第50話 ジョブの存在

 皆に緊張が走る。俺は気配感知のスキルで周囲を探るが仲間以外に反応はない。


 この気配感知というスキルは、使うと目の前のタブレットに生命反応が赤い点で表示されるのだ。そして器用と賢さに補正が入る。


 だが俺の器用と賢さの数値だと、もうこのスキルを使っても上がらない。なのでこのスキルで感知出来る範囲は今現在の半径50mで頭打ちのようだ。


 半径50mより外から我々のドローンを狙い撃ちしてきたのだ。かなりの威力と命中率である。


 盾役を殿しんがりにして我々は門の手前で構える。しかしその後何かが飛んでくることは無かったので門を通ってギルドへと戻った。


 ここはしっかりと準備と対策を練らないと待っているのは死なのだ。慎重にならねば。


 俺達はギルドに魔石を預けて着替えに行く。俺のロッカーはあの頃から場所も中身も変わっていない。装備を脱いでロッカーに入れて行くと、黒い珠が有ることに気づく。


 その珠にはDと書いてある。


 あ!忘れてたわ…。Dランクバトルエリアの珠だ。このバトルエリアに入る前日にあの大惨事が起きてしまい、俺はそのまま入院してしまったので忘れてしまっていた。


 前回のCランクの時は、ボス犬を倒した報酬として魔石武器の長剣と今現在1班の盾役のヒサが使っている盾が出たようだった。


 武器は魔石武器だった為に研究機関に回されてしまったが、盾は素材の研究データを取り終わったあとは探索者に使用許可を出してくれた。武器ももちろん研究が終われば我々探索者に使用許可をもらえる物だと思っている。


 そして盾の素材は地球には存在しない金属で出来ている様で参考にならなかったようだ。この金属がダンジョンから一定量産出されればまた話は変わってくるのだろうけど。


 魔石武器の研究が何処まで進んでいるのかは分からないが、いつかきっと我々探索者の力になってくれると信じている。


 そんな武器がバトルエリアから出たのだから、この珠だってCランクよりは劣るかもしれないが、バトルエリアに入れるには違いないのだ。それならば折角なので行ってみたい。


 Dランクは魚人のボスと同ランクだと思われるので今の我々なら攻略出来ないはずはない。これはこの後のミーティングで提案してみるしかないな。


 俺は装備を仕舞い、トウキンのミーティングルームへと移動した。最近は新人探索者達の報告を聞くのも仕事の1つとなっている。


 その新人達の中には、動画サイトで俺の魔法を見て、俺に憧れて入って来たメンバーも居る。俺はそんなに大層な者ではないのだが。


 そんな新人が5班25名、今はまだ辞職した元探索者達を指導員として一緒に纏まって蜂の巣、蜘蛛の巣、蟻の巣、ゴブリンの集落を廻っているようだ。


 1日に端から端まで歩くのだから、かなり鍛えられる。それでも皆の表情は明るい。きっと俺達も最初はあんな顔をしていたのだろう。


 1班のリーダーのアキが2層の事について報告する。まあ実際は2層に立ち入ってドローンを撃ち落とされて帰ってきただけなのだが、2層に立ち入ったという事に意味があると思う。


 しかもギルドから直接2層に飛ぶことが出来る事もしっかりと報告する。


 この報告に対してトウキン側からは逆にどうすれば良いのか相談された。当然会社としては魔石を多く納めてくれればそれが一番良いわけで、2層を探索する、しないはどちらでも良いというスタンスに感じる。


 それは当然だと思う。我々1期35名が纏まって動いて2層の敵一匹倒したところで何の意味もない。それならまだ中層の魚人から深層を手分けして探索したほうが利益につながるだろう。会社は俺達の浪漫の為にお金を出している訳では無いのだから。


 それならと、俺はDランクのバトルフィールドのトリガーについてどうすればよいか確認を取る。これは一回許可が降りた事案なのでまたすぐに許可が降りるかと思われたが保留とされた。


 これはCランクの時の大惨事があったからだ。これも当然か…。人の命に関わる決断になるのだからな。まあ俺達は死ぬつもりは1ミリも無いのだが、会社側はかなり及び腰になってしまっている。


 なので俺は独りででも良いから行かせてほしいと懇願する。俺なんてちょっと前までは居なかった存在なのだ。また俺が独り居なくなったところで大差は無い。そう会社側に伝える。


 皆目を丸くして驚いている。すると元同じ班のアキとヒサも入ると言い出した。この珠の所有権は元1班の物だ。なら当然この二人にも入る資格はあるのだが、こうなってしまうとまた元の及び腰に戻ってしまう会社側。アキは今や1班のリーダーなのだから俺とは立場が違うでしょうに。結局答えは出ずに、本社で確認するまで保留となり、解散となった。


       ★★★★★



「しずく〜!遂に北側も2層に辿り着いたよ!」


「え〜やっと来たんだね!あんなことがあって1番最後だったから心配したんだけどね〜」


「本当だよな〜。あの人も復活出来たようだし。雫は見た?あの人の復帰戦のF-バースト。」


「見たよ〜!あれ凄かったね!島ごと吹き飛んじゃったかと思ったもんね!あれってスキルの影響なんでしょ?」


「なんか並列思考っていうスキルを自然に覚えているようなんだよね。Cランクバトルフィールドの後で覚えた事になっているんだよ。リア、こんなことも有るんだね?」


『はい、今回は磯山幹久の脳が大きなダメージを受けた後、強制的に修復されたために右脳と左脳を繋ぐ回路が変わってしまった可能性が有ると思われます』


「ふ〜ん、よく分からないや!それよりも兄ちゃん、掌握したここら辺のスペース余ってるでしょ?私使ってもいい?」


「あぁ、構わないよ。そんな狭いところでいいの?」


「ここでいいよ。狭いと言っても1辺3kmは取れそうだし階層重ねて遊ぼうかな。それよりもエデンはどう?」


「ん?あぁ、種族を増やしてからは特に変わりは無いかな?」


 リ・アースのエデンには元々5種の獣人を作ったのだが、更に兎人、狐人、狸人、羊人、そして獣では無いが俺の趣味で竜人、の人型を作ってこちらも大人型2、子供型2体の計20体増えている。


 これで一先ず種族は増やす事はせずに人数だけ調整していく予定だ。


 そして面白い事に、鍛冶師のジョブを与えた獣人が石を削り武器やナイフ、採取道具を作り始めたのだ。


 そして調理師のジョブを与えた獣人は、ナイフでウサギの血を抜き、皮をはぎ、肉を焼き始める。そして果物を煮て甘味を作るではないか。これは早急に塩の取れる場所を作ってあげなければならなそうだ。


 農耕師はすでに食べられる食物を見つけて調理師の所へ運んでいるし、裁縫師はウサギの皮を燻煙でなめし、葉っぱの繊維等を編み込んで作った服に貼り付け始めている。


 こうなるとウサギの皮だととても小さく大量に必要になってきてしまうので、少し前に鹿の様な動物と牛の様な動物を作り放ってある。角が獣人に刺さると危ないので角は丸めてある。


 まあある程度の衣食住はこちらで用意したので生活環境は整ってはいたのだが、この様に生活が発展していくとは思いもしなかった。


 このジョブとは面白いものだな。アイテム欄には進化の薬という物があるのだ。これを探索者達に与えるとどうなるのだ?


 まぁそれよりも俺は鼻歌交じりに雫が書いている落書きのほうが気になってしょうがない。なんせいつもろくなことが起こらないからね…。



 

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