第15話 俺が過去と向き合うまで①
「とりあえず芦屋。ここに署名してくれ」
「これは?」
「部員になる人の名前の署名が必要なんだよ」
「それならもちろん書くよ」
先程、先生から貰っていた紙を皆に見せて書いて貰わなければいけない。
ちょうど4限の授業が終わったため、あとは残りの女子3人にこれを書いてもらうだけだ。
そんなことよりも午前で終わる学校サイコー。
明日から普通に午後もあるが。
とりあえずあのクラスの中心みたいになって目立っているあの3人には容易に近づけない。
あの3つの席横並びは中々に脅威だ。
俺はタイミングを見極める。
やばい。梨花が帰りそう。
「あの〜御三方」
「どうしたの?」
既にリュックを背負って早く帰ろうとしている様子の梨花が俺に尋ねてきた。
「この紙に署名してくれないか。クラブのやつなんだけど」
そして早々に3人に署名をしてもらうことを完了した。
「マジでありがとう。じゃあ行ってくるわ」
「うん。バイバーイ」
後ろからなんであんな急いでるんだろう? という声が聞こえたが俺は気にせずその場を去る。
だってもしこの部活のことを誰かに聞かれたらやばいじゃん。
絶対話題になるし、入りたいだろ。
だって女優がいるんだぜ。
俺は部活を作ったあと占いをするために客が来てもらうのは嬉しいが、朝にした花山さんとの約束を果たす場所としても活用したいのでいきなり話題になりすぎると困る。
職員室にいた先生を呼び出し、先程の空き教室に向かう。
「これ用意した紙です」
「本当に5人集まっているんだな」
「……へー花山 華泉。なんでこの子も入ってるんだ?」
「あぁ、俺花山さんと友達なんすよー」
人生に一度は言ってみたかったシチュエーションかもしれない。
そう、有名人と友達。
多分有名人と友達ってだけで優越感を感じるんじゃなかろうか。
まあ、多分こんなことを自慢するやつは友達失格そうなのでこんな事を言うのは今日で最後にしよう。
「あとは芦屋と桜井と天元か。なんというか凄いメンバーだな」
「それって褒めてます?」
「ああ、受け取り方によっては」
「それ、褒めてないですよね!?」
先生はハハッと快活に笑った。
笑った時に見える八重歯が可愛らしいんだなと無駄な発見をしてしまう。
「じゃあ、占いをしましょうか」
「ちょっと待て。私も冷静に考えてみてやっぱり占いは今はしなくていいかもって思ったんだ」
「どうしてですか?」
「どうしてって。そりゃ、私は占いなんて一切信じないけど、現にあいつの言う通りになっちまったし。しかも私はまだ彰のことが好きなの。もし、無理に占いしてまた変な事がわかっちまうのが嫌なんだよ」
「もっと前向きになりましょうよ」
「うるせえ。高校生なりたてのガキにはわかんねえだろうけどよ」
そう言って一条先生は軽めのデコピンをしてきた。
距離感の詰め方えぐくないすか。まだ俺ら出会って2日目ですよ。
でも、俺が一条先生に言ってたことは全て自分に返ってくることだった。
何が前向きになりましょうだよ馬鹿か。
自分のことを棚に上げて喋りすぎていた。
1番前向きになるべきなのは俺だったのに。
「俺にも分かりますよ。先生の気持ち少しは」
「へえ。安倍も誰かと付き合ったりしていたのか」
一条先生がニヤニヤと嬉しそうに俺に聞いてきた。
なんか恋バナの話になると女子は若返るっていうのはホントなのかもしれない。
同年代と喋ってる気分だ。
「付き合ったりとかじゃないですけど、ずっと好きだった人がいましたから」
「もしかして、振られたのか?」
「振られるまでもなかったですよ」
一条先生が首を傾げて、頭から?マークが見えるほどの困惑を見せていた。
「どういうことだ?」
「死にました。交通事故で」
「え。ああ、すまん。あんまり深く聞かない方が良かったな」
「いえ、そんな気にしないでください。俺が意味深な返事したのが悪いんで。良ければ先生の占いの代わりと言ったらなんですけど俺の話聞いていただけませんか」
どうして俺がこんなことを言ったのか自分でもはっきりと分からない。
でも、ただ誰かに自分の思いをぶつけたかったのかもしれない。
もしくは、まだ知り合って間もない大人だからこそ話したいと思ったのかもしれない。
「わかった。私なんかで良ければ聞かせてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます