第83話 偶然の出会い

 着々と準備を進めて行き、遂にバトル大会前日になった。今日から観戦チケットに当選した観客が続々とダンジョン内に入ってきている。それに合わせて出店や屋台も開店していて大盛況のように見える。俺は雫と一緒に高藤悟として普通に会場周辺をうろついている。フルプレートアーマーさえ着ていなければ俺がダンマスだと知っているのは両親と雫だけだからね。


 まだダンマス公式のビールは売り出していないのだが、出店や屋台でアルコール類も扱っているようで観客もテンション高めになっている。


 闘技場の壁には巨大なスクリーンが何ヶ所も掛けられていて、過去の探索者と魔物のバトル映像が流されている。その中に真赤な鎧を纏った女騎士とカイ改との模擬戦の映像も流されている。


 その女騎士の映像が映るたびに観客達はざわめき立つ。ほとんどの人が雫扮する女騎士の事は見たことがない筈なので誰だ誰だ?と騒いでいる。


 映像には音や熱、匂いまで再現されていてかなりの臨場感となっている。流石はダンジョンコアの化身のリアが設定したプログラムだ。抜かりはなさそうだ。その内ホログラムのように画面から飛び出すことも可能なのかな?後で聞いてみよう。


 しばらくウロウロしていると人集ひとだかりがあるのに気付く。誰か有名人でも来ているのか?覗き込んでみると其処には魔導王パーティが居るでは無いか!そりゃあ人集りが出来るわな。下手なセレブより人気があるのだからね。


 俺の対戦相手なのだけども折角今はダンマスではない高藤悟としてここに居るので記念写真を撮ってもらおうと思い近づいていく。すると魔導王と目が合った。実際に目の当たりにした魔導王は凄い雰囲気があり強者のオーラが出ている。


「あれ、君達は確か東法大の学生じゃなかったかな?有名人だったから覚えているよ。なんせ神に選ばれし者って噂されていたからね。それに1度大学のキャンパスでもすれ違ったことがあるんだよ。俺も同じ大学のOBなんだよ」


 突然向こうから声を掛けられて返答に困ってしまった。かなり気さくでしかも大学の先輩だったとは…。急に親近感が湧いてきてしまったぜ。やりづらいなぁ。


「た、高藤悟と言います。今は大学に行きながら探索者をしています。魔導王が大学の先輩だったなんて感激です!こっちにいるのは妹で同じ大学に通っているんです。僕達魔導王の大ファンなんです!写メ撮ってもらっても良いですか?」


 魔導王は喜んで、と言って一緒に写メを撮って貰った。今回魔導王から挑戦状を送った事について聞いてみる。


「ダンマスに大事な人達を殺されたからね。勿論探索者なのだから死ぬのも自己責任なんだけど明らかな殺意のある場面が有ってね。俺はこればかりはダンマスに物申したくてね。それで同じ舞台に立ってもらいたかったんだ。きっと勝てないだろうけど勝敗はどうでも良いんだ。負ければ死ぬだけだからね」


 俺が殺した事になっているのか?それはちょっと八つ当たりに近いと思うのだけど。それでも死を覚悟した魔導王が少しだけ寂しそうな男に見えてきた。


 俺は応援してます!と告げて魔導王と別れた。先程の話を聞いて何だか少しだけ冷めてしまった自分がいる。勿論地球人の魂を集めているのだから人殺しと言われてしまえばその通りなのだが殺す目的でダンマスをやっている訳では無い。ダンジョン内で死んだ魂を有効に使わせてもらっているだけなのだが。まあ地球人には理解出来ないだろうけどな。俺には俺の使命が有ることに。


 思い詰めた俺を雫が慰めてくれる。よくできた妹だ。そういえば俺が病床にいる頃からずっと励まして、楽しませてくれていたな。本当に感謝しかない。雫が横に居てくれればそれだけで良いんだ。


 魔導王の気持ちも分かるが殺さないでいてあげよう。ここで俺が直接手を下してしまうのは間違いだと思う。それでもダンマスに挑んだことは後悔させてあげないとな。問題は牛太郎なのだがそれも含めて楽しみだ。


 ダンマスこと俺対魔導王のバトルは2日目の最後となっている。大トリというやつだ。初日のトリは剣姫対カイ改(騎士級)となっている。剣姫には本当はもっと上位の魔物とやりたいと言われたのだが流石に止めておいた。


 その他にも初日は動画内で大人気の日本の有名探索者パーティが全て出る。きっと初日も盛り上がる事間違い無しだと思う。午前中は各国の特殊部隊の戦闘で、抽選で当たった一般探索者達のバトルは午後一番で催す事になっている。こちらにはソロ忍者やカンフー団も出る事になっているのだが日本のアメフト部は応募してこなかったので参加していない。


 そしてバトルで勝ったパーティには金のチェストを出す予定だ。ただ各パーティで何が欲しいのかは分からないので直接俺が聞くことにする。そして叶う願いならばその場で叶えてあげるという演出だ。


 今日は出店を賑やかしてからホテルに帰る振りをしてコアルームへと飛ぶ。俺はもう一度魔導王との会話を見返してから他の画面も確認する。魔導王以外には特に参加パーティは来ていなかった。流石はフリーの探索者パーティだったと言うことなのか。働くも働かないも自由に選べるのだし。


 それにしても魔導王はまた随分と能力値を上げてきている。賢さだけなら既に準男爵を超えて男爵級の300超えだ。これは召喚士になったボーナスも含まれているのだが。ということは牛太郎も当然強くなっているのだろう。むしろどれ程強くなれるのか興味が湧いている俺がいる。


 そして魔導王が遂にランス系の更なる上位魔法を編み出したようだ。最初に1回ずつ使用してからはその後発動させていない。使うとバレて動画にでもされると思っているのか?もう見ちゃったんだけど。


 ただその後、能力値も上がっているのでどの程度の威力になっていることやら。そして魔導王が編み出した魔法はそもそも魔法スクロールが存在しないのだ。並列思考を持っていないと編み出せない。なので俺でさえこの魔法を使うには魔導王と同じ手順で編み出して行くしかない魔法となる。まあ要らないけどね。


 そしてその他のチェックを終わらせてからダンマスの鎧を纏い大聖堂にある真紅の鎧の女騎士のフィギュアを集めて売り場の方へ持っていく。かなり完成度は高く売る価値はちゃんとある。今回はこのフィギュア1000体を1つ50ドルで売る予定だ。


 そして全部売れれば結構な金額になるであろうこの売上でエデンの里に地球の鶏とヤギを家畜として買って帰る予定だ。ちゃんと育てれば繁殖もするし肉も卵もミルクも取れる。そして魂の節約も出来る所がミソだと思う。


 既に牛のような動物は存在しているのでそれならと豚にしようとも思ったのだが近い種の魔物で猪やオークがいるので止めておいた。それにオークや猪の肉は地球の豚より旨味成分が4〜5倍高いと言われているようだし。ダンジョン産の食べ物は全てが地球の物より上回っているのだ。







 


 



 


 

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