第12話 俺たちが新しい場に進むまで

「うちがここで働いて、キヨアキくんは占いが出来る部活を作るの」


 は?何を言い出しているんだ?

 天元さんがここで働いても、ラーメンを作れる人手がすぐに増える訳じゃない。

 それに部活ってなんだよそれ。


「いや、意味がよく分からないんだが」


「文殊はラーメンを作れないみたいだし、うちがここで働く時キヨアキくんが私に作り方を教えてよ。キヨアキくんのお父さんもキヨアキくんの腕を認めてるからラーメンを作って欲しいんでしょ?そうですよね」


「まあ、それはそうだが」


「じゃあ、うちがここで働いてもいいですよね?」


「それなら全然構わんが」


 じゃあの意味もよく分からないし、そんな圧迫面接みたいなことすんじゃねえよ。

そして俺が手伝うということで話が進んでることに文句はあるがまあそこは許容できる。しかし、それ以上に問題がある。


「それより、占いをする部活ってなんだよ」


「うちだってキヨアキくんに占いをして欲しいって言ったじゃん。多分、他にも占いをして欲しいっていう子がいっぱいいると思うし部活だったらキヨアキくんが学校にいる時にできるじゃん」


「出来るじゃんって言うけど占いする部活なんかそう簡単に作れるわけないだろ」


「今日先生が言ってたじゃん。部活には部員5人と顧問がいればできるって」


 部員5人……。

 もしかして、それここにいる5人の事か?


「華泉ちゃんはいい?」


「うん」


「私たちは大丈夫だけど……」


 文殊と花山さんの視線の先には俺たちの話など一切気にせずラーメンを食べ終えたので自分のノートに一心不乱に何かを書き留めている芦屋の姿だった。


「芦屋っちもいいよね?」


「あ、芦屋っち……?まあ、いいです。それよりなんの事ですか?」


「一緒に部活をやらない?」


「なんの部活ですか?」


「キヨアキくんが占いをする」


 芦屋は俺のラーメンについて興味があるだけだろう。

 これまでの一連の話の流れを聞いていなければ、俺の占いなんてふざけたことと思い、否定するに違いない。


「やりましょう部活」


 ???


「は?どうして?」


「みなさんもやるんですよね?」


 みんなコクリと頷く。


「じゃあ、やりましょう。共に部活動をしましょう」


 なぜ芦屋が異様にやる気なのかは分からないが、同意はしてくれたようだ。


「でも、顧問が必要なんだろ?」


「担任の先生はどう?」


「あぁーあの先生か」


「ねえ、キヨ。一条先生ってもしかして」


 一条先生。それは俺たちの担任の先生だ。

 確かに、どうして気づかなかったのだろう。

 一条先生に見覚えがあったのはそういう事か。

 先生なら頼めばやってくれるかもしれない。


「ほんとだな文殊。俺も今気づいたよ」


「知り合いなの?」


「花山さんに初めて会った時1度その前に誰かがお店に来てくれたって言っただろ。それが多分一条先生の姉妹なんだ」


「髪の長さは結構違うけど、顔が2人とも可愛い感じで似てるもんね」


「そんな偶然あるんだ」


 みんなのおかげで俺がやりたいことやこれからのことがまとまった。

 あとは……。

 俺が親父に対してもう一度言葉で伝えるだけだ。


「すまん、親父。これが俺のやりたいことで俺ができる精一杯かもしれない。迷惑はかけるが、これでも許してくれないか?」


「許す、許さないの問題じゃねえ。俺は正直今感動しているんだ。祝幸ちゃんが死んで以降のお前は正直見てられなかった。でも、今はお前にはそれに向き合う以上の仲間が出来たんだな。ラーメンのことは天元さんに期待するよ。お前もしっかり教えてやれよ」


俺は静かに親父の言葉に頷く。


「俺がまだ過去に囚われたまんまなのは変わらないよ。でも、少しは変わってるように見えたならそれは俺の成長かもな」


 俺はこれからもみんなに迷惑をかけ続けるのだろう。

 でも、そんな俺を支えてくれる人達がいるというのなら俺はちゃんと前を向けて歩けるのかもしれない。


「やば、もうこんな時間。ラーメンご馳走様でした。2人が作るラーメンどっちもすごく美味しかったです。次来なきゃ行けない時間あったら連絡お願いします。それではさようなら。みんなもバイバイ」


 そういって荷物を持ち、急いで引き戸の方へと向かって行った。


「あ!忘れてました。お金」


「いいよ、お金なんて。これから頑張ってくれれば」


「すいません。ありがとうございます」


 そういって天元さんはいってしまった。


「台風みたいな子だな」


「そうだな」


 本当に荒らすだけ荒らして行ってしまった。

 でも、天元さんがしてくれた提案は全て俺にとっても素晴らしく思えた。


「あの子に次の土曜日の朝7時30分に来てくれと伝えといてくれ」


「わかった」


「私は夜にバイトがあるから残るんだけど、華泉ちゃんはどうする?」


「私ももう帰るね。今日はありがとう」


 花山さんはそう言ってお金を出そうとしていたが、親父が「今日はいいから」ととめていた。


「すいません。本当にありがとうございました。みんなもバイバイ」


 可愛く手を振って花山さんも帰っていった。

 後に残ったのは芦屋1人。


「それでは僕も失礼させて貰うとするよ。本当に今日はありがとうございました」


 芦屋は深く俺らに向かってお辞儀をする。


「なあ、芦屋。1つ聞いてもいいか」


「どうしたんだい」


「どうしてすぐに部活をすることに賛成してくれたんだ?」


「ただ僕は君を応援したくなったんだろうね。君がラーメンを作らなくなった理由などを聞いてより君自身について興味が湧いたんだ。だから、少しくらいは協力してあげようと思っただけだ」


「お前案外良い奴なんだな」


「君は失礼なやつだな」


「すまん。とにかくありがとな」


 芦屋も帰り、ラーメン屋はかなり静かになる。

 俺のワガママに皆を付き合わす羽目になってしまった。

 だから今度は俺にしかできない方法でみんなの願いを叶えてやりたいと心から思った。

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