第51話 魔法専用の杖

 2層に初めて足を踏み入れてから3日。


 俺達はあれ以来、2層には行かずに魚人と深層の敵を倒しながら自分らの能力を高める努力をしている。俺は前衛のポジションでの戦闘に磨きをかけている。


 なんせウチの班のリーダーは元傭兵で、近接戦闘の指導員をしていたサトだから、実戦での戦闘訓練で直接指導を受けてメキメキと能力を伸ばしている。バックアップメンバーだったタケなど、俺から見てもかなりの実力が有るのが見て取れる。


 やはりサトは新人の指導員の方が適任だと思うのだが、本人はあの時のミスを忘れることが出来ずに最前線に出て、せめてもの償いをしているのだと言っていた。


 俺は深層で出てくるゴブリンの上位種でホブゴブリンのナイトタイプと身体強化を使わずに打ち合っている。


 ホブゴブリンとは体格が2m弱位あるゴブリンなのだが、色々な職業ジョブを持っていて、全ての能力がサメのボスと同等か、ジョブ次第では上回っている。そして3~4体で隊列を組んで行動している。


 その中でもナイトタイプは防御特化型で、生意気にもフルプレートアーマーに大盾、そしてヘイトアップのスキルを使ってきやがる。このスキルは使われるとなぜだか暫くはその対象が憎くてしょうがなくなってしまう。その間に他のホブゴブリンの奇襲を受けてしまうのだ。


 流石深層、敵もかなり強く、賢くなってきている。サメクラスの敵がゴロゴロ居るのだから能力上げにはもってこいだ。


 俺は長剣術持ちの二刀流持ちだ。これは確か五ツ星のご令嬢が持っているスキルと一緒なので、イメージとして俺は五ツ星の動画はかなりの回数見て動きを研究している。


 二刀流は両手が利き手になった感覚だ。そして攻防一体で、防いでから斬るのではなく、防ぎながら斬る事が可能となる。なので非常に敵の隙をつきやすい。


 ナイトは盾を構えながら剣を振るう。剣を左の剣で防ぐと敵の脇がガラ空きになっている。なので防ぎながらそこに剣を刺す。敵の盾は間に合わない。


 一刺し位では流石に倒れない。なので盾で隠しきれていない鎧の隙間に斬撃を出し続ける。多分魔法で戦っていればとっくに倒し切っているのだが、これは訓練だ。


 後衛だからといって後方に隠れて居たら真っ先に狙われて倒されてしまうかもしれないし、肉体を鍛えておいたほうが耐久も上がり倒されずらくなるかもしれない。少しでも生き残る為の努力をすることに無駄な事はないだろう。


 そして実はこれが非常に楽しいのだ。俺は元々こういう戦いがしたかったのだ。それがいつの間にか魔法を覚えてみるみるうちに後衛筆頭のような立ち位置だった。それはそれで構わなかったのだが、折角のチャンスだ、やりたいことをやらせてもらおう。


 敵の隙間をつきながら、防具の上からだろうとヘヴィショットを乗せてフルパワーで打ち付ける。


 すると膝を付いて前かがみになるナイト。うなじが丸見えだ。俺はそのうなじに剣を振り下ろす。スキル無しだと首を落とすことは出来ないが、意識を奪うことには成功する。そのままうつ伏せに倒れたナイトにとどめを刺して10cm大の魔石へと変わる。


 そして残りの蜘蛛の糸に絡まっているホブゴブリン達を屠っていく。コイツラもジョブがそれぞれ異なっていて、戦士、斥候、魔道師辺りのパーティだと思われる。


 そして魔石に変わったホブゴブリンが居た場所には、素材が木で出来た見るからに魔道士用杖が落ちている。


 サトが言うにはこの杖はトウキン探索部では今迄に見たことが無い武器だったようだ。これも当然会社に提出するのだが、魔石武器ではないのですぐに探索者に使用許可が降りるだろう。


 俺はどうしても試しに使ってみたい。だって絵に描いた様に魔道士用の杖なんだもの!長さが1.5m位で一本の木から切り出したようで先端が渦を巻いている。昔から何故杖の先が渦を巻いているのか謎だったんだよな。


 俺はそんな杖を握り索敵を開始する。気配感知に何かの反応が3ある。皆でそっちへと移動すると、体高で俺等と同じ位の赤黒い熊が3頭いる。向こうもこちらに気づき威嚇してくる。俺は迷わずに杖を敵に向けて3頭の真ん中にF-バーストを撃ち込む。


 するといつもより大きく弾けた感じがする。当然熊は魔石と熊1頭分の毛皮3つに変わっている。俺の個人的な体感だとこの杖で魔法の威力は1.2倍位にはなっていると思われる。


 これで並列思考で同じ魔法の2発撃ちをしたらどうなってしまうのか。F-バーストは前回50mのクレーターを作ったのだから、この杖を使えば60mになるという事だ。


 これは撃った本人も巻き込まれる可能性が出てきてしまう。この杖で射程も伸びるのなら話は別だが。


 どっちにしても帰ったら提出しなければならないので暫くはお別れだ。そして俺の元へと戻ってくるとも限らないのだが。


 こんな感じで深層も今となっては練習の場に変わっている。これならDランクのバトルフィールドも問題なく攻略出来るとは思うのだけど。


 そして深層はスキルやスクロールが非常に落ちづらくなっている。その代わり素材が大きくなり、武器防具が落ちるようになっている。


 俺らは深層で15個前後の10cm大の魔石と、ツナの5cm大の魔石を7班で分けた分と中層で移動中に出会った敵の分で大体30~40個前後を毎日ギルドに納めている。


 それから装備をしまって会社に戻る。そして本日回収した素材と杖を提出してミーティングルームへ入る。


 そこにはすでに新人達が楽しそうに談笑している。そして俺らを見るなり3本の瓶を見せてきた。


 それは黃、紫、黒の液体が入っている。能力値アップの液体だ。賢さ、器用、力の液体だ。久し振りに見た。それでこれがどうした?上がる能力についてはすでに周知なはずだが。


「これ、是非皆さんに使ってもらいたいんです。俺らは皆さんの通った道を通らせてもらってるんですから。これからもガンガン進んで下さい」


 いやいや、俺らより明らかに君等にこそ必要なアイテムだと俺は思うのだが…。俺はサトに目配せする。


「ありがたいですがこれは貴方達が使ってください。その方が効果が実感出来ると思いますよ?我々はじっくりと能力を上げている所ですから」


 サトがそう言って断ってくれた。俺達も頷いて「そうだそうだ」と相槌を打つ。


 でも気持ちはありがたく頂いておくよ。彼等のためにも先に進みたい所だ。


 そしてミーティングが始まり、先日提案したDランクのバトルフィールドへの突入の許可が降りた。それも明日の朝一番という事になっている。




 

 


 


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