第13話 俺の憂鬱が消えるまで

 昨日は色々あったが、みんなが帰ったあとはいつも通りの日常だった。

 新しく高校生になったという新鮮な気持ちを除けば特に中学生の頃と変わらなかった。

 今日は文殊みこととも一緒に登校せず、1人で優雅に風を浴びながら登校する。

 1人でいることによって気づける街並みや自然。

 これらの風景が高校生活という素晴らしき青春の1ページになると思うと、期待が膨らむ。


 そうこうしているうちに学校に着き、今日は一条先生に創部の相談をしなければいけないことを思い出し、少し憂鬱になる。

 だってあの人ちょっと怖いんだもん。

 しかも、クラブで占いをさせてくださいなどという意味のわからないことに承諾をしてくれるだろうか、いやしないだろう(反語)。

「はあ」と思わずため息をついてしまう。


「元気ないね。どうしたの?」


 俺の顔を覗き込むように現れたのはあの花山はなやま 華泉けいだった。

 昨日は人に囲まれていたこともあり、しっかりと見えていなかったが近くで見る花山さんの制服姿は超ヤバイ。

 あれですね。こんなに可愛い子に超マッチする可愛い制服のブレザーを作っていただいた方には感謝したいですね。

 本当に。


「昨日言ってたクラブのことがちょっとね」


「確かに、一条先生顧問してくれるか分からないもんね」


「それに皆にもやっぱり迷惑かけてるんじゃないかと思って」


「私は全然そんなことないけどな」


「ほんとうか?」


「うん! 私はキヨくんにまた会えて嬉しいなって思うし」


 なんでこの人はこんなに人をドキドキさせることを平気で言えるんだ。


「ちょっとそんなに照れないでよ。私まで恥ずかしくなるじゃん」


 そういって花山さんも頬を紅潮させていた。

 可愛い。


「あと私は一緒にみんなと部活動とかするの憧れるし、それに……」


 花山さんは顔を俺の耳に近付け、囁く。


「キヨくんと一緒に演技の練習したかったし。努力をすれば私は受かるんでしょ、占い師さん」


 耳元で俺の自信をつけるようなことを綺麗な声で囁かれたらやばい。

 うっかり好きになってしまいそうだ。

 俺は心に決めた人がいるというのに。

 これを素でやってのける女優の力。

 恐ろしい。


「じゃあね」


 そういって花山さんは俺に手を振り、先に教室へと入っていった。

 俺は放心状態で手を振っていたと思う。

 まさにあれかにもあらずの状態。


 俺も花山さんが教室に入って少ししてから中に入ると、高そうなヘッドホンを付けて俺の方を異様に見てくる芦屋がいた。


「昨日は寝てたのに、今日は音楽を聴いているんだな」


「おはよう。僕は友達が来るのを待っていたからね」


「あっそ」


「昨日のことなんだが、君が占いをするというのはどういうことなんだい?」


 そういやこいつは俺が占いができるって事を知らなかったな。

 それなのに昨日は特に何も聞かずになんだかんだ了承してくれたのはどういうわけだったのだろうか。


「多分お前はノートに書くのに精一杯で聞いてなかっただろうけどさ。俺占いが好きで、昨日花山さんにも占いしたことがあるって話をしてたんだ。学校が始まる前にあのラーメン屋で占いしててさ、また本格的にやりたいって思ったんだよ」


「そういうことだったのかい」


「ってかどーしてお前はすぐに了承してくれたんだ?」


「昨日その理由はいったじゃないか」


「いや、あれ建前だろ」


 だって、今冷静に考えると本音だったら中々痛いやつだぞ。


「本音半分建前半分だよ」


「じゃあ、本音は?」


「そりゃ、あの空気で断れるわけがないだろう。しかもああいうギャルは僕が断った瞬間、は?キモ とか言って責めてくるに違いないんだ。あのかしわさんのように」


「いや、お前の昔話とか知らねえし。あと天元さんはそんな人じゃないだろ」


「まあ、昨日言ったことも正しい訳だしもっと君を知りたいというのも本音さ。友達としてね」


「ほんとかよ」


「おーはよ!」


「うわあ」


 急に横から声をかけられて、俺たちふたりとも情けない声が出る。

 噂をしていたら天元さんが来ていたらしい。

 天元さんがもう少し早く来ていたら芦屋の人生は終わっていただろうに。

 運のいいやつだ。


「そんな驚かなくて良くねー。うちら友達なんだし喋りに来ただけなんだけどー」


「僕と天元さんが友達……」


「芦屋っちも友達なんだから天元さん呼びじゃなくて梨花りかって呼んで」


「り、リカさん。いや、やっぱり無理だ」


「キョドりすぎっしょ」


 天元さんもとい梨花は口を手で覆ってクスクスと笑っていた。

 意外に上品なとこもあるんだな。

 こんな事口に出しては言えないが。


「梨花。今週の土曜日暇か?」


「なになにデート?」


「違う。働いてくれるんだろう。朝7時半に五芒星ごほうせいに来れるか? そこで色々仕込みとか作り方とか教えるから」


「マジで! キヨアキくんが教えてくれるのちょー楽しみなんだけど」


「来れるってことでいいんだよな。これから頑張ってくれよ」


「うん。それならキヨアキくんこそ」


「どうして?」


「この後先生に言いに行くんでしょ? 私も一緒に言いに行こうか?」


「いや、1人で大丈夫だ。ありがとう」


「応援してるね。じゃあ2人ともバイバーイ」


 梨花は自分の席へともどっていった。


「天元さんすごく良い人だね」


「おい。さっきと言ってることがちげえじゃねえか」


 その時、チャイムがなると同時に先生が教室に入ってきた。


「今からHR《ホームルーム》した後、そのまま私が授業するからな」


 勝負は授業が終わったあとの10分休み。

 なんかよくわからん腹の痛みに襲われそうです。

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