第82話 再進化

 金曜日。


 日本は朝を迎えた。そして続々とダンジョン内に人が押し寄せてくる。ギルド内にはチームシーカーズの姿がありギルド職員と何かを話している。するとギルド員は頷き、奥にいる大阪ダンジョン省出張所の所長を連れて帰ってきた。


 そして何やら話して、磯山幹久はポケットからS+と書かれている黒い珠を取り出して所長に見せている。それを見た所長はスマホで写真を何枚か取ってから職員を3人呼び寄せて転送門を囲む。


 チームシーカーズは転送門の前で皆待機している。すると何処からともなく機械的音声でアナウンスが流れる。それを皆不思議そうに聞いていると突然磯山幹久が消えた。そして残ったチームシーカーズのメンバーは門の中に入っていった。周りで見ていた他のパーティの人間もその後に入ろうとしているがギルド職員に制止させられている。


 チームシーカーズはバトルエリアへと転送されている。そして磯山幹久はカバンから真黒い液体の入った瓶を取り出して一気に呷る。すると磯山の身体は一瞬ドス黒くなってから元に戻る。そして皆を見回してから口を開く。


「どうやら更に進化する薬だった。そして俺のジョブが魔導師から召喚士へと進化したらしい」




         ★★★★★



「お〜い、リア。召喚士なんていうジョブが有ったんだね。どんなジョブなの?」


『お答えいたします。召喚士とは魔法使い系統の派生ジョブで、ジョブランクとしては最上位ジョブとなります。召喚士は召喚魔法で魔物を呼び出すことのできる職業となります。魔物はマスターのカタログに乗っている全ての魔物の中から、召喚士本人の波長と能力値に合った魔物がランダムで選ばれます。選ばれ召喚士に気に入られると契約する事になります。そして契約すると次回からは同じ魔物が呼ばれることになります。そして魔物は召喚士と共に成長していきます』


「へぇ〜面白いジョブだね。でも何が要因で召喚士なんかになったんだ?それに魔導王だとどのランクの魔物が召喚されそう?」


『磯山幹久の資質の問題が大きいと思われます。大きな力を得たいという強い思いが上位ジョブの中から召喚士というジョブを引き当てたと思われます。そして今現在の磯山幹久の能力だとS級から騎士級の魔物となるでしょう』


 S級から騎士級か〜。丁度カイとカイ改辺りになるのか。なるほどね…。何かを忘れている気がするがなんだろう。だが嫌な予感だけはしている。


 すると魔導王が召喚魔法を使ったのだろう。足元に魔法陣が現れ、そこには見たことのある魔物の姿が現れてくる。俺は立ち上がって叫んでいた。


「待て待て待て待て!まずいまずい!!牛太郎は不味いって!!」


 俺は思わず叫んでしまった。これが叫ばずに居られるか!牛太郎は賢さの能力値だけは魔王認定のS級なのだぞ?そして魔法攻撃力が装備の影響で2.5倍に上がっている。


 はぁ…まったくこの人は…どれだけ俺を楽しませてくれるんだ?しかし不味いよこれは…。俺、20日後にバトル大会で魔導王と戦うのだぞ?それはつまり牛太郎と戦うと言うことにもなる。普通にやれば負ける要素は無いのだが召喚士によって召喚された魔物の成長要素と、魔導王の新たなエクストラスキルがヤバいのよ。


 それは「オーバーロード」


 このスキルはどうやら召喚している魔物に過負荷を掛けて能力を底上げするスキルとなっているようなのだ。底上げされる能力値は召喚士本人の能力値が影響してくるらしいので魔導王の賢さが大きく影響を与えそうだ。


 ということは賢さだけは魔王認定の牛太郎が魔王級を超えてしまう可能性が出てきてしまったと言うことだ。最悪の組み合わせだ…ん〜参ったな。でもまだ魔導王が牛太郎を気に入るとは限らない。


