第38話 決着

 血管の浮き出たサメがマサに向かって突進していく。凄い速さと迫力で手に持った槍を突き出す。静香の蜘蛛の糸で少し遅くなってるとは言え、流石のマサも躱せないと判断したのか、盾を構えて体勢を整える。あの槍をまともに防いでは盾とマサが保たないだろう。

 槍が盾に当たる瞬間に45度に盾を構えて上手にいなす。武道の心得のあるマサならではのテクニックである。


 しかし槍はいなせてもサメの突進は止まらない。勢いそのままにマサに体当たりをして、そのまま壁まで走り抜ける。壁とサメに挟まれてマサも口から血を吐くのが見えた。


 マズイ。攻撃で内蔵を潰してしまったようだ。急いでポーションを飲ませてあげなければマサも戦線離脱してしまう。そうなったらもう攻略は無理だろう。


「静香!私がサメを引き付けます。マサにポーションを」


 と言い残して、身体強化を使いサメに向かって走る。まさに今、噛みつこうとしているサメの目玉に剣を突き刺す事に成功する。


「ギャーーー!!」と悲鳴だか雄叫びをあげたサメが盾を投げ捨て左手で目を覆い、槍を見境なく振り回す。


 その隙に静香がマサを少し離れた所まで運び、身体を起こして口元にポーションの瓶を充てがう。マサは意識が有ったようでホワっと光った後にすぐ目を開き立ち上がる。


 まだ見境なく暴れているサメから距離を取り、田中とヒデの様子を伺うと、ヒデは脳震盪を起こしていてまだ目を覚まさないが、田中は戦線に復帰してくる。


 念の為もう1本マサにポーションを飲ませておく。サメも自分でヒールをかけたようで血は止まり、落ち着いたようだった。しかしヒールでは欠損は回復しないので、サメは片目になっている。当然だがその残りの片目が完全に怒っている。


 田中が魔法を撃ち始める。サメは先程盾を捨ててしまったので腕でガードをしているが、田中の魔法の威力に徐々に押されて下がっていく。


 ここが勝機と私達も飛び出してサメに剣戟を加えていく。マサもサメの正面に入り敵からのヘイトを一身に受け持つ。


 サメは槍で我々の剣戟を躱しているが盾が無い為、徐々に我々の攻撃が通り始める。それでも硬い皮膚により剣が致命傷を与えられない。静香の「ヘッドクラッシュ」や、私が死覚からの「不意打ち」を使って攻撃しても、致命傷にはならずに回復されてしまう。


 そしてハイドロボールを連打してくる。初撃はかわせても、かわした先にまたボールが飛んでくる。しかも大きくスピードも速い。


「お嬢!」とマサと田中が叫ぶのが聞こえたがそれどころではない。躱すのは無理なタイミングとスピードで飛んでくるボールを私は身体強化を使って左右の剣で切り刻む。


 案外行ける!と私は確信し次々に飛んでくるボールを全て切り刻み消していく。敵だってスキルには使用回数が有るはずで、いつかはそれこそ弾切れになるはずである。


 サメも、ボールを全て切り刻まれてしまったことに焦りの色を浮かべている。それでもありったけのボールを私に向かって撃ち込み始めるが、私が全て剣で斬って消していくのを見てサメは怒りを露わにする。


 ホワっと光り、血管が浮かび上がる。身体強化の魔法なのだろう。私に向かって槍を振り上げ突進してくる。


 まだ身体強化の残っている私はそれを躱し、剣をボディに突き刺すが敵も身体強化中の影響か刺さりきらず、回復されてしまう。


 マサがスキルでヘイトを取ってくれて、敵のターゲットが私からマサに変わった瞬間、地面から火柱が上がる。田中の魔法だ。


「ギャーーー!!」とまたサメが叫んでいる。ここで一気に攻め込む。


「静香!行くよ!」とだけ声を掛けて、火にまみれているサメを左右からスキルを使って滅多刺しにしていく。


 不意打ちを使い首辺りに剣を突き刺し、静香がヘッドクラッシュを使い燃え盛るサメの頭に剣を振り下ろす。


 サメの残った目がクルンと白目になった所ヘ、「行く!!」と田中の声が聞こえたので三人は飛び退く。そこへ風魔法が燃えているサメにぶつかった途端に大爆発した。


「ひえ〜〜」と静香。

「うぉ〜〜」と田中とマサ。

「きゃ〜〜」と変な声を出してしまった私。


 爆煙が晴れていき辺りを見渡すがサメは居なくなっていて、10cmくらいの魔石とスキルブックと魔法スクロール、素材のサメのヒレが落ちている。周りにも7~8cmの魔石が3個にスキルブック、素材の白身魚の切り身が2柵落ちている。


