第77話 エデンの試練
明け方。大聖堂の鐘がけたたましく鳴り響く。いつも新しい仲間が増えるときも鐘は鳴るのだが、それとは違う鳴り方に住人達は不思議がって大聖堂に自然と集まってくる。
双子の巫女が信託の間への扉を開けると、更にその奥に有る普段は開くことのない扉が勝手に、そしてユックリと開いていく。その先には神々しい光に包まれた真紅の鎧を纏った女騎士が立っている。
今まで見たことのない光景に住人たちは緊張で震えてさえいる。双子の巫女が跪き
それを見下ろしながら女騎士は歩き始める。その後ろを巫女を先頭に皆で続いて歩いていく。その頃には大聖堂の鐘は鳴り止んでいた。
女騎士は里の入口まで歩き剣を抜く。住人はその場で跪いている。そしてその剣でとある方向を指し示した。それを双子の巫女が確認し、とても澄んだ声で叫んだ。
「敵襲です!皆さん、戦闘の準備を!」
実は巫女ちゃんズには事前に啓示で知らせておいたのだ。なんせ敵とは何か、から説明しなければならなかったのだから大変だった。なので多分住人も敵とは何かは分かっていないと思うのだが、女騎士と巫女の演出で緊急事態だと理解してくれたと思う。
皆一斉に武器を取りに家に戻っていく。その間も女騎士は剣で指し示して動かない。敵との距離はまだ1kmは有るだろう。それでも住人達は急いで戦闘の準備をして戻ってきている。
女騎士は指し示していた剣を地面に突き刺し、その上に手を乗せて仁王立ちをする。まさに威風堂々としている。
敵はゴブリンを先頭にコボルト、そしてオークまで居る。ゴブリンはゲスっぽい笑顔で向かってきている。数はざっと100体。そして一番奥には一際大きい魔物が見える。ホブゴブリンソルジャー。Dランク下位の魔物だ。
エデンの住人達に緊張が走る。唾を飲み込む音がアチコチから聞こえてくるのだが気付かないふりをする。ちなみに俺は変装して住人の中に紛れ込んでいる。緊迫した状況下なので誰も見たことのない俺には気付かない。
敵との距離が100mの所まで来たとき、ホブゴブリンが奇声を上げる。すると全敵が雄叫びを上げながら一斉に走り出した。この勢いに飲まれたら負けるぞ?
するとエデン側もリーダーの獅子人族の騎士とガーディアンが3名前に出て盾を構える。その後ろから狩人が矢を放ち始め、敵の先頭の一団を次々と倒していく。そしてリーダーの叫びと共に全員が突撃していく。中々負けていないな。
ボスのホブゴブリンは動いていないので雫も動かない。今日の雫の仕事はボスの足止めなのでボスが動かなければ雫も動かない。そして今の雫はサブマスターの役職を外してある。そうしないと魔物が攻めてこなくなってしまうのだ。
その間に、エデンの獣人と魔物が衝突する。最初の衝突は完全にエデン側の勢いが魔物を圧倒した。身体の大きさが違うからね。
第一陣が熊人、獅子人、虎人、竜人。その隙間から犬、猫、狐、狸、兎、羊の獣人がゴブリンやコボルトに襲いかかる。完全に魔物側は勢いを削がれて劣勢になっている。
その時、ゴブリンとコボルトを掻き分けてオークが前に出てくる。コイツはEランクでゴブリンなんかよりも格上でガッシリしていて体格負けはしていない。しかし既に勢いはエデン側にある。どんどんと押していく。だが余り押しすぎるとホブゴブリンに近づき過ぎてしまうので途中まで押し返してまた睨み合う。
魔物側からボスのホブゴブリンが前に出てくるので雫も皆を掻き分けて先頭に出る。ボスは一騎討ちをご希望のようなので雫は剣をまた地面に突き刺しボスに近づく。
ボスは雄叫びを上げながらロングソードを振る。それを雫は横に躱し、その反動を利用してガントレットを着けた拳で死なない程度に殴りつける。ボスは口から歯を撒き散らしながら吹っ飛んだ。それを合図にリーダーの獅子人が大声で号令を掛けて総攻撃だ。
そして程なくして全く危なげなくイベントは終了した。多少は怪我人が出たけど命に別状は無さそうで、今は巫女ちゃんにヒールを掛けて貰っている。
Dランク位なら雫は要らなかったかな。まあ今回は本人の希望で参加させたけど次回からは参加させないか、もっと強いボスを用意するか。エデンの住人も襲撃を味わった事により得るものもあったはずだ。子供達もそうだろう。勿論素材もオークの肉なども出ているし魔石もそうだし、経験値もそうだ。
そして信託の間の奥には創造神の使者の「真紅の女騎士」が居ることもわかったはずだ。これできっと信仰心も爆上がりだな。
そしてボスのホブゴブリンの居た場所には金色のチェスト。金色はダンマスからの特別ボーナスのチェストになる。実はこの中身を何にするかを一番悩んだ。そして俺と雫が出した答えはブドウの苗とワインだ。
正直まだ早いかなとも思ったが、料理にも娯楽にも使えるので早めに与えておこうと思ったのだ。鑑定スキルを持っているリーダーがいるので今回の中身が何なのかは分かっているはずだ。ワインを飲みすぎてダラケルようなら神罰が下るだろう。
それにブドウを苗から育てないと行けないところもミソだと思っている。当然枯らしたら終わりだし、増やす努力をしないともうワインは飲めなくなってしまう。
無限に取れる作物とは違うのだ。農耕士の腕の見せ所だな。そしてブドウが採れるようになったら調理師の出番だ。まあそこら辺は先の話になるので今日は初イベントを乗り切ったご褒美なのだ。ワインは多めに入れておいたので大いに飲んでオークの肉を食って騒いでもらおう。
そして今回のイベント動画は後で見返して修正点などを見つけて雫と詰めて行かないとな。案外エデンの大人たちは戦えることが分かったからな。
後は何をするんだったかな…。あぁ明日は地球が土曜日だから動画のアップを何にするか決めてなかったな。まずは現状のチェックだな。魔導王は…もう今日で踏破するな。もう8層に行くところだ。
そしてアメフト部はっと…メンバーが二人増えて10名になってるな。しかも女子!リア充か!
そしてカンフーチームは相変わらずコツコツと素手で能力値上げだ。俺としてはこの人達がイチオシだ。
そしてソロマンの変態忍者はクンカクンカしてないだろうな…。してない!偉い!
いや偉くはないか。ただこの人はやはり強くなるな。スキルも使いこなしているしソロだから能力の上がりが早い。そしてやはり元々の戦闘技術がかなり高い。今後悪い事さえしなければ良いのだけど。
そんな事を考えているとどうやら昼食の時間のようでお供物を運んできてくれている。今日は早速ワイン付きだ。しかもボトル一本丸々だ。自分で与えて自分で飲むだなんて…まあ折角だから雫と頂く事にするのだが、俺も雫もワインなど飲んだ事がない。開ける道具もないしどうしようか。
雫と悩んでいると影からスーッとダークナイトが現れて手刀でボトルの先っぽを切り落としてくれた。でもこれで栓は出来なくなったのかな?飲み切るしかないよなこれは…。
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