第30話 ディーの意志?

 はっきりと断りを入れさせてもらった所、逆にビックリされた。もしや断られると思ってなかったのか?それとも俺が面接で落とされたと言った所に引っ掛かっているのか?


「まさか我社にエントリーして頂いていたのですか…非常に申し訳ない事をしたみたいですね…」


「いや、ですから恨んではいませんって。ただ先程も言った様に、五ツ星には…と言うか他の探索部には行きませんのでお引取りを」


「そうですか…残念です。他の皆さんもご一緒に五ツ星に来て頂きたかったのですが…」


「私達も?行かないよ?」

 とコズがキョトンとして言う。


「うん、行かないねぇ」「うんうん」

 と皆も頷く。


「ワッハッハ。お嬢、こりゃ無理ですよ。引き上げましょう。浪漫のためって言う野郎は動かせませんぜ」

 マサと呼ばれる男が豪快に言う。


「わかりました。それでは今日の所は引き返しますが、また近いうちに伺います。私は貴方を諦めませんよ」


 そんな言い方するとまたコズが…とチラッと見てみると、「ガルル」と唸りながら威嚇してるっぽい。


「あらあら、随分と嫌われてしまったようですね。所で磯山さんは気付いていますか?ダンジョンの意志を」


 ん?ダンジョンの意思?意志?考えたこともないし、当然何のことか見当もつかない。


「ダンジョンの意思?意志?」


 まさかあの有名なDの意志か?ゴム藁のムギーさんでお馴染みの?確か1年前くらいに最終回を迎えたとか騒がれてたな。結局海賊キングにはなれなかったとかなんとか。「なれないんかい!」と皆が突っ込んでたから覚えてる。何処か別の世界線ではキングになれますように。そんなことを考えていると、

 

「意志ですよ。その様子だと気付いていないようですね。ウフフ、それではまた近いうちに」

 と言いながらウィンクをされて、ドキッとしてしまった。く〜。俺もネット民を馬鹿に出来ないなこれじゃ。クッソ!俺はDTじゃないぞ〜!


 車の前まで見送りに出る。一応監視も含んでいる。最後まで怪しい行動は一切無く、優雅に一礼して車に乗り込んで去っていった。


「ダンジョンの意志って何だろう」と独りごちる。


「なんだろうな。意志なんて感じた事も無いけどな」

 とヒサが平然と返してくる。


 皆も首を傾げて考え込む。でも考えてもわからないので買い物に行こう。


        

        ★★★


 トウキン工業を出て、五ツ星重工業探索部への帰りの車内で


「ダンジョン探索初日、敵2~3匹倒したら私の得意な剣のスキルブックが出て、その日のウチに身体強化、二刀流、バトルダンスとまさに私にとってはうってつけのスキルまで出る事自体が、何か私を中心に回っているとさえ思えていたんですがね」

 と京香はつぶやく。


「どうやらあちら様もダンジョンにより優遇されているように見えてしまうんですよね、

それがきっとダンジョンの意志に依るものの様に」


「あの魔法や武器なんて、私達や他の探索部はあの動画で初めて存在を知ったくらいだもんね」

 静香もうんうん言いながら納得してくれている。


 ダンジョン探索は始まったばかりだ。我々の知らない事がこれからも沢山出てくるのだろう。

 すでに自衛隊からの報告とは大分違いがあると思われる。

        


        ★★★



 その後の買い物では、やたらコズがくっついてくる。これがデレってやつか?


 やたら五ツ星さんに対抗していたし、もしやコズ……。


 そんな事を考えながら、買い物も遊びも終わり、皆で帰ろうとしていると、コズが二人で夕飯食べ行こうと誘ってきた。断る理由も無く、近くのイタリアンに入る。


 ツマミを食べながらワインを飲み、今迄でのことや、これからの事などの話で盛り上がる。


 大分アルコールが入って来たところでコズが「イソはアッチに行かないよね?」と目を潤ませながら上目遣いに聞いてくる。


 朝方の五ツ星の事だろうと思い、


「もちろん。俺はトウキンで探索者をやってる事が楽しいんだ。それにコズや1班の皆と探索してるのが良いんだよ」

 と言い、コズの頭をなでる。


「イソ〜〜好き〜」と抱きついてくる。

 そしてトドメの一言を頂く。


「…今日は帰りたくない」



 大事な事だからもう一度言う。


 俺はDTではない!そこまで言われたら当然致す!


 きっと五ツ星さんの態度や言動が、コズを刺激してしまったのだろう。当然俺もコズが好きだ。内定もらった後に、一番仲良くなったのもコズだしな。


 寮は男子、女子で一応は分かれてるけど、皆大人達だ、監視員が居るわけでもないし、寝泊まりしても別に何も言われない。

 それでも寮で致すのは流石に気が引けるので、近くのホテルで一緒に朝を迎える事にしよう。




 翌日月曜の朝。探索11日目。

 

 やたら朝日が眩しく感じる。そんな中をコズと一緒にホテルを出て、寮の食堂へ行き朝食を取る。

 別に周りも特に何も気にしていない様な、いつも通りの雰囲気だ。


 それよりも今日から中層域への探索が始まる事への期待の方が高いみたいで、食事中は何が出るかなど、その話題で持ち切りである。


 朝食を食べ終わり、支度をしてから朝礼へと移動する。

 そこには、約一週間の療養を終えた3班がフルメンバーで待っていた。

 死の一歩手前まで行っていた状況を考えれば、引退するかもしれないと思われていた。

 それをどうやら恐怖を克服し、また探索者として活動していくようだ。

 少し身体を慣らしたら、我ら1班と一緒に蜂の巣討伐をする事になった。

 

 そして朝礼では今後の注意点などを話し、現在新しい装備品の準備をしていると伝えられ、皆歓喜の声をあげている。

 どうやら新装備は、我々探索者が日々納めている魔物の素材と、高硬度を誇る工業用ダイアモンドを混ぜた特殊な液体でコーティングした金属を使った代物らしい。よくわからないが…。多少重くても我々探索者にとっては何てことない。


 その後準備運動をしてから本日も探索スタートである。


 まずは日々の日課である巣の討伐をする。中層に行って何が起こるかわからないので俺のあの魔法は温存しておく事にして、主にアキがハルバードを振るう。周りで他のメンバーが銃や魔法で援護して討伐完了。魔石とドロップ品を回収してから、いよいよ中層へ向かう。


 まず今日の目標は20km~25km辺りの探索と定めて進む。歩みは早足で、ウチの班は索敵が出来るので、そこまでビクビクしながら進むわけではない。ヤマの超音波も今では半径30mは把握出来るようなので頼りになる。余程移動速度の速い敵でもない限りは不意打ちを喰らうことは早々ない。


 奥に向かって20km地点に着く頃には、周りの樹々は一本一本が太くて高くなり、間隔が広がっている。それでも空?が見えないくらいに枝葉が広がっていて鬱蒼としている。


 多分ここら辺からが中層域の入口なのだろう。何が出るか楽しみである。





 






 


 


 


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