第18話 俺たちが部室を掃除するまで

「そこも綺麗にしといてくれよ」


 昼休みに俺たち5人は先生に呼び出され、部の活動部屋となる空き教室に来ていた。

 ずっと使われていなかったようで埃は溜まり、椅子や机がまばらに散在している。


「どうしてこんなに汚いんですか?」


「さあな。私がここに来た時からこんなんだったからな。一応今は私の管轄ってことになってるらしい。誰も使わないからな」


「これ制服チョー汚れるんすけどー」


 梨花はそう言って制服のスカートを折り畳む。

 いや、それ以上折ったら見えちゃうから。

 恥じてください。もう少し。


「おい、天元。そんな格好をするな」


「えぇー。汚れるの嫌ですしー。あと別に誰も気にしないですよー」


「気にするかどうかの問題じゃない。風紀の問題だ」


「先生きびしー。そんなんじゃモテないよー」


「も、モテない。私モテないのか。そうだよな。言い過ぎたな、ごめんな。天元」


「急に元気無くしすぎ!!」


 梨花の一撃が先生にクリーンヒットしたみたいだ。

 あまりに元気を無くしてしまった先生に文殊も思わず突っ込む。


「でも、なんかそういうとこ奏仁かなみさんに似てるなー」


「あれ、桜井。どうして私の妹の事を知っているんだ」


「あれ、キヨから聞いてないんですか? てっきりキヨが奏仁さんの占いをしたこと話して部活の顧問になってもらったと思ってたんだけど」


「そんなことがあったのか。なら、それを先に言えば良かったのに」


「確かにそうですね」


 よーしこのままこの話は無かったことになれば良いのだが。


「ん、いや待てよ。なあ、その時に奏仁は私の事を何か話さなかったか?」


「先生の事ですか?」


「ああ、例えば。私の恋愛事情とか」


 あ、オワタ。


「ああ、言ってましたよ。最近お姉さんが彼氏と別れただとか言ってましたけど本当なんですか? 本当ならば、なんかごめんなさい」


「いやいや桜井が謝る必要は無い。もっと私に謝るべきやつがいるよな。なあ安倍」


「そうですよね。ほんとうにそうだと思います。本当に申し訳ございませんでした」


 俺の直角お辞儀で何とか許しを乞う。


「占いだとかどうとか言ってたが、まさかな」


 俺の中で嘘はついていないと勝手に理屈をつけて誤魔化していたが、文殊に全てをバラされて終わってしまった。


「ち、違うんすよこれは。別に嘘じゃないんすけど嘘は方便っていうかそのそういう類のやつで」


自分でも一切何を言っているか分からない御託を並べる。なんだよこれ、結局嘘じゃねえか。

それに「はあ」と先生が大きなため息をつく。


「まあ、昨日奏仁はお昼にケーキを食べたらしくて、プリンじゃなくケーキを買って帰っていたらあまり喜ばれなかったかもな。まあ、そのことを踏まえて今回のことは大目に見てやろう」


 先生が優しくて助かりました。

 おそらくケーキを買っていても、仲直りをすることは出来ていたが一応2人とも余計なこと考えずハッピーな方が良いしな。

 こんなことのために未来を視たことには俺自身もどうかと思うが。


「じゃあ、床の掃除は終わったし。あとはワックスがけと窓や壁拭きで別れるか」


「今さらワックスとかする意味はあるんでしょうかねえ」


 5人で集まってから一言も喋ってなかった芦屋がボソッと文句を口にした。

 前から思ってたけどだいぶこの人女子のこと苦手だね。

 明らかに口数が減っているから分かりやすい。


「私だってする意味があるが分からんが、なんかした方がいいだろ多分」


「私ワックスとか小学生以来かも。あの匂い結構きつくてあんまり好きじゃなかったな」


 花山さんもワックスのきつさを経験したことがあるのか。

 まあ、普通の小学生なら1度くらい経験あるか。


「しかも、ワックスって取りに行くのむっちゃキツくなかった? 重くて大変だったな。男子とかにいつもやって貰ってたよ!」


 あの、文殊さん。

 恐ろしいほどしれっと俺たちに取りに行かせようと誘導してないですか?

 怖いんですけど。


「あぁ、確かにそれはあるな。じゃあ、安倍と花山で1階の物置部屋から取ってきてくれ。鍵はここにあるから」


 じゃあってなんのじゃあだよ。


「えぇー先生。華泉けいが可哀想だよ。芦屋っちとキヨアキくんの男子2人組で行った方がいいよ」


「うん、私もそっちがいいと思う!!」


「いや、残念だが私は平等を重んじる先生でな。安倍と誰でも良かったんだが。まあ、花山でいいかなて思っただけだ」


「なんで俺は確定なんすか」


「そりゃあさっきのことがあるからな」


 まだ根に持ってるのかよ。

 平等を重んじるとはいったい。


「私は大丈夫だから。じゃあ行こっかキヨくん」


「ああ、そうだな」


 教室から出ようとした時に俺の方を涙目で見つめる芦屋の姿が見えた。

 いや、君はもうちょいみんなと仲良くなろうね。


「あ、やべ。鍵もらうの忘れたわ」


「私が持ってるから大丈夫だよ」


「そうか。良かった」


「まだよく知らない学校を見て回るのってすごくわくわくするね」


「そうだな」


 うむ…… これはもしかしてデートなのでは(違います)。

 そんな別のわくわくをも感じながら俺たちはワックスを取りに行った。

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