第87話 魔導王と呼ばれる男
そろそろ終わるかな?と思ったその時、レッサーデーモンが両手を目一杯広げて雄叫びを上げる。するとレッサーデーモンから禍々しい赤黒いオーラのような物が辺り一面に吹き出し始める。
するとそのオーラに触れたタンクの男が片膝を付き苦しそうに息を荒らげている。それを見て風水士は距離を取り難を逃れる。しかし処刑人は逆に一気に距離を詰め、レッサーデーモンの首を切り飛ばしにかかる。
多分それが正解だ。距離を取って離れていたらタンクは死んでいたと思う。あの禍々しいオーラはスキル「エナジードレイン」という触れた人間の生命力を吸い取る危険なスキルだ。様子見などしていたら取り返しのつかないことになっていただろう。
当然近づけば同じく生命力を吸い取られてしまうがそれより早くレッサーデーモンの首を落とせるかどうかの勝負だろう。
観客に取っては一瞬の出来事だろうが俺には一連の動きがスローモーションのように流れていく。
苦しそうに顔を歪めながらも左右2刀の光り輝く大剣をクロスさせてレッサーデーモンの首に当て左右に振り払い、首を切り飛ばした処刑人。流石は通り名にもなるくらいの鮮やかさだ。
この瞬間に処刑人が全人類で最もランクの高い魔物を討伐したことになった。これは支援ジョブの効果が絶大だがやはり目立つのはアタッカーである処刑人になってしまうよね。しかも戦闘スタイルが派手なので人気爆発だろうな。
素晴らしい戦いだったと思う。これで支援ジョブが脚光を浴びる日が来たと思うな。希望品は上位回復魔法や支援魔法を希望してきたので差し上げた。どうやら風水士の強化を優先するようだ。支援魔法はまだまだ種類は有る。そして今後は更に優先度は高くなってくるだろう。
ふぅ。いよいよか。
会場のボルテージはすでにマックス。遂に魔導王の登場となる。
俺の前に転送門が現れその中から魔導王が出てくる。今は会場の騒音はシャットダウンされていて魔導王と一対一で会話が出来る状態だ。
「ご指名頂いたダンジョンマスターだ。今ならまだ対戦相手の変更は受け付けてあげようと思うがどうする?」
「愚問だな。それよりお前こそ人類に謝罪しなければならないことがあるんじゃないか?」
「人類に謝罪?感謝こそされても謝罪など求められてはいないと思うが?」
「ふっ。まぁそうだな。俺も感謝しているよ。お陰でここまで強くなれたと自負しているからな」
「最後に遺言があれば聞いておいてあげるけd…聞いておいてやろう!」
「……梢の敵は取らせてもらうぞ!あの世で詫びるんだな」
「梢?あぁ巫女ちゃんズの地球での名前だっけか?まぁ生きているんだけどね。さぁ始めようか!」
「?!い、今なんて?」
俺はニヤっとしながら距離を取り軽く下位魔法を撃ち込んで見る。下位魔法でも俺が撃てばTNT(トリニトロトルエン)爆弾10kg相当の爆発になってしまうが。まぁ魔導王が最初にF-バーストを撃った時位の威力だ。これはあくまでも警告の為に撃っただけで殺すつもりはない。
当然魔導王も無傷だ。すると周囲の空気が砂塵となって渦巻き始める。魔導王が魔法サンダーストームを撃ってくる。砂塵で擦り潰されながら渦の中には稲妻が
へぇ、魔法の中はこうなっていたのか。これはエグいなぁ。これは災害級ではなく天災級だな…。そんなことを考えながら俺は魔法を反射障壁でお返しする。ただこのサンダーストームは連続で稲妻が襲って来るので途中で障壁が切れてしまう。なのでまた張り直す。
魔導王の魔法が切れて砂塵が消えると片膝を付いて呼吸を荒たげている魔導王が目に入ってくる。自分の魔法で自分が傷付いているということだ。こっちもエグいだろ?ただ反射障壁は100を100で返せる訳では無く、俺でさえもいい所50返せているかくらいだと思うがそれでも結構な威力だったようだな。俺はまだ無傷だぞ?
ただ魔導王はまだ牛太郎を召喚していないし新たなランス系の魔法も使ってきていない。なのでこれで終わりとは思っていないが一応聞いてみる。
「実力の差はわかったか?今ならまだ降参を認めてやるが?」
「…まだまだだ、それよりさっき何と言った?」
「何の事だい?それよりもさっさと本気を出したらどうだい?」
早く牛太郎を召喚してくれ。そうしないとリセット出来ないじゃないか。牛太郎は危険なS級なので回収出来ないなら一旦倒してリセットしないといけない。
「私に傷を付ける事が出来たら一つだけ良いことを教えてあげるよ」
俺ってこんな性格だったっけ?なんか悪役が板についてきてしまった…。雫にからかわれてしまうなこりゃ…。
俺の一言で本気になった魔導王が遂に新たな魔法を使ってきた。魔法「天の怒り」そしてスキル「リフレイン」
すると今までに見たこともないくらい特大の雷が俺に落ち続けてくる。これはスキルのリフレインで繰り返し衝撃を与えられ続けているのだろう。
俺の反射障壁は1すら返すことが出来ず、一瞬で吹き飛ぶ。いつも纏っている鎧でさえ威力を完全に無効にすることが出来ず、俺はダメージを受ける。生命力が80%を切る。まさかこれ程とは…。
「どうやら傷ついたようだな?いいことを教えてくれる約束だよな?」
「…残念だったね。ダメージは受けたけど傷はついてないよ?これはまだ続行と言うことだね」
「それは屁理屈じゃないか?ただの負けず嫌いとも言うのだぞ?傷というのは例えではなかったのか?それにそんな鎧を着ていたら傷付いたかすらも見えないじゃないか」
「屁理屈でも負けず嫌いでもないよ。事実を言ったまでさ。それに傷の判定はダンジョンコアにやって貰うことにしよう」
俺はリアに言って傷判定をするように言い付けておく。不正はしないように釘を指しておく。それに魔導王は納得してまた新たな魔法を使ってくる。
今度の魔法は「大地の怒り」とスキル「リフレイン」
地面から特大のマグマのランスが何本も現れ四方八方から俺に襲いかかってくる。これは物理要素の高い魔法だな。下手したら傷付いちゃうかもな…。
使いたくなかったけど俺は魔法障壁を使う。剣姫でさえヒビしか入れられなかった防御魔法だ。その魔法障壁は大地の怒りを完全には防ぐことが出来なかった。ランスの先端が俺の腹部の手前1cmの所で止まる。
あっぶな〜!嘘でしょ?魔導王の賢さと、使う魔法ランクの高さ、そしてスキルの相乗効果で俺の魔法障壁を貫いてきやがった。恐るべし…。流石は魔導王と呼ばれるだけはあるよな。能力値だけでは測れない強さがある。
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