第11話 俺が好きなことを望むまで
俺が入れていたあれの正体とはそう……マヨネーズだ。
マヨネーズ?と思うだろう。本当に俺もこれを入れる勇気があったのが今考えると凄い。
ただあの人が好きだからあの人に喜んでもらうためにのみ入れていた。
それが自分でも驚くほど美味しかった。
今問題なのはそう量だ。
入れすぎたら間違いなく全てを台無しにすること間違い無し。
とにかく先程と同様、ラーメンを作り上げていく。
余計なことばかりが頭を過ぎり、1度深呼吸をする。
先程に比べて驚く程に自分の上達を感じる。
とりあえず麺とスープは完成させた。
あとはトッピングを残すのみだが、ここで冷蔵庫からマヨネーズを取り出し、スプーンに出してそれを箸でかき混ぜながらスープに浸す。
俺の記憶では多分このくらいの色合い。
ある程度混ざったので味見をする。
かなり美味い。
とりあえずこれを芦屋たちの元へと持っていく。
「できたぞー」
それをまた小鉢に分け、みんなもまた食していく。
ってか、この女の子たちはよく食うなあ。
親父も食べ始め、芦屋はまず匂いを嗅ぎ、それからスープを飲み、麺を啜りはじめた。
「すごい。さっきとちょっと違う」
「ほんとだ。昔作ってたのと似てるよ」
花山さんと
天元さんは首を傾げて「全然わかんねえ」と小声で言っていた。
「なるほどね」
「どうした芦屋?」
「いやあ、確かに味は昔のようで感動したさ。でも、なんて言うんだろうか。君のブランクと言うだけではない……。何か君の心情にも変化があるようだ」
「どういうことだ?」
「おそらく芦屋くんが言いたいのはお前のラーメンへの気持ちが足りていないってことだろうな。そうだろう、芦屋くん?」
「えぇ」
「お前が昔、美味いラーメンを作れていたのは作りたい人がいて、その人にために作ろうとしていた。ラーメンっていうのは表すんだよ。作り手の気持ちを」
「それなら今だってみんなに食べて貰おうと思って俺は作ったんだ」
「だからある程度の味はした。これからその気持ちを大きくしていけばお前は昔と同じくらい美味いラーメンを作れるはずだ。それにスープや具材を作る時だってお前はかなり上手いじゃないか。確かに、
「俺はもう作らねえよ」
「じゃあ、これからどうするんだ?」
「ラーメンを作るってだけでも1年以上前の俺からしたらかなりの進歩なんだ。ずっと後ろ向いてるだけじゃ何一つ意味が無いっていうことは文殊に占いをすることを提案して貰ったり、花山さんに会って何となく分かった。だからもう一度占いをしたい」
「どこで占いをするんだ?」
「それは……」
「俺だって占いが好きだが、占いをしても何にもなんないだろ。それにどうしてそんなに占いがしたいんだ?」
「昔言われたから。俺の占いは誰かの気持ちの支えになるって」
「でも、今はそれ以上にすべきことがあるだろ」
「あの〜」
天元さんが場の空気を壊さないようにと慎重に手を挙げる。
「うちはあんまりそのキヨアキくんに昔何があったかとか分からないし、ラーメンの味の違いも一切分からないくらい馬鹿舌なんすけど。キヨアキくんが考えていることはちょっと分かるんすよ」
「うちは弟が2人いて、家庭環境的に私がバイトしなきゃいけないからあんまり自分がやりたいこととか出来ていないんすよ。でも、やっぱり自分の好きなこともやりたいし、嫌なことはあんまりやりたくない。聞いた感じだとキヨアキくんはラーメンを作るのが昔に比べて嫌になってそうなんじゃないかなって思って……。でも、キヨアキくんはお店が嫌いってことじゃないんだよね?」
「え、まあそれは嫌いじゃないが」
俺はこの店が大好きだ。
作るラーメンも雰囲気もここで育った時間全てが好きなことは間違いない。
今日ラーメンを作ってわかった。
ただ、俺は怖いのだ。
好きだったラーメン作りすら、嫌なことばかり思い出し、嫌になっている現状が、自分が。
「このお店の人手不足も解消出来て、キヨアキくんは占いが出来る問題。その両方を解決できる方法があるんだけど知りたい?」
「なんだよそれ」
いや、本当になんだよそれ?
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