第6話 彼女の未来が視えるまで?
いまでも夢に見る。
『清明、私の教えた占い術はどうかな?』
『やっぱり、
『清明、またね!』
◇
「大丈夫?」
リベンジマッチと啖呵を切ったはずだが、自然と手が止まり、呆けてしまっていた。
「ごめんね。キヨの昔のこと考えたら無責任なこと言ってたかも」
「いや、気にするな。大丈夫だ」
そのやり取りを花山さんは不思議そうに眺めていただけで特に何かを言うわけではなかった。
先程同様、タロットカードを机の上に散らす。
冷静に考えて誰かの結果が決まっていることを占うなんてした事が無いということに気づいた。
これは運勢を占ったりすることなどとは違うのだ。
「占いの前に少し聞きたいんですけど」
「なんですか」
「どうしてオーディションのことを占ってもらおうと思ったんですか? 何かこのドラマにかける特別な思いとかあるのかなって思いまして」
「そうなの。今友達が入院してて、その子に受かったよって言いたくて」
あまりこの話題を深追いするのも悪い気がするので占いに戻ることにする。
「そうだったんですね。では、今から質問をするのでこの中から1枚カードを引いてください。」
「あのー質問なんだけど。こういうタロットカードって他人に引かせて大丈夫なの? 大体占い師さん側が引くイメージがあって」
「確かに他人に自分のタロットカードを引かせることは邪気が移るとか言われてますけど、まあそんな気にしないでいいですよ。結局は引く当人の気持ちがどれほどこもっているかどうかなんで」
「へぇーそうなんだ」
「では、今から質問をします。強く思ってカードを引いてください」
「はい」
「あなたがオーディションに合格するためにどのような行動をとることが良いですか?」
花山さんは目を強く瞑り、パッと開けて1枚直感でとる。
「これは戦車の正位置のカードです。自分の信じることに真っ直ぐ向き合えば必ず合格が掴めると思いますよ」
「ということは私は自分を信じて頑張ればいいってことだよね?」
「はい。今の花山さんに完璧なカードだと思います」
「やった」
「やったね。華泉ちゃん」
花山さんは小さくガッツポーズをする。
可愛い。
だがしかし、今からが俺にとっての本番だ。
彼女の未来を視る。
花山さんが俺の方を見た瞬間、彼女の目を見て俺は意識の中に吸い込まれる。
どこだ?ここは。
恐らく花山さんの3週間後のオーディションの結果が分かる日の未来で間違いが無いはずだが。
白い靄がかかり、はっきりと見えない。
俺が未来を視る時、俺はその情景を第三者、すなわち神様視点として見ることが出来る。
しかし、あまりにも見えるものが少ない。
白い天井が見えだした。
どこかの部屋?
段々と靄が晴れてくる。
もう少し、もう少しで。
「!!」
「どうしたの? 大丈夫?」
花山さんが心配そうに俺を見つめている。
もう少しで全容を見れそうだったのに、意識が現実に引き戻されてしまった。
文殊は俺が未来を視ることが出来たと思っており、すごく物欲しそうな顔でこちらを見つめている。
生憎、なんの成果もないのだが。
「いえ、なんでもありませんよ。それより、タロットが花山さんの未来を照らしてくれたようですね」
「うん。タロットを信じて精一杯頑張るね。2人ともありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
「華泉ちゃんのことむっちゃ応援してるね」
「私はもうそろそろ行くね。本当にありがとう」
「あ、待って華泉ちゃん。サインだけでもお願いします!!」
「いいよ。任せて」
そう言って文殊は色紙をすぐさまどこからか取り出した。
「ここにお願いします!!」
卒業証書授与のように色紙を渡す。
……
「よし、書けた」
「うわあ、すごい。ほんとありがとう」
「どういたしまして」
サインには 花山華泉 素晴らしい占い師さんたちへ と書かれていた。
これは俺たちにとっての宝物になるだろう。
「じゃあ、またどこかで」
「気をつけてーー」
俺は深く頭を下げた後、引き戸を締めるまでずっと俺たちに手を振ってくれていた花山さんに手を振り返した。
外から車のエンジン音が鳴る。
どうやら行ってしまったようだ。
「ねえ、華泉ちゃんの未来ってどうだったの?」
「いや、それがな。よく分からなかったんだ」
「分からなかった?」
「前までだったらもっとはっきりと何があって、何が起こるかわかったはずなんだけどな。よく視えなかったんだ」
「そうだったんだ」
実際、3週間後などという不確定すぎる未来は昔も視えていたかどうか怪しく思える。
一応、確認のために文殊の明日の未来を少し視る。
「なあ、文殊」
「なに?」
「お前明日消費期限切れの牛乳飲むのやめろよ。腹壊すから」
「は?もしかして今未来見たの?」
「まあな」
「さっきまで見ないって言ってたのにあっさり見てんじゃん」
「確認だよ、確認。やっぱりこれは普通に怖えわ。あんまり使わないようにする」
今日は夢のような1日だった。
俺たちはこの日を忘れることがないだろう。
まあ、この日以降誰一人として客が来なかったということも一因だろうが。
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