 全く、こんなにハラハラしなきゃいけないのは雫の所為せいだぞ!後ろを見ると気持ちよさそうにスライムベットでヨダレを垂らして寝ているや。ちょっとムッと来たので鼻ピンしてやる。


「フガッ!痛いな〜急に何するのよ!鼻が曲がったらどうしてくれるの?」


 俺はプンプン怒っている雫にざっと説明をした。そして丁度S+のバトルエリアのボスを牛太郎が吹き飛ばした所だった。


「………あちゃ〜。ギュウちゃん…これ、やっちゃってるね」


 雫よ、やっちゃってるね所ではないのだぞ…。兄ちゃん死んじゃうかもしれないぞ?


 しかも牛太郎は魔法障壁と俺がまだ把握していないスキルまで持っているのだ。能力を変えたいのだが操作不能になっている。リアに原因を聞く。


『磯山幹久が召喚中なので操作は出来ません。磯山が召喚を解けば操作可能となりますが、磯山が契約するとダンジョンマスターであっても契約中は操作することは出来なくなってしまいます』


 なんてこった…魔導王よ、契約するなよ?と言う俺の希望は儚く消え去った。どうやら魔導王は牛太郎と契約を交わしたようだ。これはちょっとあれだな。後々の事を考えると魔導王と牛太郎にはバトル大会で消えてもらうしかないかな。最低でも牛太郎は倒してリセットしないとな。


「雫、牛太郎のスキルは魔法攻撃力大アップの他に何がある?雫の制限のせいで俺でさえ見れないんだけど」


「ん〜とね、え〜と、ん〜と……何だったっけ?今ギュウちゃんの詳細は私にも見えなくなっちゃってるや…」


 はぁ…。もうため息しか出ないよ。何とかするしかないな。


 その後、魔導王パーティはチェストからアーマーセットと武器、全能力値アップの薬を取り出してから排出されていった。すると牛太郎はスーッと消えた。召喚士本人がダンジョンから出てしまうと魔物は自動で消えるようだ。


 バトル当日に牛太郎がどこまで強くなっているのかは未知数過ぎる。こうなると俺も魔物を召喚しても良いかもな。そうだ!良いことを思いついたわ。魔導王が牛太郎を召喚したら、俺も女騎士を召喚してやろう。


「お〜い雫、責任取って牛太郎と戦ってね。牛太郎を作った張本人なんだからぶっ飛ばしてきてね」


 雫はあーだこーだ駄々をこねているが負けたりしないよな?一応俺らは神級なのだけども。そしていつも装備している鎧にも色々と付与されているのだ。どんなに牛太郎が成長していても20日で神に成ることは無いだろうよ。


 各々、色々な思いを抱きながらバトル大会の1週間前になる。


 今日は世界中のビールメーカーからサーバーと樽、そして炭酸が続々と搬入される。ギルドから集めてもらったアルコール販売のボランティア達にダンジョン内に入って来て貰い、販売手順の確認と打ち合わせを行う。世界中から来てくれたボランティアに俺と雫の言葉が届くのは本当に便利だ。


 今回は闘技場の内外で40万人の観戦客が押しかけてくる。そんな人間を何人の売り子で捌けばよいのかさっぱり分からない。最初は自作の魔物で行う予定だったアルコール販売はギルドの提案でボランティアを集める事ができたのでそちらでお願いした。


 このボランティアの大半は俺を崇拝してくれている俗に言う「ダンマス信者」と呼ぼれる人間達だ。俺がフルプレートアーマー姿でスライムの上に乗って現れると、大歓声が起こり失神する人まで現れる。当然悪い気はしないよな?


 そして出店の店主も機材などを続々と持ち込んできて準備に取り掛かっている。闘技場周辺が一番人気で、時点が闘技場とホテルとの通路脇だ。出店場所は事前に決めてあるので場所の取り合いはない。こうして着々と準備が整ってきている。


 


 

 





       


 

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