第17話 安倍 晴が兄のことをより知るまで

 これから部活動が出来る喜びを噛み締めつつ、家に帰ると偶然家の前で妹のはるに出会った。


「おかえり」


「ただいま」


 安心したような柔和な笑みを俺に見せた。

 晴にただいまと言うのはかなり久しいようにかんじる。

 ずっと俺の方が遅く帰っており、まともに晴と喋ること自体最近になってからだからかもしれない。


 俺は自転車を止め、家のドアを開けると先に家に入っていた晴と文殊みことが喋っていた。

 俺の家は1階が丸ごとラーメン屋に改装されているので俺の家にほぼ玄関がなく、厨房裏から2階に続く階段がある仕様。

 プライベートもくそもないね。こんなの。


「おかえり、キヨ。クラブのことどうだった?」


「無事、オーケー貰えた。明日からもう活動出来るんだとよ」


「やったー!! 私もみんなとのクラブがどうなるのかすごい楽しみなの」


 文殊は小さくガッツポーズをして、俺にハイタッチを要求してくる。

 パチーン

 痛えし、恥ずいわ。

 勢いMAXで文殊がハイタッチをしてきたため手がジンジンする。

 ってか、帰ってきたばっかで手を洗ってないんですけど。


「おい、俺手洗ってないんだけど」


「え、あぁー 気にしなくていいよ。大丈夫」


 大丈夫じゃねえけどな。

 でも、文殊が俺以上に喜んでくれたことはすごく嬉しい。

 直接言葉にするのは恥ずかしいので心の中でありがとうとだけ言っておく。


「ねえ、お兄ちゃんまたクラブ入るの?」


 晴にはまだ占いをする部活動とかいうたわけたことを言っていなかった。

 まあ、言ったところでなんだけどね。

 変じゃん。普通に。


「まあな」


「またサッカーするの?」


「もうしねえよ」


 晴がこう言ったのは俺が小学校の時サッカー部に入ってたからだろう。

 中学校の時は無所属の俺だが、今思うと小学校の頃は楽しく頑張ってたなあと懐かしく思える。


「晴ちゃんも小学校の時サッカー部だったよね」


 文殊の何気ないその言葉がこの場の空気を凍らせる。

 そう、なぜなら晴はそのことを消し去りたい記憶のように扱っているからだ。

 俺の2歳年下の妹は俺が小学6年生の時、4年生。

 兄妹同士で同じ部活に入ることなども可能なのだ。

 その時の晴は可愛いことにお兄ちゃん子で俺のことが大好きだった。

 何をやるにしても俺の真似事ばかりだった。

 だから、俺と同じ部活に入ったのだろう。

 そして、晴は成長して気づいたのだ。

 兄と同じ部活に入ることの異常性。それに加えて、男子しかいないサッカー部。

 このことは晴にとっての黒歴史。

 絶対に開けてはいけないパンドラの箱であり、このことに触れないというのが俺たちの中の暗黙の了解なのだ。

 しかし、その禁忌を彼女は土足でにじにじしてしまったのだ。

 俺は恐る恐る晴さんの方を見る。


 ひぃい


 にっこりと笑っているようだったが目が殺すと訴えかけるような目をしていた。

 ほんと怖い。妹だと思えないくらい怖い。


「そんなことより、2人ともなんの部活するの?」


 そんなことで一蹴しましたよ。この人。


「キヨが占いをする部活だよ」


「お兄ちゃんが占い……。なに、コント?」


「ちげえよ。占いをするっていう部活動なの」


「誰が行くの?」


 晴さんはえらく不思議がっているご様子だ。


「それはまだ分からん。明日から活動するからな」


「部員は2人だけ?」


「いや、5人で活動予定だ」


「他にも来てくれる人なんかいるんだ」


「聞いて驚け。あの花山 華泉が共に部活動をしてくれるぞ」


「あはは。またその話。お兄ちゃん、大丈夫?」


 こめかみに指をちょんちょんとさせながら言うんじゃない。

 頭おかしくなったわけじゃないから。


「え、ホントなの?」


 俺が黙ったせいで晴は不安になり、文殊の方へむく。


「うん。ほんと」


「なんか色々言ってたけど同じ学校だったんだ」


「あの時は春休みの期間中に出会ったってだけで同じ学校とは知らなかったんだよ」


「なんか凄い情報過多すぎるんだけど。お兄ちゃんはどうして学校でも占いなんかしようとするの?」


「それは……だな」


 俺は確かにどうして占いをしようとしているんだろうか。

 先生の前では自分の成長などといった大それたことを仰々しく言ったものの本音はそんなもんじゃない。

 梨花に部活を作るよう言われ、それが俺のやりたいことなどと親父の前では言ったが、これはただの逃げなんじゃないだろうか。

 ラーメンと占いを天秤にかけた時、占いをすることの方が自分にとって都合がよく傷つかない方法。

 俺はただ周りを巻き込んで楽な方へと向かっているだけではなかろうか。

 そう思うと俺はその質問にすぐに答えることができなかった。


「私はキヨがどう考えてるかなんて分からないけど、占いをすることがキヨのしたいことであって私たちのしたいことでもあるからだよ」


「みんな占いをしたいって思ってるてこと?」


「うーん。私たちみんな占いが好きなんだけど、占いが出来るのがキヨだけなんだ。だから部活の中だったら何時でもキヨに占いして貰えるかなと思ったり、キヨの占いの腕はすごいと思うし、それが誰かの役にたつかもしれないから」


「だから。私たちの部活を作ったの」


 文殊の言葉に気付かされた。

 もう塞ぎ込んだ考えはやめよう。

 文殊も先生も梨花も花山さんも芦屋も……芦屋はどうか分からないけど、みんな信じてくれているんだ。


「ありがとうな文殊」


 文殊はただコクリと頷く。


「なんか楽しそうだね。私もお兄ちゃんたちのこと応援してるね。これから何かあったらまた色々教えてね。じゃあね」


「バイバーイ」


 晴はそのまま階段を登って行った。


「明日から活動するから一応2人に連絡しといてくれないか?」


「いいけど、連絡先くらい自分で持ちなよ」


「わかってるよ。マジでありがとな」


「じゃあ、またあした」


 明日から気持ち切り替えて、気合いいれていくか。


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