第53話 羊皮紙

 俺達はバトルエリアから排出される。これも強制だった。出た先はギルドだったので先に魔石をジャスト100個、ギルドに提出し、戦利品とバトルエリアのトリガーをロッカーに入れてから2層入口に転送される。


 流石にウチらばかりがバトルエリアに入っていたら不公平に思われてしまうかもしれないので、トリガーは報告して然るべき方法でバトルエリアの討伐を行いたい。


 今日は魚人の討伐には参加しないので、1層の深層で時間いっぱい魔石集めと能力の強化をする。なので1班とは別れて5班単独での探索をしてギルドに戻る。


 明日は土曜日なので休日で、魔王の動画がアップされる日でもある。


 最近の探索動画で、我々トウキン探索部はかなり出遅れているのがわかる。もちろんあの大惨事の影響が多くを占めているのだが、五ツ星の探索チームの進み具合が異常に早いというのもある。


 他の企業がどれほど犠牲を出しているのかはわからないが、そんな最前線の五ツ星の今週の探索姿が明日の投稿で見られるようになる。


 俺が勝手にライバルと決めているご令嬢が今何処でどんな敵と戦っているのか非常に興味深い。


 ウチのように現状維持で魔石の収集をメインに切り替えている企業もあれば、より先に進み、未知の技術を求めている企業もある。もちろん先に進めば魔石も大きくなるようだが、今現在5cm大以上の魔石の使い道が確立されていないのが現状だ。


 そりゃあモンスターダンジョンが現れてからまだ1年半だ。そんなにすぐに色々な活用法が確立するものでは無いみたいだ。


 それでも魔石に蓄えられているエネルギーの量はかなり研究がされていて、解明はされてきている。そのエネルギーを取り出す技術の開発を待つだけだ。


 そんな日本の現状に、一石を投じる動画が土曜日の0時に投稿された。


 それはやはり五ツ星のご令嬢チームの探索姿だった。多分草藪や低木の雰囲気から2層の何処かだと思われるのだが詳細や敵の姿などは薄くボカシが入っていて良く分からないのだが、おそらく何かの集落の様な所だと思われる。


 そこで相変わらず暴れまくっているお嬢様。武器もかなりの物を使っているのだと思われる。


 そして討伐が終わり、チェストのようなものを開ける。そこには何が入っているのかは分からないのだが1枚の羊皮紙だけがハッキリと映っていた。そこに書いてある物が世間を騒がせることになる。


 何かの図の一部だと言うことはわかるのだが、それが何を描いているのかは俺には分からない。当然ご令嬢も何これ?みたいな仕草をしているのが分かる。


 だがダンマスの編集の仕方から、この羊皮紙を見せたいという意図は感じられる。この図がわかる人にはわかるんだろうな。


 1層の中層にあるツナの巣以降、Cランクのバトルエリアと討伐内容は各社同じ内容になっている。これは競争意識を芽生えさせるるためなのか?俺達はダンジョンにいざなわれているのだろう。


 なので俺達の探索エリアにもこの巣と、同じ紙が入っているチェストがあるという事だ。


 そして五ツ星は既にそこまで進んでいるということになる。



 土曜日の朝。


 俺は寮の食堂に行く。そこには既にテレビが点いていて、朝のワイドショーが流れている。その中で夜中のダンマスの映像にあった例の羊皮紙が話題になっていた。


 どうやら何かの設計図では無いかと言われている。それもおそらくは魔石からエネルギーを抽出する装置の設計図の一部だろうと話していた。


 それって大発見になるのではないか?これで完全に五ツ星に魔石事業は持って行かれてしまった感があるな。まあ探索者である俺達にどう影響があるかは分からないが。


 トウキンが現状維持と言うならその通りにするしか無いしな。だが、今後は大きい魔石の価値が上がる可能性もある。


 大きければ大きいほど、蓄積されているエネルギーは膨大になるからだ。なのでいつでも先に進めるように準備は怠らないようにしておかねばならない。上層部の目の前に設計図という餌をぶら下げられてしまった感があるのだから。


 ウチで今までで一番大きな魔石はヘルハウンドのボスから出た15cm大の魔石になる。それでも「あの日」ダンマスが置いて行った魔石には及ばない。


 そうなるとあの日の魔石はA~上という事になる。あの魔石1つで東京の消費電力3ヶ月分だと言われていたのだから、とんでもないエネルギー量だ。東京の年間消費電力が750~800億kWhと言われているのだから。


 詳しい事は分からないが、稼働中の原発全ての年間発電量を魔石5個で補えるようなことを言っていた。


 数値が大きくなって分かりづらいが、要は凄いエネルギーが蓄えられている。


 1層の深層エリアの敵は、既に問題なく倒せるようになってきている。あそこら辺の敵でDランクと予想されているから、今の俺たちならCランクの弱めのやつなら倒せると思う。


 これは2層で能力を上げて先に進むほうが今後の為にも良いと思うのだが。ひょっとしたら3層辺りであの魔石の持ち主レベルと遭遇するかもしれないな。


 土曜、日曜は皆で上野の街に繰り出して羽目を外す。遊ぶ場所が有り過ぎて困る街だ。もちろん寮でゆっくりしたい人や、寮に住んでいないメンバーも居るので全員ではない。



 月曜日の朝。


 朝礼で、探索部の有馬部長から今後のトウキン探索部の方針が発表された。


 そこでやはり2層の探索を進めるようにと伝達される。予想通りではあるが、完全に五ツ星のあの設計図が欲しいのだろう。ダンマスの思惑にまんまとハマってしまったようだ。


 ウチとアッチでは探索地点でかなりの差が出てしまっているが、こちらは7チーム、あちらは1チームだ。


 もちろん数が増えれば速く進める訳でもなく、逆に遅くなる可能性もある。ただ、確実に進むのなら数は多い方が有利な場合があるのも事実だ。


 と思っていたところ、先週末の魚人の討伐時の状況から、5チームで討伐は余裕が有ると言うことで2層探索は3チーム、魚人の討伐は4チームで、討伐が終わり次第2層の探索をすることになった。


 どうしても魚人討伐していると午前中いっぱい掛かってしまうので、先行で3チームが探索を始めることになった。


 そして先行チームは1班、2班、そしてウチの5班となった。1班、5班は実績上外せないようで次点で2班となっている。


 先行チームはギルドで準備をしてから2層出口へと飛ぶ。


 前回はここで遠隔攻撃を仕掛けられた為に退避したのだが、今日はそれでも進む事になる。望むところだ。全員同じ気持ちの様だ。


 まずは盾役、感知スキルもち、ヒーラー、アタッカーの順で飛んでいく。


 俺は飛んで真っ先に気配感知を使うが、相変わらず何の反応もない。だが感知範囲外から遠隔で攻撃される恐れがあるので皆緊張している。


 そうしている間に皆転送されてきて全員揃い、周囲を警戒しながらまたドローンを飛ばす。


 


 


 

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