占い師になった俺が至高の青春を創るまで
神野 兎
第1部 彼女の笑顔がみえるまで
第1話 占い師はじめました
俺の幼馴染である
「本当にお客さんとか来るのかなぁ」
入口に置く看板を太陽の小さな光しか入り込まないラーメン屋で完成させた頃、文殊が元も子もないことを口にした。
4月1日~7日の1週間、俺の両親が経営しているラーメン屋の休業時間である9:00から11:00の間を占い舘にしようと文殊が提案してから1週間がたち、当日を迎えた。
ラーメン屋の看板娘である文殊の提案だったこともあり、いつの間にか決定していた。
しかし、占いをするのは俺。
現在 AM8:50
「言い出したのはお前だろ。辞めるならいまのうちだぞ」
どうせ客なんて来ない。なんせ常連にもこの事を明かしてなどいないのだから。
そして、今日はあいにく4月1日、誰がどう見てもエイプリルフールにしか見えないだろう。
「辞めないよ!キヨの占いの腕をみんなにも知って欲しいの」
褒められると思ってもいなかったので「えへっ」と気持ち悪い照れ笑いをしてしまう。
「そして、何よりこの占い舘が有名になればあの
私情ダダ漏れだったわ。
「誰だそいつ。つうか占い舘とかしなくてもラーメンで有名になれば来てくれるかもしんないだろ」
「来るわけないじゃん。活気のない住宅街にあるこんな薄汚いラーメン屋。」
最低だ。ダメだこいつ。
場所が悪いのならば占い舘にしても変わらないのでは?と思ったが口に出さないでおく。
「っていうか花山華泉ちゃんは今超絶人気の可愛い女優さんだよ?占い好きの。何で知らないの?原始人?」
原始人は言い過ぎだろ。せめて、昭和とかにしろ。
「ほら、写真見せてあげるから」
「見せられても多分わかんねえけどなあ」
顔を見ると、確かに見たことがあるような気もしなくはなかった。
「ねえ、可愛いでしょ!」
「まぁ、そうだな」
「反応、薄……。もっとあるでしょ。ほら、ぱっちりとした二重に透き通るような白い肌。米粒みたいに顔が小さい。綺麗な黒髪とか」
確かに可愛かった。さすが女優とでも言うべきか。てか、米粒は褒め言葉ではない。
もしいきなり写真を見せられてそんな感想を男が言ったらどうする。引くぞ、普通に。
「まぁ、いつか会えたらいいな。そろそろ看板置きに行くけどいいな?」
「私が置きに行くからいいよ。その間に宿題持ってきてよ。宿題一緒にやろ」
結局文殊も客が来ないと思ってるらしい。
文殊に対して俺は「了解」とだけ小さく返事をする。
1階のラーメン屋を後にし、2階にある自宅に宿題を取りに向かった。
AM10:50
「ねえ、もうあと10分で11:00だよ。宿題きりが良いとこまで進めたからもう帰ろっかな」
ラーメン屋の座敷での宿題中、
「本当に1週間続ける気かよ。現状勉強会みたくなってるぞ」
占いする気配ゼロ。ずっと数学ばっかしてるしんどい。
「それでもいいじゃん! でも、やると決めたら最後までやりきりたいから」
その言葉を聞いて思い出した。文殊がこのラーメン屋で働くことになったときを。
3年前のこの時期、文殊は中学生になったということでこのラーメン屋の手伝いをしたいとか言ってたっけな。
そして、それが今でも続いている。俺は忘れていた。文殊がそういう性格なことを。
「お前がそういうなら俺だって付き合ってやる。つうか、俺がいなきゃ意味ないしな!」
俺の満面の笑みのサムズアップ。それを文殊は特に拾うことも無く、「ありがと」とだけぼそり。
ある程度片付けた後、「ばいばい!」という声とともに文殊は丁寧に引き戸を閉めて出ていった。
4月2日 現在AM9:00
安定の宿題タイム。この時間が日課になりそうなことがひしひしと感じられる。
しかし、まだ2日目。
「思うんだけど、名前つけたいよね」
「急になんだよ」
何にだよ。目的語をつけろ。目的語を。
「占い舘の名前だよ!」
さようですか。まあ、確かに看板には『朝の9:00から11:00無料で占いします。』とだけしか書いてない。
看板はかなり殺風景なので名前を決めるっていうのはいい案なのかもしれない。
「いいと思うが、名前を決めたらまた看板作り直さなきゃいけなくなるんじゃないか?」
「え……。2人の間で呼び名を決めようと思ってただけなんだけど……」
やべ……恥ずい。気まず。
「さすが、昨日あんな小っ恥ずかしいこと言うまであるね。かっこいい!! キヨがやる気を出してくれて嬉しいよ。名前どうする!?
いきなり、早口で捲し立ててきやがった。
テンションが高い時のこいつは世界で1番ウザイ。
あと、名前はどっちも論外だ。前者は何か分からねえし、後者はいろいろとダメだろ。もはやギャグじゃねえか。恥ずいわ。
「やっぱり名前を決めるのは無しだ。占い舘で行くぞ」
「えぇーーひどいー」
もうなんとでも言え。
その時、引き戸の「ガラガラ」という音が木霊し、俺たちを一瞬で黙らせた。
「すいませーん。ここって本当に占いしてるんですか?」
俺と文殊は顔を見合わし、数秒の沈黙のあと消え入りそうな声で「はいっ」と答えた。
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