第4話 占い舘に華が咲くまで
占いを終えた頃には既に10時を回っていた。今まであまり聞こえなかった、街の喧騒や車の通行音などが聞こえ出す頃だろう。
そして、現に車の走行音が店の近くで聞こえてきた。
俺も宿題に取り掛かろうとした時、また引き戸の開く音が聞こえた。
「こんにちは〜。ここって占いしてるんですか?」
「こんにちは……えっ?」
俺はもしかしたら夢を見ているのかもしれない。入ってきた客の顔は見覚えのある顔なんてものではない。1度見たら忘れない顔。
そう、先程嫌という程見せられた写真に写っていた女優、
と、とりあえずなにか返事をしなければ、「えっ、えーと」
しかし、上手く言葉が出てこない。
花山華泉の大ファンである文殊に託そうとしたが、文殊は文殊で手を胸の前で合わせて目を瞑りながら何かをボソボソと唱えている。
怖い、怖いよ文殊さん。昇天しちゃってるよ。
流石にこのままじゃ埒が明かないため勇気を振り絞って言葉を発する。
「占いやってます」
「本当ですか。良かったです」
かなり困惑気味だった花山華泉だったが、俺が話すとお
なんだこいつ。くそ可愛いな。
これがあれか。噂のテレビで見るより可愛く見えます。みたいなやつか。
テレビを見ないからあまり分からんが。
「とりあえず、こちらにどうぞ」
1度目同様座敷へ誘導する。
そして、ここで先程の占いでの反省点を生かす。
そう、それは水を出さなかったこと。
普通の占いならば、飲み物が出されることなどほとんどないだろう。しかし、ここは違う。
俺はこのラーメン屋の厨房にすらもう長い間出向かなくなったが、両親が作るラーメンが世界で1番上手いと思っている。
そして、ラーメン屋の美味さを決める上で欠かせない大事なもの。
それが水だ。
これは俺の占い師としての
「お水お出ししますね」
「そんなお構いなく」
「いえ。俺が出したいんです」
「それならお言葉に甘えさせてもらいますね」
少し驚いた顔をされたが、俺は気にも止めずにキッチンへと行き、さっさとグラスに水を注ぐ。
座敷に戻ると、未だに魂が抜けたような放心状態の文殊と花山華泉が向かいに座っていた。
俺はその放心状態の文殊の隣に座る。
「どうぞ」
「ありがとうございます。そちらの方は?」
文殊の方を手で示す。
「占いの助手……補佐……まあなn……」
「ファンです。花山華泉ちゃんのファンです」
俺の言葉を遮り、突如命が宿ったかのように話し出した。
急に喋るな。学校から何もしてないはずなのに放課後に来た電話レベルで怖かったぞ。
あれ、まじでお母さんが「いつもお世話になってます」とか言ったら死ぬ確定演出なんだよな。
そんなことはどうでもいいが、花山華泉に引かれちゃってるじゃねえか。
「それよりどうしてこんなとこにいるんですか!? 何かの撮影かなんかですか!? 華泉ちゃんと会えるだなんて夢にも思ってなかった。あぁーーいつものくせで華泉ちゃんて言っちゃった。ごめんなさいーー!!」
そして、またオーバーヒートして昇天。テンションが高すぎる。
「すみませんね。なんかこいつが暴走しちゃって」
「いえ、すっごく嬉しいです」
そう言って花山華泉は身を乗り出して文殊の手を握った。
「私、あんまりエゴサとかもしないから、周りからどう思われてるんだろうとか気になってて。だから、こうやって面と向かって言ってくれるとすっごく嬉しいんです。ありがとうございます」
「手がーーー!! お手ててててててっててまでキレーー!!」
「とにかく落ち着け」
文殊を落ち着かせるためにも、もう一度水を持ってくることにした。
文殊は水を飲むと段々と荒かった息が落ち着いてきた。冷静さを取り戻してくれたようだ。
「では、そろそろ占いの方に入っていきたいんですが。その前に、一応名前を聞いてもいいですか?」
「花山華泉です」
「はい、ありがとうございます」
「まだ質問させて頂きますね。週末とか何してますか?」
「えっ!!さっきそんな質問してなかったじゃん」
「さっきはかなり有益な情報がすぐ入ったからだ。話しているうちに大体の性格も分かってきていたからな」
「さっきって……結構ここって繁盛してるんですか?」
「いえ、まったく。花山さんが2人目ですよ」
「へぇー。そうなんですか」
そんなどうでもいいことに嬉しそうな反応をされるとドキッとしてしまう。
「それで、週末ですよね。結構、仕事がある日が多いんですけど、オフの日とかには家でドラマ観たり、本読んだりしてますかね」
「あの、質問なんですけど!!」
「どうしました?」
「自分の出たドラマとか映画とかって観る派ですか?」
おい、ファン。確かに話引き出す係だとしても流石にそれはもはや占い無関係of無関係だろ。俺だってもっと聞きたいことあるのに。話が進まねえよ。
「私はまだまだ頂く仕事が少ないので、時間がある時に自分が出てるメディア関連のものは全部見るようにしてます。これからのさらなる活躍のためにもって感じですね」
的外れだと思った文殊の質問はかなり彼女の本質を見出す質問だったのかもしれない。
これからは俺の憶測にしかならないが、花山華泉の手にはマーカーの着いた跡が少し見えた。ここまで車で来た時におそらく、台本か何かにマーカーを使っていたのだろう。
これだけの情報を俺の中で整理出来れば十分だ。
「ありがとうございます。では、占って欲しい事を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。2週間後に受けるオーディションに私が合格するためのアドバイスを占って欲しいんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます