第46話 その後

 俺はコズと2人で浅層を探索している。ここら辺は雑魚ばかりなので全然手応えがない。なので今となってはデートみたいなものだ。でもこれが仕事なのだから良い職場だ。


 不思議と何の音もしないし、コズが俺に話しかけているのだが何も聞こえない。


 それでもコズは、楽しそうに俺に色々と話しかけてくれている。コズの笑顔が眩しい。


 突然景色が変わり、朝日を浴びながら俺はベットの上で梢と添い寝しながら喋っている。


 不思議と何を喋っているのか全然聞こえない。ただ、この時間がとても愛おしく、とても幸せな時間だということは感じている。


 梢は俺に向かって微笑んで「愛してる」と言ってキスをしてくれる。声は聞こえないのだが口の動きでわかる。


 だから俺も「愛してる」と返すと嬉しそうに俺に抱きついてくる。あぁ、本当に幸せだ。



 扉をノックする音が聞こえてくる。


 俺は2人の時間の方が大事なので気付かないふりをする。だが梢が「行って」と言っている。


 俺は「いいよ、面倒くさいし」と言うのだが梢は今度は少し強めに「行って」と言う。


 俺は「分かったよ、まったく…」と言って身体を起こす。



 するとまた景色が変わり、俺は薄暗い部屋でベットの上に寝ている。周りに梢は居なくなっていて代わりに変な機材がある。


 腕には何か針が刺さっていて、袋から出ている管が繋がっている。指の先には指パッチンの様な何かが付いている。


 頭は朦朧としているがとりあえず梢を探す。するとまた誰かが扉をノックする。


 今度は返事もしていないのに扉が開き、何処かで見たことのあるオジサンが入ってきた。


「おぉ、磯山さん!目を覚ましましたか!良かったですよ、あれから1ヶ月寝たきりだったんですよ!とりあえず先生を呼んできますからね」


そう言ってオジサンは出て行った。確かあの人は……。佐藤顧問?1か月寝たきり?俺は段々と状況を思い出してきた。そうだ…梢はもう居ないのか…。そして最後に俺を起こしてくれたのか?


 起きてから、異常に頭の中で色々な事を考えては答えがでて整理されていく。


 今まで経験したことが無い程の頭の冴えだ。考えるのを止めようとしても、止めようとすることについて考えて答えが出てくる。


 そんな事を考えていると医師とナースを連れた顧問が入ってくる。


「磯山さ〜ん。気が付きましたか〜。ず〜っと寝たきりだったんですよ〜」


 先生に声を掛けられながら、俺にこの指は何本に見えるか?など質問してくるので俺はそれに答える。その間にナースさんが、カーテンを開けてくれた。そして「安静にね」と言って先生と一緒に出て行った。


 外を見ると夜だった。佐藤顧問は仕事終わりに来てくれたのだろう。


「暫くは安静にしていてくれと言っていましたよ。探索者だからといって脳の障害は怖いですからね。それよりも良くぞ目覚めてくれました。心の底から嬉しく思いますよ」


 佐藤顧問はそう言って俺に頭を下げてきた。


「私の不注意から、多大な迷惑を掛けました。謝っても許されないでしょうが私には謝ることしか出来ませんので」


「いえ、顧問の責任ではありませんよ。そもそもあのバトルエリアに入ったのは自分の意志ですから」


「いや、それでも…」


「いや、それ以前に珠を拾ったときに顧問に渡した自分にも責任があります。あの珠の扱いは自分の方が慣れていたのに、何も言わずに渡してしまった自分の責任でもあります」


「……磯山さん…」


 顧問は目頭を抑えて言葉を詰まらせてしまった。


「……あの後、どうなりました?」


 その後の顧問の話に、俺は涙せずには居られなかった。


 梢の首が飛んだ後、ヤスとヤマも犠牲になってしまったようだ。最前線に出ていたのが仇になってしまったようだ。最終的にあのバトルフィールドでの殉職者は6名となったと聞いてしまった。


 その後も顧問に色々とあの後の事を聞いた。皆の葬儀の様子やお墓の場所。トウキンでも慰霊碑を建てている所だという事。


 そしてドロップ品や魔石の大きさ。前に見つけたナイフの支払い。会社からのお見舞金など。


 そして佐藤顧問は顧問の職を辞した事。どうやら今は探索者として5班のリーダーをやっているらしい。そして新たな探索者達。


 そして1期の探索者の何人かは辞職したということ。心が折れてしまったのだろう。それでもトウキンで雇用してくれていて、今は内勤をしている者や、新人の指導員として働いている者も居るようだ。


 今は俺を抜かして24名、それプラスバックアップチームが10名。随分寂しくなってしまったな…。


 今後の俺の身の振り方をしっかり考えるように、と言って佐藤さんは出て行った。


 俺はどうしたいのか…。俺の目標は何だったのか、もう一度良く考えるときが来たのかもな。


 そもそも俺は、ダンジョンに入りたかっただけだった様な気がする。昔から好きだったweb小説に憧れていただけではなかったのか?命など掛ける覚悟など端から無かったのではないか?コッチだって殺してるんだ。殺される側になることも有るのは当然なんだ。


 それともこの考えが愛する人や、大切な仲間の死を間近に見て、自分でも死を体験してしまって心が折れてしまっているだけなのではないか?


 それは死者への冒涜になるのではないか?俺の頭の中では凄まじい量の情報が駆け巡っている。とはいっても、知っている情報以外は特に無いのだが。それでも過去に見た思い出は鮮明に思い出せる様になっている。


 そこには梢の笑顔が弾けている。この笑顔だけは色褪せないだろう。俺は幸せだったよ。



 翌日、ヒサとアキが見舞に来てくれた。入ってくるなり、いきなり頭を下げて御礼を言ってくる。あの時、俺が居なかったら全滅していたと言ってくれた。どうやらあの時の俺の行動は伝説として語られているようだ。主に酒の席で。


 そしてどうやら二人はまだ探索者を続けている様だ。俺が帰ってくるのを待っていると言ってくれた。そして俺が寝ていた1ヶ月間の事を色々と話した。


 今はメンバーの入れ替えがあって、1班はアキをリーダーにヒサと他に3名を加えて探索をしているようだ。


 そして今やあの時苦労して倒したサメ野郎も7チームで討伐しているようだ。そしてなんと深層を探索中らしい。


 深層の敵はあの時戦ったサメ野郎レベルがバンバン出てくるらしいのだが、今のところ何とか出来ているようだ。そしてウチのエリアと他の企業のエリアを分けている壁の存在。


 そこまで進んでいるのか…。もう俺の居所は無いのではないか?当然1ヶ月の差はデカいだろうしな。辞め時かな…。


 そんなことが何故か俺の頭をよぎった。やはり俺の心は折れているのかな…?


 するとヒサが携帯を取り出して、見てもらいたい動画があると言ってくる。それは例の動画サイトにある魔王オフィシャルの動画だった。


 


 


 


 



 



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