第60話 人類初

「しずく〜!大変だ!!遂に現れたぞ!」


「なになに?一旦落ち着いて!どうしたの兄ちゃん?」


「遂に現れたんだよ!人類最初のジョブ持ちが!」


「あーなんだ…そっちか…てっきり大迷宮の事かと思ったよ」


「あーなんかごめん…1人で興奮してたよ」


「ううん、こっちこそごめんね。興奮して当然だよ。結局誰だったの?第一号は」


「あの男の人だよ、北側の魔導王!そしてジョブはウィザードだ!」


「あーウィザードっぽいもんね、あの人は。私はてっきり南側の剣姫かと思ってたんだけどな」


「これはめでたいよな!何か祝ってあげようかな…」


 これでも一応元地球人だ。俺は人類初のジョブ持ちが現れた事をお祝いしてあげたくて、俺専用のタブレットから装備品を見てみる。


 魔導王のジョブが魔導師だからな。これなんか良いかもな。後ダンジョン中にアナウンスしておくか。記念すべき日だからな。



        ★★★★★


 俺が進化してから多分3分くらい経った時、突然ダンジョンにいつもの機械音でアナウンスが流れた。


『只今、人類最初の進化を遂げ職業ジョブを獲得した者が現れました。ダンジョンマスターは大変喜んでおり、幸運と勇気を祝してその者にプレゼントか送られます。皆様におかれましても引き続き進化出来ますよう励んでください』


 そうアナウンスを聞いたあと、俺の眼の前にチェストが現れた。それも金色のだ。


 疑う余地も無い。どう見てもこれがダンマスからのプレゼントだ。


 俺はチェストを空けた。中にはコートが一着入っている。


 黒のフード付きトレンチコートだ。魔導師っぽい……よな?何故か俺の中では魔導師系の装備はフード付きだ。


 ダンマスがくれた位だ、きっと凄いコートなはずだ。俺は手に取り羽織ってみた。凄く軽い。そして俺のサイズにピッタリだ。


 そして俺の能力の「賢さ」が91になっていて、その横に(+10)と書いてある。ウィザードになって+20、このコートを着たから更に(+10)だろうな。+10なんて破格だ。これで俺の賢さは合計で101となっている。そしてこのコートを着ると魔攻中が大に変わる。これはヤバイやつだ。


 賢さは他の追従を許さない数字だ。お陰でF-バーストやランス系の魔法が一気に6/6になっている。これは確かに人類の進化と言っても過言では無いな。


 F-バーストを撃つのが怖くなってきたぜ。この能力だとどれ程の威力になってしまうのか…。あれ?怖いんじゃなく、ワクワクしてるのか俺は?


 その後試し打ちをしてから、本日の探索を終え、皆でギルドに戻る。するといつもは静かなダンジョン省職員が慌ただしくしている。


「先程穀物ダンジョンや鉱山ダンジョンから連絡がありまして、どうやら人類初の進化を遂げた人間が現れたらしいんですよ!皆さんは何がどうなっているのかご存知ありませんか?」


「あ〜それね…あははは。さぁ…誰なんでしょうね?羨ましい限りです。あはは」


 俺はまだここで報告はせずにトウキンのミーティングで報告する予定だ。それが筋だと思っている。


 俺はロッカーで装備を外してダンマスから貰ったコートと今日獲得した素材を抱えて会社に戻る。最近は亀の甲羅の素材が嵩張ってしまって邪魔でしょうがない。


 それでもこの素材の回収も仕事なのだからしょうがない。そのうち暫くは要らないと声が掛かるだろう。なんせ既に亀の里と通常の敵の甲羅が1日に100個近く、2日で200個は超えているのだから。


 ゲームとかで出てくる甲羅の盾はまさにこれなのだろう。かなり硬いけど、どちらかというとムカデの素材の方が使い道はありそうだ。


 俺がトウキン探索部のミーティングルームへ入ると既に2期のメンバーが揃っていて先程の進化のアナウンスに付いて話しているところだった。


「誰なんだろうな」とか「どんなプレゼントなんだろう」とかを楽しそうに話している。なんだか段々と恥ずかしくなってくる。


 そしてミーティングが始まり、1班のリーダーのアキが今日の報告をし、俺が進化第一号だと報告する。


 1期のメンバーはもちろん全員知っているのだが、2期と探索部の職員は開いた口が塞がらないようだ。


 俺は手に持っているコートを羽織って見せる。これがダンマスからのプレゼントだと伝える。調べたいので貸してと言われたが、これは個人の所有物だから渡せないと伝える。触るぐらいなら許そうぞ!


 2期のメンバーは完全に俺を崇拝しているよ。ただでさえ最初から俺に憧れていたメンバーも居るのだからな。


 すると有馬部長からどうしても進化の件についてはダンジョン省に報告しなければならないと言われる。それはしょうがない。だがこのコートは渡さんぞ?


 その後有馬部長と課長、そして1班のリーダーとウチの班のリーダーのサトと一緒に隣の建物のダンジョン省に来ている。


 俺らは会議室に通されて、そこでダンジョン省上野ダンジョン課の課長と何人かに質問攻めにあう。


 俺は素直にチェストから出た薬品を使用したこと。薬品の詳細は伝えない。これはトウキンの極秘事項だと思う。そしてダンジョン内で職業を得たこと。そしてダンマスから今着ているコートを貰ったことを伝えて寮に戻る。


 食堂に行くとテレビでは、今日のアナウンスの事が既に知られている様で大騒ぎになっているようだ。


 報道陣も霞ヶ関のダンジョン省に駆けつけて居るようで、どうやらこれから記者会見が開かれるようだ。かなり大事になってきているな…。


 そして先程俺が話した内容をそっくり報道陣に伝えている。もちろん誰が進化したのか、プレゼントは何だったのかは伝わっていない。


 すると突然会見場がざわめき出す。そして大臣が動画サイトの方で魔王の生配信が行われると告げた。


 皆、急いでPCをテレビに繋ぎ、動画サイトの魔王の動画を見ることにする。そこにはスライムの上にフルプレートアーマーを着たダンマスが映っている。そしてダンマスが乗っているスライムが…デカい!上に乗っているダンマスとの対比で4m前後はある。これがキングスライムか?


 するとダンマスが喋り出す。


「本日、遂に人類に職業持ちが現れた。これは大変喜ばしい事である。なぜならこれで魔石の回収量が増え、地球にクリーンエネルギーをもたらすことが出来るようになり、温暖化ガス排出削減につながるだろうからである」


「そしてこれから各地に次々転送門が出現するであろう。その全てが魔物の跋扈するダンジョンとなっている。どんどん入ってどんどん魔石を持って帰ってくれ!」


 そう言うと画面が変わる。そこには顔にはボカシが入っているのだが、どう見ても俺が試し打ちをしている動画が流れる。


 動画で俺は「あの日」魔王が乗っていたのと同じサイズのスライムにF-バーストを撃っている。杖とコートと賢さが合計30上がった俺の魔法はもう終末戦争の如き火力でスライムを一瞬で焼き尽くしていた。


 中心に空気が圧縮される瞬間などはいくつもの空気の線が中心に集まっていくのが肉眼でも確認できる。しかもこれは単発使用でこんなのが1日6発も撃てるのだ。


 もう何というか、俺一人で亀の里を滅ぼせてしまうぞ?これはマジの話だ。


 


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