第21話 俺が天元梨花をより知るまで

「それで占うのは金運でいいのか?」


「覚えててくれてたんだ。もちろん金運っしょ」


「そんなにお金に困ってるのか?」


「困ってるっちゃ困ってるんだけどして欲しい占いって言ったらやっぱこれかなって」


「わかった。任せろ」


 俺はリュックサックからタロットカードを取り出し、机に散らばす。

 芦屋も占いに興味を持ったのかパソコン作業に戻らず黙ってじっと見ている。


「うわあ、本格的じゃん」


「すごいよね。私も初めて占いして貰った時びっくりしたもん」


 確かに高校生が1丁前にタロットカードを使って占いしているなど聞いたことがない。


「金運に関する質問って言ってもどういう感じがいいとかあるか? 例えばこの先ずっと金運が良いかどうかを聞くか、もしくはバイトが上手くいくかどうかとか」


「両方って行けるの?」


「別にいけるが、金運に関しては精々1年くらいしか占いでも分からねえし、結局バイトとかとも関わるぞ」


「いいよ。これで2つとも良いの出たら将来安泰でしょ」


 果たして良いのが出るのかどうか疑問だが、これで2つとも悪いの出たら大分萎えるだろう。

 占いというのは一長一短。

 あまり信じすぎないことが大切。


「今から質問するからその質問を強く思ってカードを引いてくれじゃあ始めるぞ」


「うん」


「あなたがバイトで上手くいくためにどのような行動をすべきですか?」


 梨花はすぐにカードを選び、ひっくり返す。

 カードを見て、露骨に嫌な顔をした。


「あれ、これ悪くね?」


 梨花が引いたカードは女教皇の逆位置のカード。

 女王様のような絵が描かれたカード。

 梨花は占い好きなのでわかったようだが、このカードの逆位置は仕事の観点での質問の占い結果としてはかなり悪い。


「うん、このカードは仕事にうまく適応できないことを示して、悩んだりする事があるという意味のカードだな」


「その質問に最悪のカード引いてない!?」


 文殊の既視感があるツッコミ。


「まあ、ラーメン屋の方は俺が何とかするから良いとして、他にもバイト掛け持ちしてるんだよな。そこは大丈夫そうなのか?」


「1日目からパートのババアと揉めたけど何とかやってるよ。店長は優しいからうちのこと怒ってくれるし、楽しくできてて全然大丈夫︎︎」


 1日目から揉めるなど普通聞いたことがないんだが。あと口悪いな。

 でも、怒ってくれることをポジティブに思えるのはすごいな。


「怒られたり揉めたりしたら普通嫌にならないか?」


「私もお客さんとかとかの前でちょっと失敗したら何か言われないか不安になったりするよ」


 料理はからっきし駄目な文殊だが、それ以外は全て完璧にこなすので文殊が失敗するとこなど見たことがないが、案外そういった心配をしていることに少し驚いた。


「揉めたりつってもババアの教え方が下手でこっちがミスっただけだし、店長が怒ってくれたのもうちのことを気にかけてくれるから怒ってくれるわけじゃん。ババアも店長もうちの事をどうでもいいと思ってないってことだし。だから、悪いこととは思わないなー」


 梨花はこのカード通り仕事に適応できているかどうか微妙だが、梨花の考え方なら特に仕事で悩むことなく、これからも上手くやって行けるのかもしれない。


「じゃあ次に、金運の占いだな」


「よし、ばっちこーい」


「あなたの今の金運はどうですか?」


 すぐにカードを引いた先程とは違い、今度はかなり熟考している。


「おい、そんな考えて引くもんじゃねえぞ」


「ちょっと待って、よしじゃあこれ。あ……」


 そのあ……の後に続く言葉はなかった。

 梨花の引いたカードは悪魔の正位置のカード。

 大きな角を持った悪魔が鎖で裸の男女を繋いでいるというかなり見た目から良くないオーラ満載のカード。

 今回に関しては逆位置であれば、全然良かったのだが正位置になると話は逆だ。


「これは悪魔の正位置だな。人間の心の弱い部分を表したカードで散財や無駄な出費が生じるといったカードだ。何か心当たりはあったりするか?」


「一つだけ……」


「なんだ?」


「先月、捨て猫を拾ったの。その猫の育てるお金に結構使っちゃったりして。ッでも、しょうがないじゃん。ほっておいたら可哀想だし、あんなに可愛い娘放っておけないよお」


「その気持ちは確かに分かりますね」


 梨花のペットトークに意外な人物が共感した。


「芦屋もペット飼ってるのか?」


「ええ、家には結構な数がいるので。天元さんの猫ちゃんが喜ぶか分かりませんが、なにかキャットフードや猫用の道具でもあげましょうか? 腐るほどあるので」


「まじで? 良いの?」


「これで散財も解決じゃん! キヨアキくんに占いしてもらったおかげで巡り巡ってなんかいい感じになったかも」


「俺が言うまでもなく、梨花なら多分上手くいくよ。タロットの結果としては悪いものばっかりだったかもしれないけど、色々聞いてて俺には梨花が困るようには思えなかったな」


 梨花と直接話して、今まで知らなかった一面も見れた気がする。

 相手をより知ることが占いをすることの利点のひとつかもしれない。


「むーちゃ楽しかった。ありがとキヨアキくん」


「どういたしまして」


 梨花の占いを終えたちょうどその時ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 俺は声を張り上げて、外にいる人を呼ぶ。


「うわ、まじで占いじゃん」


 机に散らばっているタロットカードを見て男の人はそう言った。


「どうしました?」


「ここって占いしてるんですよね?」


「はい」


「じゃあ、占いお願いしてもいいですか?」


 まさかの1日目から大忙しの予感。






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