第56話 亀の里

 リ・アースにある教会の奥の部屋。誰も立ち入ることの出来ない広い部屋の真ん中。


 そこには台座があり、その上には少し台座から浮いている直径1.5m程はありそうな所々に色の付いた黒い球が、ゆっくりと回転している。


 その球の脇には一人の青年と呼ぶには少し幼い男が青いゼリー状のスライムに座って眺めている。


 その横には何も無い空間を指で一生懸命何かを描いているような動きをしている少女がやはり青いゼリー状のスライムに座っている。


「雫〜。その今作っているエリアはここら辺に設置するからね?クネクネよく描いたものだよ…」


「うん〜分かった〜。どこでもいいよ〜どうせ外には出れない作りだからね〜!フフフ〜ン♪フフフ〜ン♪」


 なんだかとても楽しそうに雫が作っているのはどうやら迷宮のようだ。1辺が10kmの6kmある1つの巨大な迷路を3km四方に分割して上手に階層分けして階段でちゃんと繋がっている。この広さでは一週間では絶対に抜けられない作りになっている。


 この迷宮は4つの門から1層の中心に侵入し、4方向へ進んで行くのだが絶対にお互いが遭遇せずにゴールのボス部屋にたどり着くルートが4本ある作りになっている。それなのに正解の4本のルートの距離はほぼ一緒になるという。


 迷宮の道幅と天井の高さはおよそ3m。余りいっぺんに大人数が入ると身動き出来なくなる幅だと思う。


 そしてこのダンジョンは設定を変更していて魔物が倒されてから3時間で再出現する。これは再出現時の消費ポイントが上がってしまうのだが入ってきてくれる人数によっては全然気にならない数字だ。なので行きだけではなく帰りも戦闘を強いられる可能性があるということだ。


 行き止まりや魔物の溜まり場、そして魔物が入ってこれない安全な場所。そこにはスライムに乗ったフルアーマー姿の俺の石像が置いてある。


 どうやら最近の探索者の動向に飽きてきてしまった雫は、新たなダンジョンを作って楽しみたいようだ。そして門は東京以外に作るらしい。


 この迷宮ダンジョンは全6層で、最初は弱い敵で、階層を降りていけばドンドン強くなっていく。そして最下層にはボスが居る。そのボスがまた…。大丈夫か?


 そして既に完成しているのに雫はひたすら迷路を書き続けている。どうしてしまったのだ?楽しくて止まらなくなってしまったのか?多分だけど既に10の迷路を書き終えていると思うが俺にはわからない。


 でもこれはかなり面白い試みだと思う。こちらは完全に雫に任せている。上手く運用出来るのならこのタイプの迷宮ダンジョンを増やして行くのも良いかもしれない。コピペ出来るからね。


 今現在、モンスターダンジョン内に居る人間は150~200人の間位だ。国民性なのか石橋を叩いて叩いて叩いてから渡っている。これだと中々魂の回収ははかどらない。そこで登場するのがこの大迷宮だ。


 日本政府では強行突入などするはずもなく、慎重に調査隊が組まれてからにはなるだろうな。当然誰でも入れる代物では無いよな。


 国が管理して、また探索権を企業が取り合うんだろうな。そして訓練して侵入か。本格的に探索が始まるのは1~2年後くらいかな?何時かはフリーの探索者などが入ってくれると良いのだけど、まあ無いだろうな。利権問題がデカすぎる。


 そして開通はもうすぐのようだ。どうせ直ぐには奥まで来ないだろうから見切り発車で開通させるようだ。


 それでも単純に入ってくれる人数が増えればそれだけ事故も起きやすくなるし、早いに越したことはない。そして俺も知らなかった新たな設定を組み込んでいるようだ。


 それにボス部屋に辿り着いたとしても道中の雑魚とは比べ物にならないランクのモンスターがいる。


 よく鼻歌交じりでこんな事考えられるよな…。流石は我が妹だ!


「ん?何か言った?」


「ん?いや、雫は賢いな〜ってさ」


 アハハハ ウフフフ


 頑張れ、探索者達よ!



       ★★★★★



 俺たちが2層の探索を始めてから5日が経って最初の週末。


 2層の門からおよそ15kmの位置。俺らはやっとの思いで最初の集落らしき場所に辿り着いた。ここにあの設計図が有るのかはわからない。


 まじでここまでの道のりは険しかった。1番大変だったのはやはり腰高の草藪だ。これの対処として大型のナタを振り道を作りながらここまで来た。この道は後続用と、行きよりも帰りにかなり有効に使うことができる。


 正直な話し今日の討伐が成功したら、ここで一晩明かして明日の分も狩ってから帰りたいくらいだよ。まぁ明日は休日だから嫌でも帰るけども。来週の頭からはそうしたいくらいだ。


 まあそんなで今、集落の入口手前100mの位置に居るのだが、魚人エリアの討伐を行っている皆を待っている所だ。


 俺は他の隠密持ちと一緒に偵察に出る。あれから今日までの間に、隠密スキルは1冊、狙い撃ちスキルが2冊、そして「不意打ち」というスキルが2冊出ている。


 そして狙い撃ちのスキルはどうやらスキルを使って肉眼で狙いを定めて遠隔攻撃を行うと必中になるようだ。どんなに速く、複雑に逃げても射程圏内なら必ず当たる。なので狙い撃ちスキル持ちは改造複合弓を持ち歩いている。


 この改造複合弓で使う矢はフル合金製で威力重視の矢になっている。なんせ狙いはスキルで出来るので、威力だけ出せれば良いのである。そしてこのスキルをウチの班のリーダーのサトも持っている。


 この弓矢とスキルの効果で、亀の甲羅を100mの距離で撃ち抜く事が出来るようになった。甲羅の無い場所を狙えば、殺傷可能な距離が300m程に伸びる。


 そしてこの集落の住人は例の亀人間達だ。ここには偵察部隊で出会った狙撃手と近接戦闘員がいるようだ。何か本当に亀忍者の里といった感じだ。


 近づきすぎるとまた向こうから狙撃されてしまうので隠密スキルは必須だ。


 そして大体の狙撃手の位置と、里の住人の数を偵察して帰る。数はおよそ80体。狙撃手はその内の10体。まずはこの狙撃手をどうにかしないと迂闊に近づけない。


 だが今の偵察で敵に感知持ちが居ないことが分かったのも大きな収穫だ。そして俺たち偵察隊は皆に合流して今見てきた事を報告する。


 しばらくすると後続が合流してきて、全体で作戦会議をする。まずは狙撃手の位置の確認。そして「狙い撃ち」スキルの使用回数の確認。これは合計31回。これは上手く行けば31体減らせる事になる。後はタンクの位置取りと後衛の魔法とアタッカーの…ん〜はっちゃけるタイミングを打ち合わせする。


 皆で時計を合わせて狙い撃ちスキル持ちは所定の位置につく。それを守るタンクも3人。そしてコチラの本体にメインタンクが集まる。


 まずはメインタンクが一身に敵対心を集めている間に狙撃手を撃っていく。そして近接で近づいて来る敵をアタッカーと後衛で倒していく作戦だ。


 開始時間まで後3分。敵の強さはCランク。ボスが居るとすればおそらくはヘルハウンドボスと同等かそれ以上の可能性もある。


 それでも俺らもあの時より強くなっている。負ける気はしないな。




 




 

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