第19話 俺たちが掃除を終えるまで
「なんだこれは?」
階段の踊り場の壁に貼られている簡易的に作られた紙のポスターに目が止まる。
5階奥の教室で占いしてます。
本当にただそれだけが書かれている内容極薄のポスター。
いや、ポスターとも呼べるかが怪しいのだが。
大体こういうのはクラブ紹介で新しい部員を確保するために貼るためのもののはずだが。
実際、横にはサッカー部のクラブポスターがあり、そこには活動日や部員の数に加えて体験を待っていますなどと書かれていた。
「あのー花山さん。コレ何か知ってる?」
「あーこれ今日、
「あいつこんなの持ってきてたのかよ。しかも、ここって勝手に貼ったらダメだろ」
「流石に許可は得てるんじゃないかなぁ」
花山さんも困り気味なご様子でいらっしゃる。
まあ、それでも文殊なら大丈夫だろう。
文殊は確かにアホっぽくぽわんぽわんした感じだが、実は要領がよくなかなかに頭が切れる。
だから勝手に行動して怒られるような真似はしないだろう。
「文殊は優等生で頭がいいからな。心配しなくても大丈夫だろ」
「文殊ちゃんってすごく頭良いよね。今日の数学の授業でびっくりしちゃった」
「中学生の頃から成績は学年でもトップクラスだったし、ここに来た理由もあんまりよく分からんしな」
「確かにキヨくんの辺りからここは別に近くもないしね。だから文殊ちゃんにとって何か特別な意味があってここに来たんじゃないかな」
「そうかもな。早く行かなきゃ昼休み終わっちゃうかもしれないし、もう行こう」
「うん」
文殊がここに来た特別な意味か……。
俺にその意味が分かる時が来るのだろうか。
「ごめんね。持ってもらって」
「いやいや流石にこれくらいは持つよ」
1階の倉庫でワックスをバケツにとりあえず多めに入れておいたためかなり重くなってしまった。
だって適量が分からないからね仕方ないね。
その重めのバケツを1階から5階に運ぶかなりの重労働ももうゴール寸前。
花山さんの前では強がったものの腕がもう悲鳴をあげている。
「私が先に開けるね」
ガラガラ
「ようやく来たか」
「もう。
「うちらもーこっちの掃除大方終わったよー」
くっそ楽しやがって。
ペアが芦屋とならランドセルじゃんけんに倣ってバケツじゃんけんでもしようと思っていたが、花山さんなのでそんなことは出来ない。
ってか、今の子ってランドセルじゃんけんとかしてるのかな。
「じゃあ、残り3人にワックスで床を掃除してもらおうかな」
「うわ、そうだった」
露骨に3人とも嫌な顔をする。
「すまん。雑巾が2つしかないからあとの1人は私たちと一緒に先に
俺たちにもまだ労働が残っていたようです。
しかもその机や椅子って1度他の3階の空き教室に運んだやつじゃん。
絶対廊下に少し机や椅子を残しとくべきだっただろ。
「えぇーあと1人ってどうする?」
「私はあんまり力仕事したくないからワックスでもいいけど汚れるのやっぱり嫌だしなあ。
「僕はどちらでも」
「うちはどっちも嫌って言うかなんというか」
ゴニョゴニョ3人で相談をしているようだ。
埒が明かなさそうだったので先生が相変わらずの独断で決めることにする。
「桜井と天元がワックスをしろ。芦屋はこっちだ」
「えぇー」
「雑巾にワックスを浸して床を掃除してくれよ」
「うわ、もう白いのがはねたって。臭いー」
女の子がキャッキャキャッキャワックスではしゃいでいらっしゃる。
楽しそうでなにより。
「じゃあ、私たちは取りに行くから。それまでによろしくな」
「はーい」
気の抜けた返事が2人から返って来る。
あの2人がまともに掃除などするのだろうか。
その心配とは裏腹に俺たちが戻ってきた時には既に終わらせていたようだった。
「もう、バケツとかも全部片付けておいたよ」
「えらく仕事が早いな」
「うちらやれば出来る子なんで」
このワックスをつけたあとの足の滑らなさに懐かしさを感じる。
「今日から部活をはじめるんだよな」
先生が俺の方を見て確認をとる。
「そうですね。その予定です」
「みんな私のクラスだし、これからは早く部室に行くやつがHR後に私から鍵を取りに来い」
「よし、掃除みんなありがとな。解散」
手がもう筋肉痛の予兆を感じるほどヒクついている。
もはや占いなんかよりよっぽどしんどいんだが。
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