第5話 占い師になった俺が覚悟を決めるまで
「なるほど。なにか大事なオーディションなんですか?」
「はい。一応これはできる限り秘密にして欲しいんですけど」
「分かりました」
一応こんな小さな占い舘だって守秘義務くらいある。俺は必ず守る。横は知らんが。
「朝ドラのオーディションがあるんです」
「朝ドラ……。えっ朝ドラ?」
朝ドラってあの朝に放送しているドラマだよな。
テレビをほとんど見ない俺でも知っている。それがかなり凄いものだと。
「朝ドラのオーディションってそれむちゃくちゃ凄くないですか!?」
「オーディションを受けること自体はそんなに大したことでは無いですよ。受かるのがとても狭き門なだけで。でも私は何とかしてそれを勝ち取りたいんです」
花山さんは謙遜しているがそのオーディションに呼ばれるだけで凄いことだと思う。
もしかしてこの方はとても偉大なのではないのだろうか。敬意を表して
「では、早速その占いを始めて行きますね」
「ちょっとまって」
唐突に
折角始めようと思ったんだが。
「なんだよ」
「ちょっと来て」
そう言って文殊は俺に厨房まで来るよう指示した。
「急になんだよ。花山さん待たせてるぞ」
「ねえ、未来視てあげない?」
「オーディションに受かるかどうかか?」
「そう」
「そりゃ名案だな。ってなるわけないだろ」
「どうして?」
「さっきも言ったろ。俺が見れるのは3週間先まで。今から2週間後にオーディションがあったとしてそれから1週間で結果が発表されるとは思えない。結局未来を視たところでオーディションに受ける場面しか見れねえよ」
「ねえ、
文殊は厨房から身を乗り出して、水をちょびちょび飲む花山さんに話しかける。
あとなぜこいつはいつの間にタメ口で話してるんだ。
「オーディションが終わって1週間後に発表だから。今から3週間後ですね」
「ふーん。ありがとう」
おい、やめろ。その憎たらしすぎるドヤ顔を。
てか結果出るの早すぎだろ。
「じゃあ、決定ね」
「おい、待てよ」
「なに?」
「もうちょい冷静に考えてみてくれよ。結果を見てどうするんだよ。タロットとかと違って答えが出ちゃうってことだぞ」
「その答えを華泉ちゃんに言ってあげればいいんじゃないの?」
「それは出来ない。もし、オーディションに受かった未来が視えたらそれでいい。特に俺らが何もしなくても順当に受かるということだ。でも、もし落ちた場合それを本人に伝えたらどうなる」
「どうなるの?」
「必死に努力するだろ。受かるように。」
「いい事じゃないの?」
「俺の視える未来はあくまで未来を視なかった未来だ。もし、俺が視た未来を花山さんに伝えて、その後必死に努力して受かれば元々受かる筈だった人が落ちるってことだ」
「それでも、私は他の誰かより華泉ちゃんに受かって欲しいよ。華泉ちゃんにも譲れない理由があるんだと思う。華泉ちゃん必死だったから。後でもっと話聞こうよ」
俺だって見ず知らずの誰かより俺を頼ってくれた人に受かって欲しいと思っている。
ただ、それ以上に未来を視ることが怖くなっている。そんな言い訳を繰り返してただ逃げているのだ。
それでも、出来る限り期待には応えたい。
「くっそ。あーもうわかった。視てやるよ未来。でも、これは俺と文殊だけの秘密だ。それが条件」
「華泉ちゃんに伝えなきゃ占いの意味ないじゃん!!」
「それでいいんだよ。それで。俺らにしか出来ないことを無理にしなくていい。他の占い師が最大限できることと言えば占ってやることだろ。それを俺らが限界超えるくらいやってあげればいい。そうすれば、もし落ちた未来が視えても結果は変わるかもしれない」
「どんな未来が視えても結局はタロット次第ってこと?」
「そうなるな。てか花山さん放っておきすぎだろ」
「やばい。本当だ」
俺に出来る最大限のことがこれしかない。
だが、未来を視ることで少しは自分の過去と向き合うことが出来るのかもしれない。
俺はそんな不安と期待が混じったまま、先程座っていた座敷に戻る。
「私も文殊ちゃんって呼んでもいいですか?」
「名前で呼んで頂けるなんて幸せ〜!!さっきは勝手にタメ口で喋っちゃったけど大丈夫?」
花山さんはコクリと首を縦に振る。
「さっきこれから高校生になるって言ってたよね。てことは私たちって同い年だから私もタメ口でいいかな?文殊ちゃん」
「そんなの良いに決まってるじゃん!!」
座敷に戻ると2人はえらく仲良くなっていた。
女子ってすごいな。と思わず感心してしまう。
「あなたの名前お伺いしても良いですか?」
「俺、俺すか?」
唐突に俺の方に向かれるとドキッとしてしまうから少し心臓に悪い。
「
「さっき文殊ちゃんキヨって呼んでたよね。じゃあ、私はキヨくんって呼んで良いですか?」
「いいですよ。それにあと同い年なんで俺にもタメ口で良いですよ」
「うん。分かった」
そう言って花山さんは屈託のないとても可愛い笑顔を俺に向けた。
本当にこう気軽に話していると目の前にいるのが有名(らしい)女優だなんて思えない。
「では、占い始めますね」
「はい」
これは真剣に誰かの未来と向き合ってこなかったそんな俺のリベンジマッチだ。
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