第3話 一条 奏仁の占いが終わるまで

「では、今からタロットカードを用意しますので、少しお待ちください」


 後ろに置いていたカードの束から大きなカード22枚を取り出す。

 それを一条いちじょうさんの前に散らばして置いた。


「私、タロットカードとか初めてです。占い師さんによって占いの種類って結構異なるんですか?」


「まぁ、かなり違いますね。占いの種類って国や地域によって変わっていて、日本では基本3種類なんです。でも、俺がするのは一般的な3種類とは少し違うんですが、1つは生年月日や星座などの確定した情報から占うやつっすね」


「あぁー。でも、占い師さんによって結構言ってることバラバラだった気がしますけど……」


「まぁ、情報が決まっているだけであって結果が決まっているわけでは無いので」


「2つ目はスピリチュアルって呼ばれる占い師が会話中や相手から感じとったことによるものですね。俺もこれを少し使ってます」


「なるほど。だから、先程も相手の事を先に知ることが大切って言ってたんですね。でも、それって占い師さんのさじ加減になりません?」


「まぁ、なりますね。基本スピリチュアルを使っている占いは相談者をポジティブにさせるものなんで基本悪いことは言われないと思いますよ。所詮占いなんて相談者を喜ばせたり、不安にさせたりする道具にしか過ぎないですからね」


「急に毒舌!!」


 ずっと静かだった文殊みことがようやく言葉を発した。


「3つ目はタロットカードなどの偶然起きた事象を用いる占いですね。タロットカードなどは近い将来を占うことに適しているんで、遠い未来を占うためにも俺はスピリチュアルも使った独特な方法でやってるんですよ。一応他にもやり方はあるんですが……」


「他にも……?」


「いや、なんでもありません。じゃあ、今から質問をしていきますのでその質問の答えを念頭に入れて直感でカードをひいてください」


「あなたの理想の彼氏像はありますか?」


 一条さんは少し俯いた後、右奥のカードを手繰り寄せて手に取った。

 そのカードは2人の女性の間に、一人の男性がおり、その上に天使らしきキューピッドが写っているカードだ。


「これは《恋人》の正位置のカードですね。」


 完璧にこの題にマッチしたカードを引いたようだ。

 これを引き当てるとはなかなかの運の持ち主だろう。


「位置とかも関係あるんですか?」


「はい、正位置と逆位置で反対の結果が出ることが多いです。例外ももちろんありますけど基本は正位置の方がいいイメージを持っていただいて結構です。恋人の正位置は恋心などを示される時、大きなときめきを感じる。といったものなのでかなり良い感じですね」


「すごい。やっぱり私って恋愛運いいんですね」


 何をもってのやっぱりなのかはよく分からないが、このカードが特に恋心を示されてないはずなのに付き合ってると勘違いしてしまっている一条さんを皮肉めいている気がする。


「では、もうひとつの質問です。では、あなたが考える理想の彼氏とのデートを想像することは出来ますか?」


 一条さんは少しニヤついたように見え、今度は目の前にあるカードを手に取った。


「うわぁ、これ逆位置ってやつじゃないですか?」


 見せてくれたカードは《審判》の逆位置のカードだ。天使がラッパを吹き、死者を甦らせるというもの。

 そして、この問に逆位置の《審判》。かなり運が悪い。


「これは《審判》の逆位置ですね。期待していたことが起こらないことを示すカードですね」


「その質問に最悪のカード引いてません!?」


「まぁ、そうですね」


「どんまいです」


 文殊もかなり同情しているようで、えらくしょぼくれている。

 そして、チラチラと一条さんをどうにかしてあげろと催促するような目で俺を見てくる。いや、無理だから。

 それが運命というか結果だから。こちらとしても苦笑いしかできない。


「ま、まぁとりあえずタロットカードは終わりましたが俺の占いは終わってないんで」


「そうですか。それなら良かったです。」


「とりあえず、俺が感じたことを端的に話すと、一条さんはかなり相手に求める理想が高いですよね。それにプラスして異性のことを知らなすぎるからこんなことになってると思いますよ」


「そんなことはないと思うんですけど……」


「じゃあ、質問しますが一条さんの求める理想は?」


「年収が1000万くらいあって、顔がかっこよくて、私って結構周りから抜けてるって言われるんでそんな私を支えてくれて1番に考えてくれたりして、他にも……」


「分かりました。もう大丈夫ですから」


 この人はあれだな。生まれる世界線が違えば「俺、またなんかやっちゃいました」

 みたいなこと言ってそうだな。無自覚に。


「とりあえず、一条さんはかなり理想が高いです。選ぶならせめてどれかに絞るのも手だと思います。それか、占いでの結果のように一条さんを本気で好きなってくれる人は必ずいるはずです。一条さんは可愛いんですから自信持ってください。そして、その人を選ぶことが一条さんにとっての1番の幸せの道だと思います」


「そんな、可愛いだなんて」


 毎度その照れ笑いをされると、恥ずかしくなるのでやめていただきたい。


「あと、いつも照れ笑いしないでください。こっちまで恥ずかしくなるんで」


「占いの結果としてはこんなもんですかね。所詮占いなんて娯楽に過ぎないんですから、信じすぎず 、肩の力を抜いて頑張ってください。ひとつ言うとすれば異性に免疫つけた方がいいと思いますよ」


「今日、ここに来て良かったです。ありがとうございます。アドバイス通りに頑張ります」


「頑張ってください!!」


 一条さんは占い舘を出ていくまで、何度もお辞儀をしていた。占い舘の初めての客としてはかなり癖があったが、とにかくやりきることが出来た。あまり、しっかりとした占い結果を言うことは出来なかったが。

 あ〜と伸びをしている俺を横目に文殊は


「他のやり方だとか濁してたけど、見てあげればよかったじゃん。奏仁さんの未来を。説明してる時急に暗い顔になってたから不審がられてたじゃん」


「それは使わねえよ。しかも、俺が視れるのは最長で3週間先までだ。今回使ったところで大して意味が無い。それに、色々制約があるんだよ。あまりこれについてもよく分かんねえ。そして、簡単に使っていいもんじゃないし、出来るもんじゃない」


「ふーん」


 たとえ、未来なんて視たところで良い事なんてさほどない。嫌なことばかりが目に付いてしまうものばかりだ。

 もう俺は二度とあの事を後悔しないと心の中で決め、先程散りばめられたタロットカードを1枚1枚丁寧に取ってしまった。

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