ」


「一応私も看板なら持ってきたんだけど」


 そう言って文殊みことはリュックサックから看板を取り出した。


「これ木製だからちょっと重いんだけど、廊下に置いたりできないかな」


 占い舘の時は木製の看板の上にただ紙を貼り付けただけなのでそれを再利用するつもりなのだろう。


「それってもしかしてラーメン屋の所に置いてあったもの?」


 花山さんは懐かしむように嬉しそうに語っている。

 文殊が占いをすることを提案しなければ俺が今こうしていることもなかったのだと思うと感慨深い。


「そうだよ。懐かしいよね。これ廊下に椅子置いてその上に置いたらいい感じにならないかな」


「まあ、別にいいんじゃねえの。多分置いても邪魔にならないし」


 この教室は普段俺らが使うクラスの教室とは別の棟にあり、人の通行が少ない。

 それも5階にはほとんど特別教室がなく、端っこにあるこの教室は邪魔になることなどないだろう。

 5階に来る人などほとんどいないのでこの看板がまず目に付くかどうか分からないが。


「ふーん。前に華泉けいが占いしてもらったって言ってた時のやつか。聞いてなかったんだけど華泉は何をキヨアキくんに占って貰ったの?」


「ドラマのオーディションのことだよ。私今週末にそのオーディションに受けるから受かるかどうか占って欲しかったの」


「うっそまじ!? 一切知らなかったんだけど」


「ごめんね。言うタイミング逃しちゃったっていうか」


「うちむーちゃ華泉のこと応援してるからまじで」


「ありがと」


 梨花は花山さんの手を取り、胸の前でぎゅっと握る。

 2人のやり取りは微笑ましく、みてるこちらもにやけてしまう。

 そういや2人に伝えなければいけない事を思い出した。


「なあ、2人とも」


「うん?」


「連絡先教えてくれないか。一応部長として」


「いいよ。全然」


「確かに忘れてたわ。ってか別に部長じゃなくても教えるのにー」


「ありがとう」


「そうだ。クラブのグループ作らない? そっちの方が便利っしょ」


「そうだな」


「ほら文殊も芦屋っちも。パソコンばっか触ってないでこっち来な」


「ちょっと待って。この看板廊下に置いてくるから」


 文殊はずっと看板に貼るポスターを作っていたが、ようやくそのポスターを看板に貼り終えたらしくそれを空いている椅子と共に廊下へ持っていった。

 芦屋もスマホを持ち、とぼとぼとこちらの方へ来た。


「部活仲間っていう感じですっごくよくない?」


「うん。いいと思う」


 グループを作ることに花山さんも梨花も目をキラキラさせて喜んでいる。

 ただそれ以上に色々他の人のアイコンが気になってしまったんだが。

 梨花は中心部が黄色い白い花の画像だった。

 てっきりもっと派手なものを予想していたので逆に拍子抜けだ。

 花山さんは誰かとのツーショットのようで相手は知らない人だった。

 もしかすると花山さんのオーディションを受かったと言いたい相手ってこの人なのか?

 いや、根拠の無い深読みはやめよう。


「誰か来てくれるかなー」


 文殊は不安そうに嘆いた。


「前もなんだかんだ来てくれたんだし、気長に待ってたらいつか来るだろ」


「じゃあさ、いつ来るか分からないし。うちのこと占ってよ」


「え?」


「ほら、前言ってくれたじゃん。占うって」


 確かに言ったわ。

 ラーメン屋で初めて梨花に会った時今度占って欲しいと言われていた事を思い出した。


「わかった。じゃあ始めるか」


 占い部活(仮)始動。



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