「やった…」と静香がつぶやくのが聞こえた。

「やりましたな!」とマサも喜んでいるのか声が大きい。

「ええ、やりましたね」と力強くうなずいて皆を見回す。

 

 あの魔法は何だったのか?「爆炎の帝王」程の威力は無さそうだが爆発はした。ひょっとしたら魔法の組合せで新たな魔法が出来るのか?今までは組み合わせるまでもなく倒していたから気付かなかったのか?


「田中、先程の魔法の組合せは?」


「はい、えっとフレイムという火炎魔法にエアブラストという圧縮風魔法ですね」


「そうですか…何かヒントになりそうですね」

 そう言って取り敢えずドロップ品を回収して、一旦外へ出る。ヒデはマサに担いでもらっている。倒れた木があるのでそこへ腰掛けて一息つく。


 2本の剣を見てみても刃がボロボロになっているので、カバンから簡易式の特殊な素材の砥石を剣に充てて刃を研ぎ出す。

 マサと静香にも砥ぐようにと指示を出しヒデの様子を伺う。息はしてるのだが意識が戻らない様だ。ボールが直撃して壁に頭をぶつけてしまったようだがヘルメットをしていたのが良かった。ヘルメットは真っ二つに割れてしまったが役目は果たしたようだ。


 拾ったスキルブックと魔法スクロールを見てみる。

 スキルは「三段突き」と「気配感知」というスキルだった。三段突きが多分クエが落とした方だ。三段突きなんて普通に私は使っているのだが何が違うのだろう?スキルは使用してみないとわからない所がもどかしい。静香にあげよう。


 「気配感知」はそのままサメの特徴で、微弱な電流を感知して動く物の気配が分かるのであろう。これはマサですね。


 そして魔法は「フィジカルアップ」と「フリーズ」


 フィジカルアップ。これはボスが使っていたように、他人にも使えるのだろうが、血管が浮き出すのはちょっと嫌だが…。だが戦力アップとしてはかなり上昇することは確かだろう。これは田中が良いかな。


 フリーズ。これはランクの高そうな魔法だ。おそらくアイシクル系よりも上だと思われる。


  少し休んでから建物の中を探索するため、私と田中は赤ポーションを飲んでスキルと魔法を回復しておく。我々の持つ赤ポーションは残り2本となる。青ポーションより出づらいので実は貴重なのである。それでも戦闘になればスキルと魔法が生命線になるのだから惜しむことはしない。


 ヒデを静香に診てもらっておいて、私、マサ、田中で建物の中に入る。


 マサに「気配感知」のスキルブックを使ってもらいそのまま中を探索するが、敵の気配は感知されず、三階に宝箱が有るだけだった。しかも鉄では無く銀である。


 マサに静香を呼びに行ってもらい、ヒデも担いで連れてきてもらう。静香に黙って宝箱を開けた日には不貞腐れそうで怖いので…。


 静香の到着を待ってマサに宝箱を開けてもらう。宝箱にトラップがあった時の為にスキル硬化と魔法のプロテクトを使って盾を構えている。イザとなれば田中の回復魔法が飛ぶから安心して開けてください。


 ギギギギッと重そうに蓋が開き、中が露わになる。中には赤ポーション5本、カカトの外れた表面に金属が貼られた革のブーツ、そして黒い珠が1つ入っている。


 赤ポーションは非常に有り難い。ブーツの方は何故カカトが外れてるのかは解らないが装飾は品がある。それよりも黒い珠が何なのか解らない。


「わぁ〜これアーティファクトだよね!可愛くていいね〜!でも何故カカトが外れてるのかな?」

 と静香がブーツを持ち上げて観察している。田中とマサも首をかしげてる。


 私は黒い珠が気になっている。ピンポン球くらいの大きさで、ビンテージ風アルファベットで「C 」と書かれている。

 これが何であるか解らないが、じーっと見つめていると脳内に『ここでは使用出来ません』と機械的なアナウンスが流れる。








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る