第58話 魔導王

 土曜日深夜0時。魔王オフィシャルの動画が投稿された。その動画には、トウキンの亀の里討伐の動画が含まれていた。そしてその動画が過去最高の盛り上がりになる事を俺はまだ知らない。


 土曜日朝。トウキンの探索者は休日となっているが、寮の食堂は朝食と夕食は休み無しで食べられるようになっている。


 俺は朝食のために食堂に入ると皆が俺を一斉に見てくる。そして皆がテレビを指さして俺に見ろと言ってくる。


 そこには丁度昨日の俺等の探索姿が映っている。これは討伐が終わった後の映像だな。


 これがどうした?


「イソ、お前の魔法がバズってるよ。特にあの雷の奴がさ。俺らアタッカーなんて話題にも挙がらねーよ…」


 またか。まぁ確かに昨日はぶっ放しまくった気はしていたけどな。それもド派手に。


 恒例のワイドショーでも昨日の俺たちの戦う姿が大々的に取り上げられている。俺も夜中に見たのだがボカシが無くなっている気がしたのだが、どうやら最後の企業が討伐完了するとボカシがなくなるようだ。


 皆の見解だとネタバレ防止の為にやっているのではないか。という事だ。それでも魔物のグロシーンには流石にボカシが入っているのはしょうがないよな。


 俺は朝食を終えて談話室に移動する。ここでもテレビの同じ番組が流れていて皆が見ている。皆は動画で既に見ているはずなのだがテレビに流れる自分の姿に一喜一憂している。


 すると寮の玄関の方が騒がしくなっているので何人かが見に行った。すると慌てて俺の方へ駆け寄ってくる。


「イソ!探索部の人が至急会議室に来てくれって言っているぞ」


 今日は休日だぞ?と思いながらも10分後、俺は会議室に来ている。


 そこには探索部の有馬部長と他の職員が3人既に座っている。


「あぁ磯山くん。休みのところ悪いね。緊急だった為に呼んだのだが、まあまずは座って」


 俺は進められた部長の向かいの椅子に座る。そして動画の事を色々と聞かれたが余り説明は出来ないので曖昧に答えておく。どうやら呼ばれたのはこの件ではないようだ。


「実はですね、本日0時にまたダンジョンの門が4箇所出現しましてですね…。そこの調査を各企業から2名ずつ出して合同で行ってくれとダンジョン省から依頼されましてね。そしてウチから出すメンバーの内の1名は磯山くんをご指名なのだよ」


 これは衝撃的な話だ。しかも今度の門は東京ではなく、宮城、愛知、大阪、福岡の4箇所。この門をそれぞれ3日間調査をしてこいという事だ。しかも各企業と合同でだ。


 そしてダンジョン省直々に俺に指名が入ったって…。トウキンは当然断れないだろうな。まあなぜ俺が指名されたのかは分からないが楽しそうではある。


 ダンジョンにロマンを求めている勢に取っては未知のダンジョンに入れるだなんて楽しみ以外の何物でもない。


 そしてこれからダンジョン省で緊急会議があるので参加しに行くとのことだ。俺の相棒を選べと言うので俺は第1候補にサト、第2候補にタケを選んだ。


 サトはなんせ戦闘のスペシャリストで、タケもそんなサトに実践で鍛えられているので実力は折り紙付きだからだ。ただ本人にも確認を取ると言うことで暫くは寮で待機となった。


 サトは5班のリーダーだから厳しいかもな。通常任務も大事だからな。そうなるとタケになる可能性が高いかな。そして各企業からどんな人間が来るのか。


 俺を指名するくらいだから、ひょっとしたらご令嬢も…流石に来ないだろうな。なんせあの人は南側のエースだからな。


 他にも東側の横芝と、西の富見通にも動画に良く映っている人はいる。そして先週までは、トウキンよりも他3社の方が探索が進んでいたのも事実だ。


 そんな事を寮の食堂で考えていると有馬部長がサトには連絡がつかず、タケが来ることになったと報告が来た。


 眼の前にタケがいて、携帯で話していたのを聞いていたので分かっていたのだけど。


 そして2時間後にダンジョン省のある霞ヶ関に行くと言うので少ししてから準備をしよう。服装は隊服で良いとのことだ。


 そして今、俺達はダンジョン省の本丸の会議室に通されている。そこには既に10名程が椅子に座っている。


 隊服とスーツの組み合わせなので分かりやすいな。そしてその中に五ツ星京香がスーツ姿で座っている。


 ご令嬢は付き添いか。そりゃあそうか。でも五ツ星重工の隊服が誰もいない。前に見たマサと呼ばれていた男もスーツだ。まぁ俺には関係無いか。


「あら、これはこれは。魔導王様ではありませんか。本日の動画見ましたわよ。またど派手に魔法を放っていましたわね」


 その言葉に会議室中がざわめき立つ。あの魔法使いが俺だと知っているのはトウキン以外だと五ツ星のトップチームだけだからな。


 そして今日、俺の通り名が変わってしまったのだ。魔導王と…。それをわざわざ皆の前でばらすとは良い性格しているよな…。


「そちらこそ、生き急いではいませんか?お陰で大急ぎで亀の里を攻略する羽目になりましたよ剣姫さん」


 そしてまたざわめく。タケもびっくりしている。そりゃそうだよな。最前線で暴れまくっている動画の視聴回数トップがこんな美人だとは思いもしないだろうな。


 そこへ丁度ダンジョン省の職員達が入ってきて会議が始まる。内容は先程有馬部長から聞いていたのと同じだ。ただ1つ大幅な変更点がある。それはダンジョン省が五ツ星京香の2チームで2箇所ずつにしてくれという願いを聞き入れた事だ。


 要は4人1チームで2週間で終わらせろということだ。8人で4週間は迷惑な話しなのは確かなのだが、ご令嬢はパートナーとしてウチを名指しで指名してきた。そしてどうやらご令嬢とマサが調査隊のメンバーだった。


 確かマサはタンクだったと記憶している。そして向こうは俺が後衛だと思っている。そう考えるとバランスは悪くない。タンク1、アタッカー2、後衛1。


 後は横芝と、富見通がそれでオーケーなら確定なのだが。両社共にそれで構わないという事なので組み合わせは決まった。そして再来週の月曜日に我々のチームは福岡に行くことで話しはついた。


 まさか五ツ星と一緒に探索する日が来るとは思はなかった。この目で剣姫の勇姿を見れるとは。感慨深いものがある。タケもかなりテンションが上がっていてやる気満々だ。


 有馬部長もまさか五ツ星重工業の探索部の最高責任者が、動画の剣姫だと知って驚いていたもんな。


 まあ来週は目一杯能力上げに勤しもう。あのお嬢様に下手な姿を見せるわけには行かないからな。


 それから俺らはトウキンに帰って来て有馬部長と別れてから寮に戻る。入寮しているメンバーの半分は街に遊びに行っているようで静かだ。


 俺はタケと一緒に談話室へ行き、今持っているスキルの確認や今後の方針を相談し合った。


 まあ余り構え過ぎても肩が凝るだけだ。我々が今入っているダンジョンも、入るまでに訓練のし過ぎで手応えが無さ過ぎた程だったからな。


 新たなダンジョンだっていきなり強い敵が出てくるとは考え辛い。なのでリラックスして行こう。

 




 


 


 


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