第63話 新システム
俺とキョウは睨み合っている。事業としてダンマスを利用しようとするキョウと、個人的な恨みを晴らそうとする俺。正解などは存在しないが、世間一般的にはキョウの意見が支持されるだろう。
俺の考えはただの逆恨みだ。自分でも分かっている。でもそれでよいのだ。ダンマスを探し出して倒す。これを俺の生涯の目標とする。
俺はコズの墓前で誓った事を思い出す。俺は本当に先に進めているのだろうか。過去に囚われ過ぎているのかも知れない。
「まあまぁまぁ、いいじゃないですかお嬢。イソがどう考えようが自由なんですから。それにダンマス目指して進んでいるのはウチらも一緒じゃないですかい?」
その言葉にキョウは納得している。五ツ星もダンマスを目指している?なぜだ?聞いても答えてはくれないだろうな。
色々とモヤモヤの残る結果となってしまったが、張り詰めていた空気は穏やかに流れ始めた。前にも思っていたのだがこのマサは空気を読むのが上手すぎるんだよな。年の功なのかな?
俺らは探索を再開する。結局チェストには毒ガスの仕掛けが有ったが、中身もちゃんと入っていた。それはキュアの魔法スクロールだ。これは偶然か?何という皮肉!このダンマスは本当にあのダンマスなのか?物凄くひねくれているように感じる。
そしてこのキュアの魔法スクロールは五ツ星に差し上げる。マサが命懸けで手に入れたスクロールだからだ。
その後も2層を探索して3層に降りる階段を見つけたところで帰る事にする。一応調査は予定通りとなっている。ここまでのマッピングも正解のルートは判明しているので迷うことは無い。
俺らは2層を走り抜けて1層に戻る。敵の居ないエリアなど、走れば15分位で抜けられる。
1層は午前中に抜けているが問題ない。脳内のマップは色あせたりしない。
1つ目の角を曲がると眼の前にゴブリンが1体立っていた。完全に油断していた。取りこぼしが居たようだ。完全に討伐したと思っていたので気配感知も使っていなかった。
だが所詮はゴブリン1体だ。確認してから抜刀しても余裕で間に合う。キョウが一閃して終わる。
そこで改めて気配感知を使ってみると行きに倒したモンスターが全て湧いているのがわかる。どうやらコイツは取りこぼしではなく、
我々がいつも入っている旧ダンジョンは、1回倒すと深夜の0時までリポップしない。なのでそれが当たり前だと思っていた我々のミスだ。こんなシステムがあるとは思いもしなかった。
俺達は行きと同じ様に索敵しながら進んでいく。1層は雑魚の敵なのでそこまで慎重になる必要も無いのだか念の為だ。
そして敵が居ると分かっていれば特に危険な事もなく、魔石を拾う作業が増えた程度で1層を抜けて転送門にたどり着く。
何時間でリポップするのかは今後の調査をしてみないと分からないが、それだけいっぱい魔石が取れると言うことになる。
これは狭いエリアを探索するならありがたいシステムではある。どんなに頑張っても1層だけでは30個位しか魔石を集めることは出来ない。それが倍以上取れる可能性があるのだ。
ここら辺もしっかりと報告しておこう。素人が突然眼の前に湧いたモンスターに対処出来るとは思えないからな。
そして地上に戻って簡易テントの中で俺は紙に地図を書き始める。本当に子供が書いた様なただの迷路だ。だが、実際に中に入ってみるとこれがまた難しいのだ。道標を立て掛けて置いたほうが良いだろうな。
地図さえ手に入れてしまえば次からは凄く楽になるな。完全攻略もすぐな気がするな。
俺が地図を書いている間に、残りの三人で中の状況を報告している。魔物の溜まり場や安全な場所、そして宝箱やその中身。トラップなど全てを説明している。
俺は今日1日キュア以外の魔法を1回も使っていない。タケも戦闘を1回も行なっていない。出てきた敵は全てキョウが倒している。
まあ、今のところ過剰戦力だがこれも仕事だ。俺が始めてダンジョンに入った時でさえ過剰気味だったのだ。あれから皆も成長しているのだから尚更暇になる。
俺らは明日の集合時間を確認してから解散しようとした。だがキョウに夕飯に誘われた。当然断る理由も無いので武器をダンジョン省の職員に預けてから一旦宿で着替えを済ませて四人で一緒にレストランに入る。
「先程言っていた最愛の人というのは格闘少女のことですか?もしそうだとしたらお悔やみ申し上げます」
「あぁ、有難う御座います。そういえば京香は梢と一度会っていたんだよな。最初の動画が投稿された日だったか」
「ええ、マサもその時一緒に居ましたわよね?我社に爆炎の帝王を引き抜こうと、居ても立っても居られなかったのです」
「ええ。あの動画も凄かったですが、復帰戦でしたか?あの魚人の棲家を吹き飛ばしたアレ。あれには痺れましたぜ」
「そうですわね。あれはどうなっていますの?ウチの魔法担当の田中でもあそこまでの威力はありませんわ?」
「あぁ。これは極秘なんだけど俺は別にバラしてしまっても構わないと思っている。あれはスキル『並列思考』の恩恵なんだ。このスキルの修得条件は分かっていない」
そして俺は並列思考をどうやって覚えたのかを予想も踏まえて伝えた。
「そんなことが起こるのですか?やはり貴方は特別な存在なのですわね。そして今回の人類初の職業持ちの件もですわね。前にも話しましたわよね?ダンジョンの意思の話しを」
「ああ、その話は聞いたけどな。でもスキルはウチのバトルエリアでの大惨事と引き換えで覚えたのだし、今回の職業持ちの件は俺の幸運と勇気だとダンマスは言っていたけどな。五ツ星だって2層で薬品は見つけていないのか?」
「薬品ですの?何種類かは既に確保して分析中ですわ?」
「ああ、ウチはその分析を現場で行っているんだ。要は出た薬品はその場で試す。それだけだ。だって成分を調べた所で効果はわからないだろう?」
「それはそうですが…。毒と言う可能性も…もしやキュアがあるから平気と?」
俺は頷く。それを見た京香は呆れ顔。マサは大爆笑。それに対してタケが色々と俺のぶっ飛んだ行動を付け足して話しに花を咲かせる。なんだかんだでとても楽しい食事会となった。
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