第2話 一条 奏仁が真実を知るまで
まさか本当に来てしまうとは……。
年は20代前半くらいのスーツを着ている女性。新入社員なのだろうか。
「く、靴を脱いでこ、ここ……こちらにお座りください」
そう言って座敷に座るよう促した
「すごい……。本当に占いしているんだ。昨日も見かけたんだけど、エイプリルフールかと思って入るの戸惑っちゃって」
やっぱり、エイプリルフールの影響出ちゃってるじゃないか。
「なんかお座敷で占って貰うの新鮮ですごくワクワクします」
「確かにそうですね。まぁ、できる限り期待に答えられるように頑張ります」
自分で言っておいて、占いに対して期待に応えるとはなんだ?と思ったが俺だって緊張しているので仕方ない。
若いOLさんらしき人はキョロキョロと見回した後に、俺らと向かい合う形で座席に腰を下ろした。
「私、10:30から会社の初出勤日でその行き道にここを見つけたんですよ。昨日、行き道の確認で通った時に気になっちゃって」
「えぇ、珍しくないですか!? 2日から始まるのって。分かりませんけど」
分からないなら言うな。関西人か。
とりあえず、占いを始めるまでの今の間にどれだけの情報を相手の外面や言葉から受け取れるかが鍵だ。
文殊が時間稼ぎ兼会話担当をしてくれているのでかなり俺としてはやりやすくなるな。
相手をよく知ることが相手を占うということの第1歩だと俺は思う。
「確かにそうかもしれないですね。早速なんですけど、私これからのことについて悩みがあって……」
笑顔を貫いていたOLさんが初めて悲しげな表情を見せた。
これからということはおそらく、会社のことなのだろうか。
「彼氏が出来たんですけど、彼に浮気されてるんです。多分……」
仕事関係なかったわ。
「えぇ!! 彼氏さん浮気してるんですか? 最低ですね。別れた方がいいと思いますよ。浮気してる奴は総じてクズですよ。まぁ、それでも付き合いたいって言うなら否定はし、しませんけどね」
なぜコイツの主観恋愛トークが始まってるんだ。あと、ツンデレ風なのが気になる。
「だから、私と彼の相性を占って欲しくて」
「分かりました。では、あなたの名前を教えて頂いてもいいですか?」
「
「いや、彼氏さんの名前は大丈夫です。今はあなたのことだけが知りたかったので」
「え?」
「え?」
「え?」
全員の頭の中で?マークが浮かび、地獄のような空気が流れる。
「何その言い方!! 告白!?」
俺の失言に対して、俺はただただ苦笑する他ない。
「いや、俺のスタイルなんですよ。占いの前にまず、相手のことを先に知るってことが。だから、彼氏さんの名前よりも先にあなたについて知ろうと思いまして……。言い方が悪かったですね」
「そ、そうだったんですか。結構びっくりしちゃいましたよ。私、中学から大学までずっと女子校で男の子と面識がないので余計に」
俺の必死の言い訳が通じて良かった。
とりあえず、ずっと女子校という情報だけでもいいか。
「なんだあ、私もびっくりしちゃったよ」
なんでだよ。
「では、その彼氏さんと出会った経緯を教えて貰っていいですか?」
出会った経緯を知れば客観的に彼氏の性格について分かり、その浮気の原因も分かるかもしれない。
「はい。私と彼が出会ったのはつい2週間くらい前なんですよ。街で話しかけられて、連絡先を交換したんですよ。それで、先日街で別の女の子と腕組んで話しているのを見て浮気されてるんだなと思って……」
涙目になって語っているのだが、果たしてこれは浮気なのだろうか?という疑問に駆られている中、文殊が俺の耳元で呟いた。
「これってまず付き合ってなくない?」
「俺もそう思う」
恐らく異性との接点が無さすぎるあまり、付き合っているかどうかの判断が曖昧なんだろう。
ここまで純粋な人を初めて見た。
「あの……非常に言い難いんですが、それって本当に付き合ってるとは言えない気がするんですけど……」
文殊が言葉を探り探り真実を伝える。
「そんなはずはないと思うんですけど。これって付き合ってないんですか?」
「はい……」
何この空気。地獄じゃん。
「じゃ、じゃあ私は根本から間違ってたってことですか?」
一条さんが居た堪れなく、真実を伝えることが億劫になりそうだ。
「そうなりますね……多分……」
この会話をしている文殊の顔もかなり萎れている。
「そうなんですか。私まだこの年で彼氏の1人すら出来たことないんですね。お姉ちゃんにこの事自慢したらお姉ちゃんは最近彼氏さんと別れたみたいで。ただただ空気が悪くなったんですよね。何もかも噛み合わないな。あはは……」
もう悲しいよ。
誰も悪くないじゃん。
「これからですよ。これから。
なんかここまで純粋だったら悪い人ばかりと付き合うことになりそう。不安だなあ。
「弟と同じくらいの歳の子に慰められてる……。でも、少し元気出ました。ありがとうございます。じゃあ、新しく私のこれからの恋愛について占って貰ってもいいですか?」
「分かりました。あなたの期待に応えられるように」
そして、ようやく一条さんへの占いが始まった。
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