第35話 五ツ星 京香 3

 探索13日目の朝


 五ツ星重工業探索部は毎朝朝礼から始まる。


「それでは皆さん。いつもの様に安全第一で頑張りましょう」


 私はいつもの様に朝礼で挨拶をし、皆と一緒に探索のために転送門でダンジョンに移動する。


 私の居る「チームA」は、二日前から中層域の探索を始めていて、すでに森の入口から約25kmの位置まで進んでいる。


 中層域の敵の特徴も掴めてきているので、今日は30kmを目指して進む予定である。


 ウチのメンバーは、近接の私と運動神経抜群の静香に、盾役に我が家の世話役のマサとヒデ、後衛に運転手の田中でチームを組んでいる。

 リーダーは私だが、最前列で戦うので、大雑把に指示をして、細かい指揮とバランス調整は最後列の田中に任せている。


 戦闘スタイルとしては、マサがスキルで敵を全て引き付けてる間に、もう一人の盾役のヒデが1匹づつ引き抜いて、私と静香で殲滅していく戦法を取っている。


 私達の武器はロングソードと呼ばれる全長1m程の西洋の剣をモチーフにして、五ツ星重工の最新技術の粋を集めて製作された長剣を使用している。

 切れ味だけでなく、丈夫で適度な重量にも気を配られ、当然広告塔の意味合いもあり見た目も美しく気品溢れる武器となっている。


 ボディスーツの素材も改良が加えられ、その上からベストの形に軽量金属を貼り付けたアーマーを着込み、外装に同じ金属が使われている腕ガード、グローブ、太腿、ロングブーツを装備している。


 中層域に入って本日最初の獲物の大蛇が現れる。

 この大蛇は体長は5mくらいなのだが、頭が普通の5mサイズのアナコンダ等より2倍は大きく、胴回りも成人男性の太腿程ある。


 そして身体はこまかいが非常に硬い鱗に覆われていて、剣で斬り付けても滑る様に流されてしまう。


 だが私にはそんなのは関係無い。斬るのがダメなら突き刺すだけである。

 長剣を両手に1本づつ持ち、同じ箇所を連続で突いて行くと、鱗が弾け飛んで行き、剣が突き刺さる。刺さった剣をそのまま横に薙いで胴を半分斬り、残りの剣で残り半分も切り捨てて魔石に変える。

 

 この蛇は素材に鱗の付いた皮を落とすので静香にとっては有り難いみたいだ。


「現在のアーマーにこの鱗を張り付けたら可愛いよね!」


 と静香が自分で言って、フンフンと鼻息を荒げる。スケイルメイルを目指しているようだ。可愛いかは私には解らないが、黒い鱗の鎧なら素敵で品のある装備ではある。


 その後も狼、豚人を倒していき肉を手に入れながら奥へと進んでいくと、スライムと遭遇する。


 このスライムが厄介で、剣で斬り付けても突いても弾力で弾かれてしまう。だが魔法には弱い様で、田中の火魔法でトロケていく。


 消える直前に強酸を吐き出すが、避ければなんてことはない。初見でさえ我々は誰一人喰らわなかった。分かっている今となっては言わずもがな。


 厄介なのがもう一つあって、このスライムが落とす魔石がゼリーまみれで取り出すのに苦労するところだろうか。本体は消えるのにゼリーが消えないのが納得行かない所だがしょうがない。トングを持参しているのでそれで拾い上げる。


 今日の目標は30km地点なので、少しペースを上げていく。と言っても敵を殲滅しながらなのでたかが知れている。


 その後にまた大蛇が現れたのだが、今度は静香が殺るというので譲る。静香も近接攻撃スキルは何個か覚えているので安心して見ていられる。


 まず縮地というスキルで敵との距離を一気に縮め、頭に向かって長剣で斬りつけると、頭が真っ二つに割れた途端に弾け飛ぶ。


 スキル「ヘッドクラッシュ」だ。頭への攻撃が成功すると、場合によっては今のように弾け飛ぶ。ただ静香の身体能力から発せられる剣撃に耐えられた敵は今のところ皆無だ。


 鱗皮がまたドロップしたと大喜びな静香が可愛く愛らしい。他のメンバーも鼻の下を伸ばしている。


 そして更に進んでいくと、初めて足を踏み入れる場所に到着する。そこには木々に囲まれた沼がある。沼の周囲には、小さな白い花が密集して咲いていて、幻想的に見える。


 横幅は多分100mくらいありそうで、中央には陸地があり、そこにも木と下草、小さな花が生い茂っている。そしてその木々の周りや隙間から明らかになにかが動いているのが見える。その奥には巣のような建物まで見える。


 軍用スコープで覗いてみると、おぞましい敵がそこには居た。


 魚人である。カツオかマグロの様な顔、形に体長は1m50くらいで、完全に魚の身体にヒレが成長したような腕と脚が生えている。 


 胴体は垂直なのに顔は正面を向き、尻尾は反対側に向いている。そして槍を持って歩いていたり、水に入っていったり、倒れた木に座っていたりしている。


 島にだけで50尾?匹?は居る。数え方が解らないので匹で行こう。水の中にもいるだろうから100匹は居るかもしれない。巣の中にも居るかもしれない。

 あの人の魔法なら、あたり一面吹き飛ばせるのだろうか?と最近は意識してしまう。


 取り敢えず一旦退いて、作戦会議をする。まずは魚人の強さを確かめるのが最優先で、1匹だけを釣り上げたい。

 沼に近づいてみると、人の影に反応したのか30匹くらいが一斉に襲いかかってくる。


 こうなってしまったらやるしかない。乱戦こそ私が最も輝くステージである。前方以外はマサとヒデが盾でガードをしながら私が囲まれない様に排除してくれる。田中の指示だろう。

 

 静香のスキル蜘蛛の糸と鱗粉で、敵の先頭周辺の敵の動きが遅くなる。その隙に私が2本の剣で斬り捨てていく。


 魚人が遠目から口を開き、野球のボール大はある水の塊を吐き出してくる。


 それを剣で叩き落としながら、敵を袈裟に斬り、返す剣で隣の魚人を右切上げ、その隣に剣を突き刺して蹴り飛ばす。


 敵の槍を剣で弾きながら、唐竹から右薙、逆袈裟から左薙、袈裟から逆風。


 スキル「身体強化」からのスキル「バトルダンス」で、次にどう動くのが理想的なのか、頭の中にイメージがどんどん湧いてくる。幼少の頃より習ってきた剣舞と相まって滅多斬りにしていく。


 静香も、剣を振り回しながら、大暴れしているのだろう。「キャハハハハ」と笑い声が聞こえてくる。鱗粉吸ってない?テンション上がりまくっているようで楽しそうだ。


 最終的には50匹を超える魚人を殲滅していた。ドロップ品は5cm大の魔石と魚の切り身?魚人の切り身なのか?気持ち悪くて私は食べられなそう。赤身の部分から徐々に薄くピンク色をしていて、まるで赤身から大トロの様な色合いである。それと5cmくらいの魚の鱗が大量、それとスキルブックと氷魔法のスクロールが出ていた。


 スキルブックが気にって見てみると、「ハイドロボール」というスキルだった。

 間違いなく魚人が使っていた口から水で出来た野球ボールを撃ち出す技だろう。


 能力値によって強力になるだろう。静香をみると目が欲しがっているので使ってもらう事にする。敵の技系スキルは出にくいが、一番最初の討伐だと比較的出やすい感じがする。しかもこれだけまとまって棲息していれば1個は出てくれる様だ。

 それでも敵はまだまだ居る。ボスもまだ巣の中だろうし。


 



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る