第62話 新たな目標

 俺達はその後1時間ほど掛けて階段に辿り着いた。ここまでで約3時間。迷いに迷った割には早く付けたと思うのだが。


 現在の時刻は昼には少し早いけど微妙な時間だ。なので少し進んで見ることにする。多分だけど我々探索者に調査を依頼したのは間違いではないと思う。なんせ現在の俺達の熟練度なら、1日で2層を踏破出来るだろうと予想しているからだ。


 今日は脳内マッピングを済ませて明日は最速で3層へ行って、4層まで踏破。そして最終日は行けるところまで行って撤収の予定だ。


 昼食を1時間取ったとして、午前3時間半、午後は1時から始めて2時間進んで2時間掛けて帰る。そんな予定だ。このダンジョンが何層まで有るのかはわからないが、俺らはあくまでも調査なのでそこまで気負っては居ない。


 道中も他愛のない会話をしながら進んでいる。出てくる敵は瞬殺していく。敵なんて居ないのと変わらない。ただ、魔石を拾わないといけないのが面倒臭い。


 あんまりお互いの会社の内情などは聞けないので話す内容などたかが知れている。それでもダンマスの事について聞くと、何を考えているのか分からなすぎて信用しない方が良い、と俺と似たような意見だった


 俺はCランクバトルエリアの事を少しだけ話した。ミスで入ってしまったことは伏せたが、仲間の死は話した。それを踏まえて俺はダンマスがこちらを殺しに来ていると思っていることを伝えた。


 まあ感じることは人それぞれだから特に強制する訳では無い。向こうもダンマスは信用しないと言っているからそれで充分。どうせこの調査が終わればまたお互い会社の為にダンジョンに入る事になるのだ。ダンマスが好き、嫌いに関わらず。


 そうこう話しながら探索をしていると昼の時間になるので簡易的な昼食を取ることにする。これはいつもダンジョンでも食べているゼリー状の簡易食だ。そして今回の調査に関してどこまで報告するのかを擦り合わせておく。


 脳内地図を公表するのか、敵の配置や数を報告するのか。これはかなり大事だ。もちろん全部伝えれば後に大きな事故が起きづらくなり、一般人でも気軽に入れる様になるかもしれない。


 実際このダンジョンの1層は素人でもなんとかなるレベルだと思う。ただ、俺らも最初に自衛隊の調査結果を全く聞かされてはいなかった。全て手探りだったのだ。だから準備をしっかり行ってから探索の許可が下りたわけだ。


 それを全て伝えて簡単だからとすぐに素人が入ってしまって事故が起きるよりかもは伝えないほうが良い場合もあると俺は思っている。


 まあ全て伝えて後はダンジョン省に任せてしまった方がいいのかもしれない。そこら辺もキョウに話すと、全て伝えてしまいましょうと帰ってきた。


 その後も2層を迷いながら進む。敵はゴブリンを中心に単独の蟻、蜘蛛、蜂がいる。こいつらは3cm大の魔石の方だ。巣のボスクラスではない。そして魔法のスクロールとスキルブックも偶に出る。こちらは調査前に自由に使って良いと言われているので適当に配る。


 新旧両方のダンジョンを知ってる俺としては敵は使い回しだな…と。俺らはそれも一閃しながらあっちに歩いては行き止まり、こっちに歩いても行き止まり。キョウがイライラしているのが手に取るようにわかる。短気な女だ。


 俺等が普段入っているダンジョンはフィールド型のダンジョンだ。なので空があり、緑がある。こんな閉鎖空間とは違いがあり過ぎる。


 そしてここは曲がり角が多いため、先が見えない。まあ俺等は全員感知持ちなため敵が何処に居るのかはわかっているのだが、問題はそこではないのだ。


 先が見えず、曲がると行き止まり。これは精神的にかなり来る。キョウがイライラしている気持ちがよく分かる。


 そんな行き止まりにぶち当たっている俺らの眼の前になんと木のチェストが。懐かしい!俺が木のチェストを見たのは確か探索初日だった気がする。どうせろくなものが入っていないのだろうがチェストを見るとテンションが上がる。


 早速マサが開ける。すると緑っぽいガスが吹き出したのが見えた。マサの反応は凄まじく早く身体を半身にして直撃を避ける。


 それでも少しだけ吸い込んでしまったらしく膝を付いてゼーハー言っている。俺は慌ててキュアをマサに掛けて毒を浄化する。


 これはエグい!これはダメだよダンマスさん。死んじゃうじゃないか!


 これで俺の中でダンマスが悪だと言うことが確定した。アイツのせいで梢は死んでしまったのだ。俺はダンマスを許さない。




         ★★★★★


 

「しずく〜これはエグすぎるんじゃないか?毒ガスなんて…俺でさえ使った事ないぞ」


「えへへっ、流石にこの人達には通用しなかったか…でもあの盾の人は毒ガスを吸い込んだのは確かよね!」


 と言って雫は俺に向かってサムズアップしてみせる。楽しそうである。逆にあの人だからあの程度で済んだんだぞ?下手したら死んでたじゃないか…。あ、それで良いのか。


「今回の迷宮はね〜トラップだらけなのだ!しかもね〜このトラップの場所は発動すると次回はランダムで場所が変わるのよ!」


 エグい!エグすぎるよ!そして俺ですら知らないトラップの設定を雫は取り入れているようだ。これを鼻歌交じりで作っていただなんて…お兄ちゃんは心配だぞ!


「それにね〜このダンジョンはもっと凄い仕掛けがあるんだよ!まあ兄ちゃんは知ってるよね?ランダム転送の事は」


「と、と当然だよ!知っているさ、俺を誰だと思っているんだよ、ダンマスだぞ?」


 ふう〜アブネ〜。何だそのランダム転送とは…そんなシステムがあったのかよ!それにしても本当に雫が凄い事を考えている。お兄ちゃんはちょっと引いてるぞ?


「ん?何か言った?」


「ん?いや、雫は天才だな〜って」


 エヘヘへ、アハハハ。


 このダンジョンは雫に任せたんだ。やりたいようにやらせてあげよう。雫が楽しんでいるのを見るのがお兄ちゃんの生き甲斐だからな!



         ★★★★★



「なあ、ダンマスって何処に居るとおもう?ダンジョン内には居ると思うか?」


「一応ですが、我が五ツ星重工業の情報機関が徹底的にダンジョンマスターの動画投稿サイトからアカウントを追跡したのですが、複数のサーバーを経由しているのは分かったのですが、最終的なアクセス元は確認が取れませんでした。ですのでおそらくはダンジョンの中に居ると思われます」 


「そうか。貴重な情報を有難うな。それが聞けただけでも良かったよ」


「あら、随分と慎ましやかではありませんか。何かを決意したかのような顔をしていますわよ?」


「あぁ、俺はダンマスを倒すよ。奴は俺の最愛の人を殺めた張本人だ」


「あら、それは困りますわ。ダンジョンマスターを倒されてしまったら魔石事業はどうなってしまうかお分かりで?貴方が本気でそれを考えているのなら、私は本気で貴方を止めなくてはならなくなります」


「悪いけど俺も本気だ。ただ、居場所の見当もつかないし何より今の俺ではあのギガスライムにすら勝てないだろう。まああくまでも目標だ。気にするな」




 








 


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