第84話 大会初日

 バトル大会初日。闘技場には各国の元首、要人が続々と転送門から入場してきて個室のVIP席を埋めていく。闘技場の警備ははっきり言って地球基準では測れないくらいに安全だ。そもそもVIP席自体が違う次元に存在している。そして管理しているのはダンジョンコアの化身のリアだ。抜かりは無い。


 そして抽選で観戦チケットが当たった一般観客席の方は既に満席でボルテージは既にマックスになっている。大人はビールを片手に既に出来上がっている様に見える。そんなペースで最後まで持つのかな?


 そろそろ第一試合を始めるのでまずは主催者であるダンジョンマスターの俺が開会を宣言する。命を掛けて戦ってね?それで死んだとしても恨まないでね?そんなところだ。


 第一試合は東京大森林ダンジョンの東京東部の転送門を担当している企業のパーティだ。かなりの実力者でリーダーは通称「寡黙な重戦士」と呼ばれている。実際の職業は重戦士では無いのだけれど、メーカー製のフルプレートアーマーを着込んでいるところから世間ではそう呼ばれている。実際はガーディアンでメインタンクをやっている。


 今日の対戦相手の魔物はS級となっているのだがランダムポップという仕様になっているので俺も何が出てくるのかは分からない。これは探索者側の希望だ。S級でも魔導王の召喚獣の牛太郎だけは選ばれることはないのだが、カイは可能性がある。それでもS級は他にも沢山いるので早々選ばれることはないだろう。


 舞台上に魔法陣が現れ徐々に魔物がせり上がってくる。バイコーンだ!らせん状の溝の入った二本の角が生えたデップリした黒い馬だ。こいつと同種でシュっとした一角の白馬がユニコーンと呼ばれている。


 こいつは二本の角から雷撃を放つことが出来る。人間が雷撃を喰らうとどうなるのか…。即死するのか?雷撃って普通にエグいと思うんだけど。ただこういうスキルは賢さに依存する物が多いので、動物型だと威力が落ちる傾向がある。そしてタンクにはそれなりにスキルや魔法で魔法ダメージを軽減出来る物もあるのでそこら辺が勝敗を分けそうだ。


 バイコーンは雄叫びを上げる。これはスキルで相手を萎縮させて行動不能にする効果がある。このランクの動物型の魔物は大抵使える。本能みたいなものなのだろうと思う。そして萎縮している重戦士に凄い速さで突進して角での突上げを狙う。突上げにもスキル「三段突き」が乗っている。かなりの連撃コンボたと思う。これに更に至近距離で雷撃を使ってくるのだ。死んだかな?観客も固唾を飲んで見守っている。


 しかし重戦士はおそらく開幕に強化スキルや魔法でダメージを軽減していたのだろう。かなりのダメージは喰らったようだがまだ生きている。萎縮が解けた途端にポーションを飲み、ヒールで回復を受けた。すかさずアタッカーが左右から飛び掛かるが再びバイコーンは雄叫びを上げ事なきを得た。それでもジリ貧なのは見て取れる。


 その後はセオリー通りタンクが敵を惹きつけている間にアタッカーや魔法で攻撃され、バイコーンは倒れて消えていった。観客は割れんばかりの大歓声を上げて大興奮している。俺は勝者の前に行きダンジョン内アイテムで希望品があるか聞くと付与付きのアーマーセットやアタッカー用の武器、上位スキルや上位回復魔法等々結構欲張りだ。


 だが今回は第一回大会なので俺が招待したパーティメンバーの希望はそれぞれ1つは叶えてあげようと思う。俺は金のチェストの中に全ての希望品を入れて出現させると重戦士パーティは大喜びでチェストから取り出して帰って行った。


 次は東京西部を担当している企業の探索者で、金髪ロン毛でホスト系イケメンの人気者チャラアサシンのパーティだ。こちらもランダムポップでS級のラミアという上半身は美しい女性で、下半身は蛇の魔物が現れた。イケメン対美女モンスターという好カードに会場は大いに沸いている。


 この対戦は激闘の末、チャラアサシンに軍配が上がった。ラミアは金切り声を上げて行動阻害を与えてから吸血を行う魔物だったのだが、先にタンクにスキルでターゲットを固定されてしまいそちらに構っている間に最後はチャラアサシンのヘッドクラッシュで終了した。


 この後は海外の部隊と魔物の戦いが続き、午後になり一般探索者と自己申告の魔物との戦闘が始まる。ここはちょっとした余興なのだが、本人たちは命懸けだ。それでも既にハイレベルなバトルを見てしまった観客は食事に行ったり、夕方から夜にかけての本日のメインのために一旦ホテルへ帰る観客も居るようだ。


 俺は勝者への報酬を渡す為に当然、全試合を観戦する。一般探索者にはその能力に見合った報酬を渡す。それでも防具など単品でも地球では手に入らない強度のある素材で作られているのだ。探索者の能力的には破格な報酬であろう。


 その後も一般探索者の部は10組程続いてから、夕方になりまた世界各国の部隊とS級の魔物との戦闘が始まる。やはり迫力が全然違うな。動きのキレや魔法の威力が桁違いだ。観客も皆、席に戻って来ていてまた興奮している。忙しい奴らだ。


 そしてその後、東京北部を担当している企業のオヤッサンと呼ばれている探索者が出てくる。この探索者は一時、魔導王と一緒に探索をしていた男だ。俺も何度か動画で見たことがあるがこのオヤッサンは能力も非常に高く、そして戦闘のプロだ。S級は相手にならずに消えていった。


 そしてその次に遂に本日のメイン「剣姫」のパーティの登場となる。対戦相手は俺自作の騎士級魔物「カイ改」となっている。


 剣姫パーティは参加人数は5人の予定なのだが剣姫しか現れない。まさかなぁ?しかし観客席側で剣姫以外のメンバーは動かない。門を通れば直ぐに舞台に行けるのだけどな。まぁそのつもりなら始めてしまおうと俺は開始の合図をする。


 開幕でカイ改のサードアイから発せられるスキル金縛りで剣姫の行動阻害を狙うが、剣姫の「ハッ!」という気合いだけで弾かれてしまう。え〜っそんなの有り?もうカイ改の勝ち目は無いんじゃないかしら?


 カイ改は身体強化に魔法でフィジカルアップを使い凄まじい声で雄叫びを上げる。水晶越しに見ている観客すら萎縮してしまうほどの威力だ。  


 そして縮地を連続で使い剣姫の背を取り金棒で殴りつける。しかし其処にはもう剣姫は居ない。剣姫には行動阻害系のスキルも魔法も効かない。それが狂戦士化というスキルの効果の1つだ。


 カイ改は3つの目で剣姫を探すが真後ろに居る事には気付けないようだ。気配感知スキルを持たせてあげればよかったかな…。背後から思いっきり蹴り飛ばされてしまう。剣姫のサービス精神に感謝しないとな。本当だったら今の背後を取った時点で終わりだっただろうに。観客は今日一番の大歓声を上げている。



 


 


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